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2024.08.05

登山家 渡邊直子「『だれもがエベレストに登れる』時代に突入。高山は、冒険する場所から休む場所、自分に自信を与える場所へ」

目まぐるしく変化し、ライフスタイルも多様になった社会で、個人が「どう生きるか」が問われる今。お手本にしたいのは、一見不可能にも思えることを実現してきたリーダーたち。どんな時代や場所でも、道を切り拓いていく。その知恵と原動力に触れてみませんか? 登山家 渡邊直子さんにお話をうかがいました。

日本人女性初・8000m峰13座登頂を達成
登山家 渡邊直子

看護師として働いたら2か月エベレストへ

初めてエベレスト登頂に挑戦したのは、29歳のときでした。看護師になって2年、臨床経験を積みながら充実していた一方で、「チャンスがあるならエベレストに登ってみたい」という思いが募り、病院を辞めて2か月の遠征に参加しました。学生のときから高山には強かったので自信はあったけれど、初エベレストは頂上手前で天気が急変し断念。戻って大学病院に再就職して資金を貯め、2年後に登頂しました。そこから8000ⅿ峰に次々と挑戦。とはいっても、登山家として名をあげようとか、記録を残そうとか、そんな思いはありません。登頂のうれしさより、そこに至る過程の楽しさが格段に上回り、それをまた味わいたい。だから登り続けているのです。

日本では看護師(現在はフリーランス)として目いっぱい働き、山では現地シェルパたちとの交流や、ベースキャンプでの生活を楽しむ。私にとって山に登ることは、仕事のあと「休みに行く」居酒屋みたいな感覚です。それがあるから、また日本で頑張れる。だから、たとえ登頂できても、遠征生活中にトラブルがあったり楽しめなかったりしたら、私にとって成功とはいえないのです。あるときはおおらかなシェルパたちの性格に助けられ、あるときはひとりで音楽を聴きながら景色を眺めて。それが楽しくて、8000m峰に通ううち、2022年までに13座を登頂するところまでになりました。

と同時に、山は「自分のよさ」に気づける場所。正直言って、引っ込み思案で人づきあいが苦手な自分のことは、あまり好きじゃありませんでした。でも、生死にかかわる極限の状況では、自分の意外な強さを知ることができます。看護師の経験を生かして、人をサポートすることもあります。できることを再確認して、自分を肯定できるのは、山ならではかもしれません。

世界8000m峰の登頂で残るはシシャパンマ(中国)だけになりました。が、今年も中国政府の登頂許可が下りずに断念。次は来春に再挑戦する予定です。私と同じようにシシャパンマを残し、14座制覇を目前にしている人は、世界に何人もいます。みんなが「その国初」「女性初」の記録を狙ってうごめいている。多くのシェルパを使い、お金の力で成功を収めていく海外のVIPもいます。私はといえば、今でこそスポンサーを募ったり、クラウドファンディングで資金調達をしたりしていますが、この20年ほぼ自己資金で、最小限のシェルパと登ってきた、意地のようなものがある。だから、簡単に先を越されてしまうのは、やっぱり悔しい。かといって、人と競争すれば失敗します。登頂記録だけが目的の登山家には、強行スケジュールで登る人もいて、すると危険に対する判断を誤り、命を落としてしまうこともあります。強行突破した登山隊が山頂目前で雪崩にのまれたのも、何度も目の当たりにしてきました。

登山家 渡邊直子さん

マネジメント力があれば、怖いものはありません

だから、私は私のやり方で。お金をかけず、争わず。そして、体力でも技術でもなく、先の先のさらに先を読んで段取り、無理をしないことで乗り切る。時間をかけて高所順応したら、どのシェルパを選び、そのスキルをどう生かして連携するか。信頼できる情報を入手して、どのルートで安全に登るか。こうしたマネジメント力があれば、怖いものはありません。実際、トレーニングは何もしていませんが、「私ならやれる」。その自信はあります。

近年、8000m峰は特別な登山家だけのものではなくなっていて、実際に多くの未経験者が訪れています。天候予測の精度は上がり、現地の設備も充実してきています。また、エベレストのベースキャンプは、リゾート地のような快適な場所に変わってきています。海外からは、おしゃれもメイクも力の入った20代前半の女子も来ています。テントではシェフのコース料理が振る舞われ、カフェやバーもあるし、パーティも映画も楽しめる。4000m、5000mの高所でもWi‒Fiが使え、あちこちでインスタライブやYouTube配信をしている、世界最高峰の映えスポットです。ベースキャンプまでゆっくり登り、ここで過ごすという休暇もおすすめです。どんなにイヤなことがあっても、ここに来れば忘れられる。そんな山の魅力を、多くの人に体験してほしいと思います。

登山家の渡邊直子さん

高山というと、キツいところ、訓練が必要なところ、というイメージがあるけれど、私はそれを払拭していきたい。登頂は一部の資金力がある人ができること、という古い常識も、私が成功することで、そうではないと証明していきたい。

でもそれが最終目的ではありません。以前からの夢だった、「子供たちの冒険」プランも未来に向かって進んでいます。今、子供の遊び場が、「無理をさせない」「安全な場所」ばかりになってきている中、ユニークで個性ある子供が育ちにくくなっているのを感じます。それを打開するのが、海外の山をはじめ未知の場所で過ごすことではないでしょうか。引っ込み思案だった私が変われたのは、子供のころの冒険キャンプ――モンゴルの草原やベトナムの奥地、中国の無人島などでの体験でした。しっかりとしたサポートがあれば、失敗しても学ぶことは多いし、成功体験は生きる力につながります。

そうして得た生きる力の上に、たくさんの経験を重ね、数年後には2周目の14座制覇を成し遂げたい。そのころはヒマラヤに住み、日本社会で疲れたみなさんを労る側になっていたいと思います。そして、プロの登山家でもなく、特別な訓練をしたわけでもない私のような「ふつうの人」でも、こんな生き方ができると伝えていけたら。それが私の社会貢献のかたち。自分に自信のなかった私が見つけた、自分の役割なのだと思います。

PROFILE
1981年生まれ、福岡県出身。3歳からサバイバルキャンプに、小学生で海外キャンプに参加するなどして、引っ込み思案を克服。小学4年生から雪山登山に魅了され、中学1年でパキスタンの4700m峰登山に、大学3年で6000m峰登山に挑戦。チームの中で保健係を担当したことから、看護師に興味をもつ。長崎大学水産学部を卒業した後、日本赤十字豊田看護大学卒業。現在まで、看護師をしながら資金を貯め、世界に14座ある8000m峰のうち13座登頂。8000m峰に登った回数は2024年6月時点で27回(うち登頂のべ17回)。数々の「日本人女性初」の記録を持つ。2024年9月に渡邊さんと一緒にヒマラヤで1か月過ごす「8000m峰冒険」参加者を募集中。参加資格・条件はなし! 詳細は公式サイト、公式インスタ@naokowatanabe8848で。

Oggi2024年8月号「いま会いたい、話したいグローバルな4人の先輩」より
撮影/黒沼 諭(aosora) 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部

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