俳優・木南晴夏が語る、仕事の楽しさ、休む意味、そして家族との時間
自分の将来が見えなくて、ずっと不安だった20代
「働くことが大好き。忙しいのも大好き。休みがあると不安になってしまうほどでした」と自身の仕事観を振り返る木南晴夏さん。ただし、それは30代を迎えるまでのこと。
「お芝居の仕事を始めたのは18歳のときでした。自分から望んだことではあったけれど、すぐに仕事があるはずもなく…。オーディションを受けては落ちてばかりの毎日でした。なんでもやります!と意気込んではいても、将来も見えなくて、ただただ不安で。
22歳のとき、ヒロイン役をやりたくて映画『20世紀少年』のオーディションを受けたときも、選ばれたのはヒロインの友達。正直、“また友達か”とガッカリしたものでした。
友達役なら散々やってきたし、ヒロインじゃないなら意味がない。違う仕事を考えたほうがいいのかもしれない。そう思って『やりたくない』と言った私に、『ヒロインでなくても大事な役だから』と背中を押してくれたのは、当時のマネージャーでした」
映画『20世紀少年』シリーズでの木南さんの演技は高評価を得て、自身の代表作となった。その後、“ヒロインの友達”だけではなく、姉妹や仲間、後輩や上司など物語に欠かせない役割を担うように。
リアルで親近感のある、木南さんだけの「仕事」がいつしか確立されていった。
不安だったとき、『絶対に大丈夫』と言ってくれたのは家族だった
ブラウス¥50,600・スカート¥79,200(メゾン・ディセット〈DAWEI〉)靴¥116,600(ジャンヴィト ロッシ ジャパン〈Gianvito Rossi〉) イヤーカフ¥20,900・コインネックレス¥22,000(マリハ) その他/スタイリスト私物
「私にしかできないことがある。そう思えたら、ひとつひとつの仕事がありがたくて、幸せで、すべて断ることなく受けようと決めました。ひとつ仕事が終わると、次はどうなるかな、と不安を抱えながらも、20代は夢中で走り続けて。
もし、最初から主演やヒロインで、仕事は求めなくてもやってきて…という環境だったら、違っていたことでしょう。
だから、30代になって子供を持つとき、いっときでも仕事を離れるのは、ものすごく不安でした。世の中から忘れられちゃうんじゃないか。復帰できないんじゃないか。そのとき、『絶対に大丈夫』と言ってくれたのが、家族でした。
育児も家事も、母親だけが背負うのではなくて、夫をはじめ、家族… 両親もきょうだいも、みんなで協力し合えばいい。何かあれば遠慮なく助けを求めるようになりました。
そうやって乗り越えてきて今、子供が描く家族の絵は、パパ・ママだけじゃなく、おじいちゃん・おばあちゃんまで入った大家族! です」
私の人生、仕事しかないと思っていたけれど、案外そうでもなかった
ひと息ついたその先に、これまでと違う世界が開けることもある
コロナ禍や働き方改革とも相まって、世間の「休むこと」の意識が変わってきたことも、後押しになった。木南さんは、1年間という自己最長の休みをとって、仕事に復帰した。
ベスト¥82,500・スカート¥121,000・靴¥115,500(パラグラフ〈Plan C〉)イヤリング¥45,960(ホアキン・ベラオ) ブレスレット[手首側]¥33,000・ブレスレット[肘側]¥39,600(ブランイリス トーキョー〈blanc iris〉)
「休むことに負い目を感じる必要もないし、今ならそのすばらしさを堂々と語ることもできます。もちろん、子供と過ごしていれば、自分ひとりの時間はほとんどないけれど、だからこそ仕事も趣味も、ものすごく集中できるとわかりました。
もし、仕事に夢中で立ち止まることが怖いという人がいたら、思いきって休んでみることを、おすすめしたいです。心のどこかで休みたいと感じているなら、なおさら。ひと息ついたその先に、これまでと違う世界が開けることもあるから。
私は、育児の合間をぬって、絵画教室に通い始めました。何も考えず、絵を描くことだけに集中するのは、貴重なリフレッシュ時間です」
「キナミのパン宅配便」をプロデュース
30代になって新たに始まったことに、「キナミのパン宅配便」もある。子供のときからパン好きだった木南さんがプロデュースする、パンの定期便。実際に食べて選んだパン(しかも全国津々浦々の)が、木南さんのメッセージカードと共に届くというサービスだ。
「大人になった今思うのが、パンがそこにあるだけで、大人も子供もみんなが笑顔になれる。食卓が明るくなって、ハッピーな気持ちになれる。
宅配便で届けるパンは、どれも私がみなさんにおすすめしたいもの。なかなか行けない場所の小さなパン屋さんも含め、日本全国をパンで旅することができます。私自身が大好きな食パンなどシンプルなものはもちろん、甘いパンやおやつ系も混ぜて6〜8個が一回に届けられます」
やりたいことも焦らずいったん置いて、温めておく時期があってもいい
さらにその先、木南さんが目指すのは、大好きな絵とパンをドッキングさせて「パンの絵本をつくること!」。今となっては、俳優の仕事も、パンに関わることも、「好き」でやっているので、仕事という感覚から離れつつあるという。
「少しずつ、趣味を楽しむことに近くなっているかもしれません。そして、映画も舞台も、とやりたいことはたくさんあるけれど、焦らずいったん置いて温めておく時期があっても、いいんじゃないかな。
今いちばん幸せなのは、子供の言動を見て大笑いしている時間。大人では思いもよらない発想、行動が面白くて、発見の連続です。
そして私の人生、仕事しかないと思っていたけれど、案外そうでもなかった(笑)。もしかしたら、これが最大の発見だったのかもしれません」
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2023年Oggi8月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/YUJI TAKEUCHI(BALLPARK) スタイリスト/中井綾子(crêpe) ヘア&メイク/坂本志穂 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
木南晴夏(きなみ・はるか)
1985年生まれ、大阪府出身。2004年に女優デビュー。代表作に、映画『20世紀少年』シリーズ、『百年の時計』『闇金ウシジマくんPart2』、連続テレビ小説『風のハルカ』『てっぱん』『マッサン』、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ、『おいハンサム!!』『君の花になる』『ブラッシュアップライフ』など。食生活アドバイザー3級・パンシェルジュ2級を取得。