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2024.08.06

「少しずつ鎧を脱ぎ捨て、自然体でいられるように」〈中医薬膳営養師/薬膳専門スクール経営者・山内正惠さん〉

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、専業主婦を経て薬膳専門スクールを開校し、体と心に優しい料理と理論を伝えてきた山内正惠さんにお話をうかがいました。

中医薬膳営養師/薬膳専門スクール経営者・山内正惠さんインタビュー

「50代で起業し、60代で大学院へ。自分に足りない部分を見つけては補う」

30代を思い返すと、「つらかった」という言葉がまず浮かびます(笑)。20代前半は貿易会社で事務職として働き、結婚・出産を機に退職。夫の転勤で鎌倉に移り住み、専業主婦として子育てに専念していましたが、どこか満たされない気持ちが常にありました。

「私の人生、これでいいのだろうか? 何かしたいけど、何をしたらいい?」そんな疑問が頭を巡り、いつも胃腸の調子が悪く、気持ちはイライラ。今振り返ると、中医学でいう「気滞」の症状でした。

人生を大きく変えた“料理”との出会い

そんな私の人生を大きく変えた転機は、38歳のとき。自宅を建て直すことになり、その設計士さんが、悩み多き私に柳原料理教室への参加をすすめてくれたんです。料理を習い始めると、まるで止まっていた歯車が再び回り出すような感覚を覚えました。

中医薬膳営養師/薬膳専門スクール経営者・山内正惠さん

それまでも、公民館などで手ごろな習い事を試していたのですが、料理は「これなら人に教えられる!」と思えたんですね。5年通って懐石料理を身につけ、今度は体系的に日本料理を学ぼうと44歳で大阪あべの辻調理師専門学校への入学を決めました。

子育ては一段落していたものの、夫は大反対(笑)。でも、両親を早くに亡くしていた私は「人生は一度きり。1年ぐらい家にいなくたっていいでしょう」と説得して、大阪のワンルームでひとり暮らしをしながら通学しました。

家庭の中では威張っていた私ですが、学校では18、19歳の若者に交じって学び、恥ずかしながら初めて〝自分が引く〟ことを覚えましたね。家族を置いてきたこともあって結果を出さねばと、授業のない週末も大根を何本もかつらむきしたり、専門書で勉強したりと必死でした。

大根の桂むき
(c)AdobeStock

“薬膳”の魅力を知り、50代で企業

無事に卒業して家に戻ったものの、溜まった疲れから体調をくずしてしまいました。そんなときに出合ったのが薬膳です。薬膳は「薬食同源」の思想をもつ食事で、ベースは中医学。中国数千年の歴史に培われた統合医学です。

人間も自然の一部ととらえ、気候や季節、体質、気質を読みながら、その人に合った処方を行う。自然界の要素を組み合わせ、未然に病気を防ぐことを目指します。

知れば知るほど、おいしいだけでない薬膳の魅力を伝えたくなり、和食や家庭料理と融合させた『和の薬膳』を考案。2007年に「鎌倉薬膳アカデミー」を設立しました。

50代での起業でしたが、「命まで取られるわけでなし」と不思議と不安はなく。ただ、立ち上げて2年目のリーマンショックは大きなピンチでしたね。対処がまったくわからず、心労がたたったのか、その年は3回もぎっくり腰に(笑)。

教室
(c)AdobeStock

東日本大震災で変化した景色、意識、働き方

中小企業診断士さんなど、さまざまな人に相談してなんとか乗り切ったのもつかの間、2011年には東日本大震災が発生。半年間はまったく世の中が動かなかったので、流れに身を任せる、無理に新しいことに手を出さないということを体得しました。

計画停電もある中、ありがたいことに遠方から通い続けてくださった受講生の方もいて、今でも交流が続いています。

未熟な時期にこのふたつの壁を乗り越えた経験から、コロナ禍では落ち着いて過ごせたように思います。講師メンバーと協力しながら、オンライン授業やインスタライブを始めたり、10年ほど温めてきた新しいメソッドを発信したりと、今までとは違った景色を見ることができました。

自分の年齢も考え、もし「次のコロナ」が来ても対応できるよう今から手を打っておこうと、教室の場所をテナントビルから自然を感じられる一軒家に移し、勤務時間を変えるなど、働き方改革を行いました。不安な時期に拠り所にしてくださった方も多く、皆さんの前に出るときに元気な先生でいられるよう、休養も大事にするようになりました。

