俳優・山本耕史さん インタビュー
「楽しんでいれば道は拓ける」舞台の上で歌い踊ることの意味
幼いころから親しんだエンターテインメントの世界。山本さんにとって、舞台の上で歌い踊ることには、特別な意味がある。心折れそうになったときでも、置かれた場所でやるべきことをひたむきに続けることの大切さ、そして楽しんでいれば道は拓けることを教えてくれた。
それを声高に言うことはないけれど、何より今のマルチな活躍ぶりが、それを証明している。
音楽の中に、本音や思いが詰まっている
山本さんが初めて大舞台に立ったのは、10歳のとき。日本初演のミュージカル『レ・ミゼラブル』だった。いつもドラマや映画で私たちを楽しませてくれる山本さんだが、そのルーツは舞台にあり、数多くのミュージカルやストレートプレイにも出演してきた。
そのキャリアに、今年新たに加わるのが、10月に開幕する音楽劇『浅草キッド』。ビートたけしの師匠だった伝説の芸人・深見千三郎を演じる。
「原作はたけしさんの小説ですが、これほど舞台向きな作品はありません。今回の演出では、昭和歌謡、ポップなダンス曲、ジャズ… といろんな音楽が、演劇の間に入ってくる。
そして面白いのは、セリフだけでなく音楽の中に、本音や思いが詰まっているということです。
明るい曲の中に切なさが見えたり、スローな曲でありながら幸せがにじんできたり。こうした楽しみは、音楽劇ならでは。ミュージカル鑑賞に抵抗がある人でも、楽しめると思いますよ」
今回の出演作について、山本さんは「やることが多い」と表現している。が、これまでやってきたものと同様に、すべてスマートに、粋にこなすはずだ。今の山本さんにはそう期待させる風格がある。
今いる場所で力を蓄えていけば、おのずと次の場所が拓けてくる
同世代の俳優たちをうらやんだことも
「仕事を始めたときから、大きな組織や劇団に属さず、個人事務所で活動してきました。俳優とは本来ひとりで歩むものだという思いがあったからです。
もちろん、大きな組織にいてこそできることが多いのも、わかっていました。だから僕は、舞台や時代劇など、若い俳優が少ない場所、好まない仕事を選んでやってきた。結果的に、それはよかったと思います。
地道に活動しているころ、同世代の俳優たちが派手に遊んでいるのを見聞きすると、うらやましい一方で、どこかダサいなと思う自分もいました。そうやって尖っていないとやっていられなかったこともあるし、少し腐っていたかもしれません。
けれど、ヤケになったり廃れることはありませんでした。
どんなに不利な状況だとしても、無理して新しい場所を探すより、今いる場所で力を蓄えていけば、おのずと次の場所が拓けてくる。強がりではなく、本当にそう思っていたのです」
大仕事を終えた20代終盤。30代は、ひとりでの再出発から始まった
山本さんにとって30代は、力を蓄えつつ、改めて「活躍の場は舞台」だという思いを固めた時期だった。
「同世代の仲間と大河ドラマ『新選組!』の大仕事を終えたのが、20代終盤。僕の30代は、その後ひとりで再出発することから始まりました。
とにかく休みなく働いて、あのままいっていたら、死んでいたかもしれないっていうくらい無理をして。でも、決して仕事のために生きているわけじゃない。
一生懸命働いたら、そのぶん一生懸命遊んで。そして、求められなくなったら辞めればいい。その思いは、ずっと変わっていません」
ちょっと無理して、自分と向き合う時間を
そして今。各局のさまざまなドラマ作品、ネット配信作品に出演。同時に映画や舞台出演をし、10〜11月に音楽劇『浅草キッド』を終えたら、年明けにはヴァイオリニスト・古澤 巌とのタッグが話題となったコンサートツアーの第二弾も控えている。
「僕のやり方はね、疲れているとき、忙しいときこそ、ちょっと無理をする。
朝8時から仕事なら、逆算して6時半からトレーニングして、人より先に回転数を上げておくんです。すると仕事が始まる時間には、ひとつ宿題を終えてる気分で、気持ちに余裕もできます。
トレーニングでも勉強でも、趣味でもいい。ちょっと無理して、自分と向き合う時間を持つこと、みなさんにもおすすめします。それが楽しめると、同じ趣味の人とつながったり、意外と周囲との関係性も深まるものです。
我が家では子供に何か強要することはないけれど、僕がギターを弾いていると、子供が見よう見まねで弾きだしたりして。関心は親が育てるものじゃなくて、おのずと育つもの。大事なのは、僕自身が楽しんでいる姿を見せることなのだと思います」
楽しむ背中を見せながら、あとに続く人へエールを贈る
後輩からアドバイスを求められたときでも、「答えは自分で探すものだよ」と返すのだそう。そう言いながらも、山本さんが舞台の上で輝く姿は、あとに続く人たちの道標にもなっている。
人は育てるものじゃなく、育つもの。それは、後輩へ向ける優しさであり、山本さんならではのダンディズム。そして、音楽劇『浅草キッド』の師弟関係における大きなテーマでもある。
音楽劇『浅草キッド』
ビートたけしの青春自伝『浅草キッド』を原作にした初の舞台化作品。下積み時代の青年・武を林 遣都、その師匠・深見を山本耕史が演じる。笑いに人生をかけた芸人の生き様を、歌やダンス、コント、漫才で表現する。10月8日東京・明治座を皮切りに、大阪、愛知でも公演。チケット販売中。
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【衣装】ジャケット¥24,970・パンツ¥15,950(アバハウス 池袋パルコ店〈アバハウス〉) シャツ¥5,940(アバハウス 池袋パルコ店〈マイセルフ アバハウス〉)靴¥13,200(アルフレッド・バニスタールミネエスト新宿店〈アルフレッド・バニスター〉) 帽子¥12,650(CA4LA プレスルーム〈カシラ〉) ベルト/スタイリスト私物
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2023年Oggi11月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/三宮幹史(TRIVAL) スタイリスト/笠井時夢 ヘア&メイク/西岡和彦 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
山本耕史(やまもと・こうじ)
1976年生まれ、東京都出身。1987年ミュージカル『レ・ミゼラブル』のガブローシュ役で注目される。以降の代表作には、NHK大河ドラマ『新選組!』『真田丸』『鎌倉殿の13人』、ドラマ『ひとつ屋根の下』シリーズ、『華麗なる一族』、『きのう何食べた?』シリーズ、『ハヤブサ消防団』、映画『シン・ウルトラマン』ほか多数。