「ノンアル」は働く私たちの強い味方♡
お酒を飲んでリラックスしたいけど、酔って時間が溶けたり、翌日に残るのはイヤ! そんな私たちの救世主が、どんどん進化していました! 専門家に、奥深い「ノンアル」の世界について伺いました。
今回の先生は…
▲ノンアルコール専門商社 アルト・アルコ 代表 安藤 裕さん
あんどう・ゆう/1991年生まれ。一橋大学在学中に渡仏しワイン商社でインターンを経験。卒業後、ワイン商社を経て、2018年にノンアルコール専門商社を創業。著書に『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』(誠文堂新光社)。
そもそも〝ノンアル〟ってどんな飲み物のこと?
Oggi編集部(以下Oggi):相変わらず暑い日が続きますね~。仕事終わりにビールをグビッといきたいところですが、酔うとダラけてしまうのが困りもので。ノンアルビールからノンアルハイボールまで、種類が増えているのは知りつつ……おいしいですか? 昔は微妙な味だった印象が(苦笑)。
安藤さん(以下敬称略):最近のノンアルはおいしいですよ(笑)。僕もお酒は好きですが翌日に残るのがイヤで、最近はノンアルを間に挟んでいます。ひと口目は多少違和感があっても、ふた口目は気になりません。最近は飛行機のビジネスクラスでも、ノンアルワインを提供する航空会社が出てくるほど。
Oggi:ビジネスクラスのお墨つき! そもそもノンアルコールドリンクって何を指すんですか?
安藤:日本の酒税法では、「アルコール分1度以上の飲料」が酒類。つまりアルコール度数1度未満なら〝ノンアルコール〟になります。
Oggi:でも、ソフトドリンクをノンアルとは呼ばないですね。
安藤:明確な定義はないんですが、アルコールの味わいや香り、お酒を飲むシーンを想定してつくられているドリンクを〝ノンアル〟と呼ぶのが共通認識でしょう。酔いたくない、または運転や妊娠などで飲めないけれど、「お酒の味や高揚感は好き」とか「食事とのペアリングを楽しみたい」といった人が楽しめるようにつくられています。
アルコールが1%未満含まれる〝微アル〟のほか、欧米で人気の〝コンブチャ〟のような発酵飲料も、ノンアルに分類されることが。最終的にはメーカーが「ノンアル」と銘打つかどうか、なんですが。
技術の進化とともに味わいがグンとUP!
Oggi:ノンアルドリンクって、いつごろからあるんですか?
安藤:いちばん古いのは100年以上前、アメリカで禁酒法が成立したときにつくられた、ビールからアルコール分を飛ばした〝脱アルコール〟製法のビールです。
ただ広く定着はしなくて、日本でノンアルコールの市場ができたのは、時代が飛んで2009年。飲酒運転の厳罰化が進んだころに、アルコール分0.00%のビールが登場したのがきっかけでした。
Oggi:たぶん、私の記憶はそのころの味で止まっていました。
安藤:これも爆発的に広まりはしなかったんですが、その後’15年、イギリスでノンアルの革新的なスピリッツが誕生したんです。スピリッツとはジン、ウォッカ、ラム、テキーラなど蒸留酒のこと。
新興メーカーが、脱アルコール製法ではなく、ハーブやスパイスなどを使って味わいや香りをアルコールに寄せていく〝インフュージョン〟製法を取り入れたことで、一気にクオリティが上がったんです。その結果、〝ドンペリ〟を手がけるような大手企業もノンアルに投資するようになり、世界的な市場が拡大しました。
Oggi:インフュージョン製法のほうが、おいしいんですか?
