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LIFESTYLE

2024.10.30

【読書の秋】忙しくても本は読める? 本の専門家に聞いた「読書方法」から「イチ推し本」まで

最近本を読んでいますか? 日本で一番書籍が売れた80年代から打って変わり、バブル後から現在の令和の時代にかけて書籍の販売部数はずいぶん減少しているそう。それでは、現代ではなぜ本が読まれないのでしょうか。また、忙しい日々の繰り返しの中どうやって読書ができるのか…? 今回は、改めて知ってほしい読書の魅力を文芸評論家・三宅香帆さんに教えてもらいました。

働きながら〝本を読む〟ということ

ピンポイントで情報を得たいなら、ネットでいいかもしれない。でも、思いがけない出合いや、キャリア、人生に深みをもたらしてくれるのは…? 読書の秋に考えたい、「働きながら〝本を読む〟ということ」について。

今回の先生は…

文芸評論家・三宅香帆さん

▲文芸評論家・三宅香帆さん
みやけ・かほ/1994年生まれ。京都大学大学院在学中に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)で書評家デビュー。著書に『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(笠間書院)など。

本を「読めない」理由には壮大な歴史と社会背景が…!?

Oggi編集部(以下Oggi):三宅さんのご著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が話題を呼んでいます。私も「本を読みたいのに、ついスマホゲームばかりしちゃう」って共感していました。

三宅さん(以下敬称略):ありがとうございます! 私も今でこそ年間365冊読んでいますが、IT企業で働いていたときは、本がまったく読めていなくて。「もっとじっくり本を読みたい!」と4年半で会社を辞めたんですよ。

Oggi:読書のために退職⁉

三宅:私にとって読書は人生に欠かせないものなので(笑)。人によってはそれは推し活や趣味、家族との時間だったりするかもしれません。でも読書は特に、現代の働き方と相性が悪いんです。

Oggi:どういうことですか?

三宅:仕事は基本的に、時間やエネルギーを効率よく使って、最短距離でゴールを目指しますよね。一方で本は、どんな情報が得られるか、事前によくわからないという性質があります。

たとえば森鷗外の『舞姫』という作品も、タイトルだけでは、まさか舞姫がこっぴどく捨てられる話だとは思わないじゃないですか。

小説に限らず、本には主題以外の歴史的背景や社会的文脈、著者の価値観など予期していなかった、いわば〝コントロールできないノイズ〟が詰まっていて、仕事で疲れている人にとっては負荷が大きすぎるんです。

積み本
(c)AdobeStock

Oggi:確かに、結論にたどり着くまでに〝余計な〟時間や労力がかかって、めんどうに感じてしまうかも。でも…昔だって人は働いていたのに、本はもっと読まれていたんですよね?

三宅:はい。そもそも、本に求められていることが、今とは違ったんです。明治時代から昭和の戦後まで、読書は仕事の成功に必要な〝教養〟を与えてくれるものでした。

もともとはエリートたちが〝自分を高めるもの〟として親しんでいて、そのうち中産階級であるサラリーマンたちも、教養を示すステータスとして文学全集をこぞって買うようになりました。

読書を通して、エリートの仲間入りや出世を目指したんです。

Oggi:なるほど、仕事のための読書、という認識だったのか…。

三宅:1960年代以降の高度成長期になると、〝娯楽〟としての読書が広まりました。テレビドラマの原作がベストセラーになったり、通勤電車の中でサラリーマンたちが司馬遼太郎の文庫本を読んで自分を鼓舞したり。

’80年代には村上春樹や吉本ばななの作品などミリオンセラーが続出。日本人は今よりずっと長時間労働をしていましたが、日本で本がいちばん売れていたのはこの時代です。

読書の立ち位置の変化

Oggi:忙しくても、読書を楽しむ余裕はあったんですね。

三宅:状況が大きく変わったのは、バブル崩壊後の’90年代後半以降。特に2000年代に入ってからは、一世帯当たりの書籍の購入額が明らかに減りました。

インターネットの台頭で読書時間が減った背景はもちろんあります。でも興味深いのは、〝自己啓発書〟の売り上げが反比例するように伸びたこと。

Oggi:…というと?