オンライン授業
(c)AdobeStock

愛をもってありのままで。陰が基盤となって、陽が輝く

“自然体”でいられるようになったのは

仕事を始めて以来、続けてきたのは自分に足りない部分を見つけては補うことです。50代では中国・北京の病院で臨床研修を受け、60代では大学院の修士課程で老年学を研究。

アカデミーの講義後、夕方から電車に飛び乗って東京に通い、高齢者を取り巻く社会保障をはじめ、心理学や医学的テーマ、統計学を含めて幅広く学びました。特に認知症とうつは関心があるテーマ。食の現状などの講義にも活かしています。

これまで2300名以上の方に薬膳をお伝えしてきました。生徒さんは、食事や健康だけではなく、内なる自分を変えたいと思って来てくださる方も多く、人生相談を受けることもしばしばです。

中医薬膳営養師/薬膳専門スクール経営者・山内正惠さん

接する際は、愛をもってありのままで。でも、始めたばかりのころは、先生らしく振る舞わなければと肩に力が入っていたものです。今日は1年前から始めた洋裁で自作した服を着ていますが、当初はきちんとしたシャツとタイトなスカートが定番。

今思うと、力がなかったから武装していたんですよね。さまざまな経験を通して少しずつ鎧を脱ぎ捨て、自然体でいられるようになりました。

これは10周年パーティで気づいたことなのですが、生徒さんがつくってくれた歴史を振り返るスライドを見ていると、手製の教科書で始めた混沌とした原点から徐々に鎌倉薬膳アカデミーのカラーが浮かび上がってきました。

それに共感し、集まってきてくれた生徒さんたちの姿を見て、本当に頑張ってきたんだなと涙がこぼれて。自分の殻が弾けて、「このままの私でやれるかもしれない」と思えた瞬間でした。

中医学の「陰陽」の本質がわかるように

中医学には、「陰陽」の考え方があります。たとえるなら氷山。目に見えるのはほんの一部で、海中の大きな氷がしっかりと支えているからこそ、海上の氷山が美しく存在できるように、人間も陰が基盤となって、陽が輝く。年を重ね、その本質がわかるようになってきました。

そして、体と心をつくる食事は、すべての基本。お忙しいOggi世代の皆さんは、食事が疎かになることもありますよね。薬膳は難しいイメージがあると思いますが、実はシンプルな料理。手を抜き、自分を甘やかしつつもポイントを押さえることで、今と将来の健康を守ることができます。

薬膳、漢方

病気になったとき、気持ちが沈んだとき、最も味方でいてくれるのは自分自身。『和の薬膳』には、自分と向き合う時間を大切に、という思いも込めています。

やりたいことはやり、行きたいところには行き、会いたい人には会い…

私の母と姉は69歳で亡くなり、私も今年その年齢を迎えます。後進に対しては自分で考える力を養うため、「段階に合わせること」と「教えすぎないこと」を心がけて指導しています。これまでほぼ毎年、国内で研修旅行を行ってきましたが、来年は満を持して北京研修を計画中。

生徒さんたちに、中医学や薬膳の本場で学ぶこと、食べること、感じることをぜひ体感してもらいたいと思っています。そして私自身も、やりたいことはやり、行きたいところには行き、会いたい人には会い、食べたいものは食べ、悔いのない人生を送りたい。

「あ~、私の人生最高!」と言ってさよならできたらいいですね。

日々の食事で体と心を整える! 不調タイプ別のレシピと知恵『おとな女子の和の薬膳生活』

書籍『和の薬膳®』

30代以降の女性に多い悩みごとを、8人の登場人物たちを通して解説。症状の根本原因とその理由、対処法となる暮らし方をわかりやすくアドバイス! さらに不調を改善するための食材やレシピも紹介。身近な材料と調理法で、肩肘はらずにつくれる『和の薬膳®』が明日の元気につながるはず。
¥1,320/リーブル出版

2024年Oggi8月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき~」より
撮影/大社優子 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

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山内正惠(やまうち・まさえ)

1955年、東京都生まれ。鎌倉薬膳アカデミー学院長。貿易会社での事務職、専業主婦を経て、柳原料理教室で柳原一成先生に師事。1994年より山内懐石料理教室を主宰。1998年江戸懐石近茶流懐石講師資格取得。2000年大阪あべの辻調理師専門学校・日本料理専科カレッジ卒業。国立北京中医薬大学日本校にて国際薬膳師・国際中医師の資格を取得した後、2007年、『鎌倉薬膳アカデミー』を開校。和食を取り入れた薬膳の普及に努める。中医学理論の指導、雑誌、講演会、講習会、企業のメニュー開発など幅広く活動。2019年、桜美林大学大学院老年学修士課程修了。

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