安藤:脱アルのほうがそのお酒らしさは残ります。ただ、アルコールを抜くのと同時に、香りや味わいの成分も抜けてしまって、複雑なフレーバーが失われがち。大規模な設備が必要で、大手しか参入できないという障壁もあります。
一方インフュージョンは、もとのお酒とは別物かもしれませんが、複雑な味わいが楽しめます。小規模なメーカーが個性を打ち出しやすいという背景もあって、数年で数百単位のノンアルメーカーが誕生したんですよ。
そうこうしている間に、脱アルのビールも改良されて、今では一度除かれてしまった味わいや香りの成分を抽出して戻す、という技術も使われています。もはやノンアルがないお酒はないくらい、種類も豊富になりました。
Oggi:いよいよ本格的に!
安藤:そこに訪れたのがコロナ禍。
Oggi:お酒を飲食店で飲めない期間がありましたね。会食が減って、「飲まなくても意外と平気だった」なんて声も聞きました。
安藤:お酒とのつきあい方が変わったという人が多数いましたね。飲食店もノンアルドリンクについて勉強したり、その進化に気づいたりするきっかけになりました。
ノンアル人気の背景は〝タイパ〟重視…!?
Oggi:ノンアルの人気が高まった一方で、お酒は…?
安藤:お酒の消費量は平成から令和にかけて30年ほどで約27%減少。体質的に飲めない人は日本人のうち4~5%、一方、お酒を飲む習慣が「ない」人は現在は約55%ですから、約50%は「飲めるけど飲まない」という計算に。
リーマンショックや消費増税のタイミングでお酒の消費量が大幅に減ったことや、昨今の物価高騰も関係ありそうです。健康志向の高まりも大きくて、WHO(世界保健機関)が飲酒のリスクを唱えるほか、今年2月には厚労省も飲酒に関するガイドラインを発表。
個人差はありますが、1日あたりの純アルコール摂取量が男性は40g、女性は20g以上だと生活習慣病のリスクが高まるとされています。アルコールの比重も計算に入れて、ビールなら女性の適量は一日に500mlまでが目安。
Oggi:ロング缶一本だけ。
安藤:そうなんです。それに肌感覚ですが、20~30代の若年層って〝酔う〟ことをイヤがるんですよね。「酔っぱらって自分を解放する」という願望もないし、友達の結婚式に出席してもお酒は最初の乾杯だけ、みたいな人も多い。
エンタメなどの娯楽が増えた時代に、お酒をダラダラと飲むのも二日酔いになるのも、純粋に〝タイパが悪い〟んだな、と。欧米でも、’10年代の終わりから、若者中心に「ソバーキュリアス」という「あえて飲まない」ライフスタイルや「ドライ・ジャニュアリー」という言葉もよく聞くようになりました。
Oggi:ドライ・ジャニュアリー?
安藤:「1月はお酒を飲まない」というキャンペーンです。SNSでも盛り上がっていて、英国では7人にひとりが参加しているというレポートもあるほど。
お酒のメーカーもノンアルをますます充実させていて、たとえば世界最大のビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブは、’25年までに世界でのビール販売数量の20%をノンアル/ローアルビールにすると発表。
日本でもアサヒビールが「スマートドリンキング」という、お酒の飲み方の多様性を尊重しようという考え方を提唱するなど、ノンアルの勢いは止まりません。
Oggi:今後は、どのように発展していくんでしょうか?
安藤:日本ではまだ圧倒的にノンアルビールが多いですが、 欧米では、スピリッツ系も充実。それらが今後、日本にも入ってきます。ギフトにもよいでしょうし、価格帯の幅もグッと広がりそう。
また、レストランでのペアリングにはとても可能性を感じます。アルコールとノンアルどちらのペアリングも提供しているお店では、両方オーダーするんですが、ソムリエやシェフたちが工夫を凝らしていて、コース料理の前半、軽めの料理などだとノンアルのほうがしっくりくる場合もままあるんですよ。
Oggi:未知の世界! まずはスーパーに並んでいるノンアルを、飲み比べしてみます!
安藤さん’s セレクト ノンアルドリンク
【ビール】圧倒的定番の進化が止まらない!