三宅:そのころ日本は長期にわたる不景気の時代に突入して、終身雇用制度は崩壊。仕事も人生も自己決定・自己責任が重視されるようになりました。その結果、会社から強制されなくても「もっと頑張れるはず」と自分を追い詰めて、疲弊してしまう人が増えたんです。

そんな中で、〝ノイズ〟=自分でコントロールできない情報が多い文学作品などより、読む前から「こういう情報を得られる」とわかりやすい自己啓発書のほうが好まれるように。キャリアや〝自己実現〟に役立てようと、明確な目的をもって読む人が増えたんですね。

行き交うサラリーマン
(c)AdobeStock

Oggi:キャリア観と読書が、そんなに密接に結びついていたとは。

三宅:自己啓発書も、全然アリなんですよ。でも、私にとって読書の魅力は、「自分でも気づいていなかったけれど、私はこんなことが知りたかったんだ」という発見にあって。

自分とは異なる価値観と出合うことで、実生活では許容できないことも本を通してなら許せたり、他人の言葉が手に入ったり。すごく簡単な言葉にすれば〝想像力〟が培えるんですよね。

Oggi:でも…「読書は苦手」という人もいますよね?

三宅:もちろん。たとえば私が苦手な運動をすすめられたら「そんなこと言われても…」と思います。文字より動画のほうが情報が頭に入りやすいという人もいるでしょうし。

でも「本当は本が好きなんだけど、気力がない」という人には、ぜひもう一度、本の魅力を思い出してほしいな、と思っています。

木漏れ日と読書
(c)AdobeStock

Oggi:ちなみに、自己啓発書を読む以外にも、読書って仕事にも役立つと思いますか?

三宅:はい! 〝今〟に特化したネット上の情報と違って、書籍は長期的な視野を養うのにぴったり。長年読み継がれてきた古典もありますし、書店にしばらく並ぶことを見越して書かれているので、時代を超えた知見も得やすいと思います。

小説の主人公に自分を重ね合わせて、「自分は人生で何をしたいんだっけ?」なんて壮大なテーマと向き合う、なんて読み方もできると思いますよ。

どうしたら働いていても本が読める?

Oggi:三宅さんみたいに会社を辞めなくても(苦笑)、働きながら本を読むコツはありますか?

三宅:根本的には仕事への向き合い方を見直す、ということになりますが、今すぐできることもあります。まずは、スマホに電子書籍のアプリをダウンロードすること。

SNSアプリの横に置いて、無意識にSNSを開きそうになったら、すぐ横の電子書籍を開くクセをつけると、読書習慣を取り戻すきっかけに。なんなら最初はマンガでもOK。

個人的にはiPadで本を読み始めたのが革命でした。スマホより文字が大きくて読みやすいし、寝転がりながらでも立ちっぱなしの電車の中でも、すき間時間で読みやすい! 今では本の3割は電子で読んでいます。

電車でスマホを眺める女性
(c)AdobeStock

Oggi:電子といえば、最近はオーディオブックを聴いている人もいますね。

三宅:実は江戸時代までは、読書といえば朗読を聞くことだったんですよ。印刷技術の発達で本が大量に普及して初めて、個人が黙読する読書が広まったんです。

Oggi:オーディオブックが、古典的な読書方法だったとは!

三宅:書店にもぜひ足を運んでほしいです。書店は自分の好奇心を思い出せる場所。自分が今、何に興味があるのか見えてきますし、たくさんの本を見るとなんだかんだでテンションが上がるもの。会社の帰り道に、定期的に立ち寄ってみては?

Oggi:何を読んだらいいかわからない、という人は?

