俳優・綾瀬はるかさんインタビュー
30代になったら辞めてもいいと思っていました
16歳で俳優としてデビューしてから、途切れることなく出演作が続いてきた20代・30代を振り返り、「ずっとハイペースで走り抜けてきた」と話す綾瀬さん。
「30代を目前にしたころ、大河ドラマ『八重の桜』での主演があり、これが終わったら仕事を辞めてもいいって、本当に思っていました。俳優、スタッフとで連日顔を合わせてチームができあがる空気感。
監督たちが集まって、深夜までずっと議論を続けている熱量。…それを毎日浴び続けて、達成感と幸福感みたいなものを感じ、その先のことは考えられなかったんです。
でも、終わってみればすぐに次の仕事が始まって、また違う人物の人生を生きて。期待されれば応えたくなるし、周囲の意気込みを感じれば、そこに加わりたくなるものです。
そうか、自分で決めてたピークもゴールも、人生の通過点でしかないんだ。志を高くもって愛情あふれる仲間たちとの出会いがあるたび、もっと先へ進みたくなる。30代は、その繰り返しだった気がします」
そんなペースを少しだけゆるめて、1年ほど新たな作品の撮影をお休みしていたことは、案外知られていない。
「新たな撮影以外の仕事はやっていたので、休んでいたという感覚と少し違うんですけどね。でも、1年ぶりに映画の撮影が始まってみれば、『この感覚、久しぶり!』というワクワク感がありました。
それが、やるうちに『こんな感覚、初めてかも!?』になって。それが、映画『ルート29』という作品です」
周囲の意見を聞きすぎて気持ちが揺らぐことも
初めての感覚で臨んだ最新主演映画『ルート29』。これまで綾瀬さんが出演してきた映画とは異なり、今回は姫路と鳥取をつなぐ国道29号線を1か月近く旅しながら製作されたロードムービー。
しかも、演じたのは、必要以上にコミュニケーションを取ろうとしない女性・のり子(通称トンボ)。ひょんなことから、初対面の少女・ハルとふたり旅をすることになって…。
「私、日常でも、演技をするうえでも、人にちゃんと気持ちを伝えなくちゃ、という思いが先走ることがよくありました。ところが、今回の撮影は『伝えようとしなくていい』というのが監督の要望でした。
無理に伝えようとせず、ただ自分にぼそっと話しかけるように言葉を発する。その場に流れている空気を大事にして、余計なものをそぎ落として、シンプルに。
それは、私にとっては経験してきたことをすべて手放すという作業でした。とても難しいことだけれど、集中できないときは、ひとりになって考える時間も監督は与えてくれました。
すると、自分と違うと感じていた主人公のトンボが、案外かつての自分に近いのかもと思えてきたのです。
そういえば、考えていること・感じたことをうまく人に伝えられなかったり、人から『変わってる』と言われたりしたこともあったな。相手がだれであっても、ふたりきりになると気まずくなったりも、あったあった。確かに私、トンボみたいな感じだったなって。
監督はご自身の中に『撮りたい画』をしっかり持っていて、絶対に曲げない強さもありました。それに応えようともがいているとき、助けになってくれたのが、共演した大沢一菜(かな)ちゃんでした。
私が別の仕事で東京に行って(再びロケに)戻って来たときは、『疲れてない?』『弱音吐いてもいいよ』と声をかけてくれるんです」
果たしてできあがった画面からは、とても静かで幻想的でありながら、そこにいる人々の「強い意志」が伝わってくる。それは、主人公トンボの言動にも内在していて、綾瀬さん自身も、そんなトンボに影響を受けたひとりだ。
「今、周囲には多くの情報があふれて、いろんな価値観が交錯しています。だからこそ、トンボのようにシンプルでまっすぐな人物に触れると、それでいいんだよね、そうだよねって、思えてくるものです。
どんな状況でも、周囲がどう変わっていっても、自分の軸を持って生きているトンボに、私は憧れます。私はというと、周囲の意見を聞きすぎて気持ちが揺らいでしまうことも多くて、自分軸ってなんだろうと、思うこともしばしば。
それでも、迷ったときに人に相談することで、ちょっとずつ自信が持てたりする。緊張していた心が、ふわっと溶けたりする。やっぱり、私はそうやって少しずつ前に進むのが、合っているんだと思います」
人を引き寄せ、その人たちがつい手を差しのべたくなるのが、綾瀬さんという存在。その理由は、本当は奥の奥にちゃんと「自分軸」があるから。周囲に応えようとする熱があるから。それを、ことさら押し出さないのもまた、綾瀬さんの魅力だ。
今のところ、遊びも旅行も計画は仲間にお任せだけれど、次こそは「ひとりで気ままに出かける旅」をしてみたいと、最後に明かしてくれた綾瀬さん。
「気の向くままに出かけて、飽きるまで一日中シュノーケリングするなんて、どうかしら。荷物は最小限に、身軽に。でも、メガネとコンタクトだけはないと生きていけません(笑)」
【info】11月8日より公開!綾瀬はるかさん主演映画『ルート29』
鳥取の町で清掃員として働いているのり子(綾瀬はるか)は、仕事で訪れた病院で、「姫路にいる私の娘をここに連れてきてほしい」と頼まれる。少女・ハル(大沢一菜)を探し、姫路から鳥取まで一本道の国道29号線を進むふたり旅を記録したロードムービー。監督は映画『こちらあみ子』で人気を博した森井勇佑。
11月8日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開 ©️2024「ルート29」製作委員会
[綾瀬さん分衣装]デニムシャツ¥144,100・デニムパンツ¥144,100・靴¥156,200・ベルト¥74,800(ロエベ ジャパン クライアントサービス〈ロエベ〉)
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2024年Oggi12月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/山根悠太郎 スタイリスト/吉田 恵 ヘア&メイク/中野明海 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
綾瀬はるか(あやせはるか)
1985年生まれ、広島県出身。2000年にデビューし、2004年に映画『雨鱒の川』で長編映画初主演を果たす。以降の出演作は、ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』、『ホタルノヒカリ』シリーズ、NHK大河ドラマ『八重の桜』、『JIN-仁-』シリーズ、『義母と娘のブルース』シリーズ、映画『海街diary』『はい、泳げません』『リボルバー・リリー』など。