「アサヒゼロは今年の春に登場した、脱アルコール製法・アルコール分0.00%のノンアルビール。味わいがビールにかなり近い! 世界でいちばん売れているノンアルビールは、ハイネケンゼロゼロ。ビールの代名詞的なスタイルである〝ラガー〟だけではなく、オレンジピールなどが入って飲みやすいホワイトビールのヒューガルデンにもノンアルが」(安藤さん・以下同)
左/アサヒビール アサヒゼロ 350ml ¥181(編集部調べ) 中/ハイネケン・ジャパン ハイネケンゼロゼロ 330ml ¥172(編集部調べ) 右/アンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパン ヒューガルデン ゼロ 330ml ¥130(編集部調べ)
【ワイン】食事とのペアリングに無限の可能性
「ウォーターブルック クリーンはアメリカのワイナリーによる脱アルの白ワイン。オーク樽をしっかり感じます。フレンチ・ブルームは女性創設者によるフランス生まれのオーガニックスパークリング。近年人気のロゼをぜひ。オーストラリア・メルボルンでつくられているNONは、世界一を5回とったレストラン・ノーマの元料理人が立ち上げに携わったインフュージョンドリンクブランド。ラズベリーやカモミールが香ります」
左/オルカ・インターナショナル ウォーターブルック クリーン シャルドネ 750ml ¥2,808 中/アオセフランス フレンチ・ブルーム・ロゼ 750ml ¥7,452 右/アルト・アルコ NON No.1 ソルティッドラズベリー&カモミール 750ml ¥3,888
【スピリッツ】海外では充実。日本でも人気に火が付く!?
「スピリッツの中でノンアルがいちばん充実しているのはジン。ジークフリート・ワンダーリーフのジンは、ドイツの蒸留所がエイプリルフールに『ノンアルつくりました』とネタにしたことから誕生。東京生まれのGINNIEは、ノンアルカクテル専門バーが監修」
左/グローバルグロサリー ジークフリート・ワンダーリーフ ノンアルコールジン 500ml ¥3,520 右/ツクリデザイン GINNIE 東京ドライ ノンアルコールジン 500ml ¥3,200
【サワー】大手メーカーの実力派が群雄割拠
「ノンアルレモンサワーは各社からおいしいものが出ていますが、中でも、サントリーののんある酒場は、焼酎エキスが入っていて本格的な味わい。ゆずッシュは純粋においしくて好き(笑)。爽快感があって甘みはないので、食事のおともにもおすすめです。氷零はサプリメントのカロリミット®とのコラボで、食事の糖や脂肪の吸収を抑える難消化性デキストリン入り。美容や健康を気使う人にも人気です!」
左/サントリー のんある酒場 レモンサワー ノンアルコール 350ml ¥142 中/チョーヤ梅酒 酔わないゆずッシュ 350ml ¥153 右/キリンビール キリン×ファンケル ノンアルコールチューハイ 氷零 カロリミット® レモン 350ml ¥148(編集部調べ)
覚えておきたいキーワード
「ノンアル」に関連するワードや知っておきたいワードをピックアップ!
コンブチャ
紅茶などのお茶に酵母と砂糖を加えた発酵飲料。欧米では健康飲料としてスーパーに広い売り場が。昆布茶とは別物。日本ではかつて「紅茶キノコ」としてブームになった。
消費量
1992年にひとりあたり年間101.8Lだった酒類の消費量は、2021年には74.3Lに。リーマンショックの’08年、消費増税の’14年などは大幅に落ち込んだ。
ソバーキュリアス
sober(シラフ)+curious(好奇心)からなる造語。英国出身のルビー・ウォリントンさんが’18年に著した書名が由来。禁酒や断酒と違い、お酒を飲まないことをポジティブにとらえる言葉。
スマートドリンキング
’20年12月よりアサヒビールが推進する「飲める人も飲めない人もみんなが楽しめる、体質や気分に合わせた自由な飲み方」のこと。略して「スマドリ」。純アルコール量を商品に記載するといった取り組みも。「スマドリバー渋谷」も展開。
●掲載している情報は2024年8月8日現在のものです。
2024年Oggi10月号「Oggi大学」より
構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部
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