朝ドラ『ばけばけ』今週の見どころと感想をレポ
朝ドラ『ばけばけ』ご覧になられてますか? ヒロイン・松野トキを演じるのは髙石あかりさん。「耳なし芳一」、「ろくろ首」、「雪女」──日本人なら誰もが知る怪談の数々を文学へと昇華した、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻、小泉セツがモデルです。怪談を愛する夫婦の、何気ない日常を描く物語。
朝ドラ大好きOggiチームきってのNHK「連続テレビ小説」ウォッチャー、ライター・朝 ドラ子が、毎週『ばけばけ』にグッときたポイントを自由きままに語りたいと思います!
前回のレビューはこちら:ヒロイン一家がまさかの炎上!?市民の手のひら返しがひどすぎる|『ばけばけ』第18週
に、に、に、錦織さん…(涙)第19週「ワカレル、シマス。」を振り返ります

錦織さん、錦織さん、錦織さん…! 第19週はまさに「錦織週」。ひとりでニヤニヤうれしそうな錦織、必死すぎてもはやコミカルな錦織、悲壮感が後ろ姿からもビシビシ伝わる錦織…。吉沢亮さん、すごすぎませんか!?
錦織さんがヘブン先生に抱く想いは人一倍。これまで幾度となく先生のために奮闘し、先生の発言に一喜一憂し、ともに仕事に励み、もしかして錦織さんがヒロインなのかな?というほどです。それも、ちょっと重ための(笑)。そんな彼にとって、「ヘブン先生が松江を離れ、熊本に移住しようとしている」という知らせはまさに寝耳に水。「松江中の錦織&ヘブン」がなくなる未来なんて想像すらしていなかったのでしょう。あの手この手で先生を引き止めようとしますが、それは叶わず…。
錦織さんなら、熊本まで追いかけて行くガッツもありそうなもの。ですが「帝大卒」と経歴を偽って教師になった彼は、松江の外で働くことは難しいのかもしれません(だからこそ、「松江中から帝大生を輩出する」という目標にあんなにも熱くなるのでしょう)。いうなれば錦織さんの「原罪」が、こんなかたちで壁となって立ちはだかるなんて…。松江始まって以来の秀才と呼ばれ、たくさんの生徒に慕われながら、本当は何の資格も持っていない。そんな彼の心の穴を埋めるよりどころが、ヘブン先生の親友であり、リテラリーアシスタントという立場だったのかもしれない。切ない。
ふたりの別れまでの一連の流れは、とくに胸を抉られました。ヘブン先生の熊本行きを受け入れ、生徒の前で自身の真実を打ち明ける。教室を去る錦織さん、追いかけるヘブン先生。錦織さんは、静かな悲しみと、絶望と、あきらめのような表情を湛えていて──。ふたりの「青春」が、確かに終わったような瞬間。グラグラ動くカメラワークも映画のようで…大スクリーンで観たかったです。
真のヒロイン・おトキちゃんはといいますと
同時に、突然の熊本行きを打診されたおトキちゃんの心の動きも描かれます。降って沸いた「ラシャメン疑惑」で、心無い誹謗中傷にさらされたおトキちゃん。騒動は落ち着いたものの、彼女の心の傷は癒えておらず。街の人の視線が気になり、顔を隠さないと出歩けない。ふとしたことでフラッシュバックが起こり、パニック状態に陥る…そんな彼女を守るため、誰も自分たちを知らない街でやり直すことが、ヘブン先生の目的でした。ですが、「マツエ、サムイ、ジゴク…」と理由をごまかすヘブン先生。おトキちゃんの心の傷に、いたずらに触れないためなのでしょう。
案の定ヘブン先生の本意がわからないおトキちゃんは大反対! つらい目にあってなお、松江は彼女の大切な故郷。そして、愛する家族が暮らす街なのです。いや〜おトキちゃんにはきっと、「何があろうとこの街で、この人たちを私が背負わなきゃ」という認識がずっとあるのだろうな(銀二郎との1回目の別れのときもそう!)。
もちろんそれは純然たる愛情なのだけど、どこか「共依存」のような状態にも見える。家族と離れ離れになることに、「なして私のすべてを奪おうとするんですか!」と動揺する姿からも、それが伝わってくるような気がしました。「家族のために生きる」が自身のアイデンティティになってしまっている。そうでなくなることが、おトキは漠然とおそろしいのかもしれないですね。でもな、おトキちゃん、世界は広いんだぜ。松江も家族も確実にあなたの一部だけれど、「すべて」では、きっとない。おタエさまの言うとおり、もっと自分のために、正直に生きたっていいんだよ。
そして、人は変わるものなのです。おタエさまと三之丞は、不器用ながら生きる力を身につけていっている。おじじ様は、何よりもおトキちゃんの心の平穏を願っている。お互いを信頼しているからこそ、離れたって、きっともう「大丈夫」なのです。ヘブン先生に真実を言うよう促して、最終的におトキちゃんの背中を押すのがおじじというのもいいですね。物語序盤はおじじのイヤ〜な面も目立ったものでしたが、さまざまな出来事を経ておじじにも変化があって。近頃では、おトキちゃんの本当の幸せを、いつも考えてくれる人になりました。
ヘブン先生の真意を理解し、そして家族の想いを受けて、「自分のため」におトキちゃんも熊本行きを決意します。知らず知らず自身に課していた「家族のため」という枷をようやくはずして、踏み出すまっさらな未来。親友・おサワとの涙の別れも相まって、これもまた切なく美しい「青春の幕引き」のように感じるドラ子でした。
さて、次週の『ばけばけ』は…「アンタ、ガタ、ドコサ。」
青春の終わりは苦く切なくもあり、新たな自分と出会える未来の予感でもあり。でも、錦織さんはどこへも行けないんだよな…。彼にとっては、ヘブン先生との日々が本当に「すべて」だったのかもしれない。熊本へ出発するおトキ&ヘブンの見送りに、錦織さんは現れず。自室にひとりたたずむラストシーンは圧巻でした。突然の喀血、無表情で遠くにやる目線。吉沢亮さん、目線の表現が本当にすごいんですよ!! ヘブン先生に最後に渡したプレゼントである、虫の声だけが響き渡り…錦織さん…(涙)。生きてさえいれば、人はきっとやり直せると思う。だから生きて、私たちに希望の未来を見せてほしい!
そんなわけで、「松江編」が完。それは確かに、もう戻れない青春の日々でした。次週からは、新天地・熊本編がスタートです。
「朝ドラウォッチャー」ライター・朝 ドラ子
NHK「連続テレビ小説」(通称・朝ドラ)をこよなく愛するアラフォー。毎日退勤後に録画をじっくり観るのが日課。会議でのアツい朝ドラコメントが「天才的なウォッチャー」と編集長に認められ、この連載を開始。歴代ナンバーワン朝ドラは『スカーレット』(2019年度後期放送)。