三宅:SNSの「#読書記録」「#読書好きな人と繫がりたい」といったハッシュタグで検索するといいですよ。有名なインフルエンサーじゃなくても、「この人のおすすめなら読んでみたい!」と思える人をフォローしてみて。

スマホに指でタッチする女性
(c)AdobeStock

Oggi:ちなみに私、海外文学の登場人物の名前が覚えられなくて。

三宅:私も覚えるの苦手です(笑)。海外文学に限りませんが、1回ですべてを理解しようとしなくてもいいと思いますよ。ざっくりあらすじをつかんでから、2回目、3回目と読み返してこそ気づける楽しみもあります。

「1回目はスルーしていたけど、この表現は何かを暗示しているんじゃないか」なんて想像が広がったり。私は『源氏物語』を読み返すたび、違う登場人物に共感するのが楽しいですね。

Oggi:上級者! でも、読み返すも何も、買ったままの本がたくさんあって…。

三宅:私もです。でも、「読みたいけれど、読めない」「趣味を楽しみたいのに余裕がない」という感覚は、自分がどれだけ疲弊してしまっているのかを測るバロメーターでもあると思うんです。

そんなときは無理して読まなくてもいいけれど、ひと休みして働き方を考え直してみてもいいかもしれません。〝読書〟という行為を通して、そんなことも頭の片隅に入れてみては。

Oggi:本の話から、働き方の話へ! 読書と仕事の心地よいバランスを探ってみたいと思います!

本を読むポイントまとめ

「人物名を覚えるだけで大変な海外文学は、最初からすべてを理解できなくてOK。翻訳者によっても雰囲気がガラリと変わるので、パラパラと読み比べて、自分に合うものをセレクトして。これぞという本はぜひ再読を! 私は印象に残った言葉や違和感を持ったページの隅を折っておき、2回目に『そうだったのか!』と気づくことも」(三宅さん)

【三宅さんイチ推し】働く私たちが今こそ! 読みたい本

『月まで行こう』

書籍『月まで行こう』

著/チャン・リュジン 訳/バーチ美和 光文社

「暗号資産イーサリアムにハマるアラサー女性3人を描いた、韓国のベストセラー小説。相場のアップダウンにハラハラし、豪遊するシーンにスカッとし…。〝お金とは何か〟を問い直しつつ、最高にエキサイティング!」

『上流階級 富久丸百貨店外商部』

『上流階級 富久丸百貨店外商部』

著/高殿 円 小学館

「百貨店の外商員として働く女性のストーリー。部下のマネジメントや実家問題など、世代には共感ポイントがたくさんあるはず! 仕事や人生に対する姿勢を学べる、働く女性による働く女性のための小説」

『紫式部日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』

『紫式部日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』

著/紫式部 編/山本淳子 KADOKAWA

「紫式部が宮仕えの日々を綴った日記。仕事をしない同僚に、上司のセクハラ…。高校生のときに読んでも到底理解できなかった〝職場への愚痴〟が面白いんです。『源氏物語』の前に読むのがおすすめ!」

『風と共に去りぬ』

書籍『風と共に去りぬ』

著/マーガレット・ミッチェル  訳/鴻巣友季子 新潮社

「南北戦争前後のアメリカで、時代に翻弄される女性の半生を描いた名作。勝ち気でバイタリティあふれる主人公の生きざまは、国も時代も超えて働く女性に〝刺さる〟ものがあるのでは。落ち込んでいるときにもぜひ」

覚えておきたいキーワード

「読書」に関連するワードや知っておきたいワードをピックアップ!

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

書籍『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

近現代の日本における労働と読書の歴史をひもとき、〝働いていても本が読める社会〟を提案する、三宅さんの近著。「大人になってから本が読めなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」と悩む人は必読。集英社。

自己啓発書

能力の向上や精神的な成長、成功のための指南書のこと。「他人や社会といった、自分でコントロールできないことは捨て置き、自己の行動によって変えられるものだけを変えていこう、という姿勢が最近の主流」

オーディオブック

オーディブル/オーディオブック

本の朗読を聴けるサービス。家事や通勤など、〝ながら〟で本を楽しめることから、アマゾン・Audible、オトバンク・audiobook.jpなどを中心に、2010年代後半から利用者が拡大。人気俳優や声優が朗読するコンテンツも多数。

朗読

本が貴重だった当時、読書は声に出して共同で楽しむものだった。「森鷗外は自身の恋愛を綴った『舞姫』を家族に朗読していたそうです」 句読点の発明など〝読みやすさ〟の追求とともに、黙読が普及していった。

●掲載している情報は2024年9月10日現在のものです。

2024年Oggi11月号「Oggi大学」より
構成/中村茉莉花、酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部

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