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2024.03.29

「命を守るために必要なことを伝え続けたい」〈防災アナウンサー・奥村奈津美さんインタビュー〉

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。今回は、数々の被災地で現場取材や支援を経験し、現在は防災アナウンサーとして活躍する奥村奈津美さんにお話をうかがいました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

防災アナウンサー・奥村奈津美さんインタビュー

被災地取材は、ときに残酷。声を伝えるだけでなく自分ができる支援を見つけ、ひとりでも命を守りたい

地方局のアナウンサーとして日々に追われていた20代。指示を受けてロケに出たり、原稿を読んだりするだけで精一杯。「伝える」ということの意味、その中で自分は何を伝えたいのか、少しずつ見えてきたのは、20代後半になってからです。

26歳から仙台の東日本放送で夕方の報道番組の記者兼キャスターを担当。28歳だった2011年3月11日は、午前中に取材先の農家さんで収穫した伝統野菜を自宅のキッチンで茹でていたんです。ところが、東日本大震災が発生。

防災アナウンサー・奥村奈津美さん

◆仙台で東日本大震災を経験

当時の私は過去の災害で報道にも携わり、被災した現場で救助活動も取材していたのに、「まさか自分が」という思いがありました。あのとき飛んできた電子レンジが直撃していたら、今ここにはいられなかったかもしれません。

揺れがおさまり、電話もネットもつながらない、停電でテレビも見られない中、自分の安全を確保しつつ、なんとか情報を得ようと向かったのが県庁でした。記者クラブに行けば、だれかに会えるだろうと。

でもそこで目にしたのは、想像を絶する津波の映像でした。流されていく人たちを前に、テレビからどれだけ呼びかけても助けることができない、自分の無力さを痛感。

また、非常用電源もうまく使えず、停波してしまった時間もありました。災害が起きてからでは手遅れ、起きる前にもっとできたことがあったのでは…と後悔が押し寄せました。

◆広島への転職と被災地への取材

同年の4月からNHK広島放送局への転職が決まっていた私は、後ろ髪を引かれる思いを抱え、広島からできることを模索。新たに担当する番組は隔週だったので、上司の許可を取って月の半分は被災地へ取材に通いました。

ときには、「被災地でラジオが足りない」と伺い、放送を通じて広島の視聴者からラジオを集める企画を立ち上げたことも。それをスーツケースに詰めて、避難所や仮設住宅で必要な方にひとつずつ手渡ししていきました。放送を通じて支援の輪が広がれば、被災された方の役に立てるのではと感じていました。

◆東京でフリーアナウンサーに

30歳のとき、東京でフリーアナウンサーに。TBS『はなまるマーケット』のリポーターを担当し、番組終了の翌年からは再びNHKの報道に携わることになりました。全国ニュースを伝える夜のラジオ番組で、防災・災害報道を担う頻度も増えることに。

信頼される伝え手になるために、そしてより確実な事前の備えを伝えるため、防災士の資格を取得。全国各地で毎年起きる地震や水害の現場へ足を運び、取材や復旧ボランティアの経験を重ねていきました。

被災地取材はときに残酷です。「何に困っていますか?」と尋ねても、報道するだけで終わってしまうことが多い。でも、自分が行ってその場で必要なものを提供できたら、助けになるかもしれない。

13年活動を続ける中で、被災地支援に積極的な企業の方や、医療・福祉・法律など多分野の専門家や支援団体の方と出会い、少しずつですが必要な支援をつなげられるようになってきました。

防災アナウンサー・奥村奈津美さん

二度味わったキャリアの強制終了。仕事は、自分でつくり出すもの

キャリアを築く過程では、女性アナウンサーならではの危機感と隣り合わせ。当時の地方局は3年契約が一般的で、働きながら常に就活している状況でした。採用となれば仕事内容も住む場所も変わる。

毎日が綱渡りのような感覚でしたが、前に進む力になっていたのは、新人時代にディレクターさんから言われた「仕事は与えられるものではなく、自分でつくり出すものだよ」という言葉です。日々のニュースから、自ら企画や特集を提案し、ときには徹夜で編集して放送につなげてきました。

また、報道だけでなく、中学生のときから生き方の道しるべにしてきた歌手の安室奈美恵さんが引退される際は、ラジオ特番も実現。ご本人や縁のある方々のお話をリスナーの皆さんと共有する幸せな時間をもつことができました。

◆出産と再出発、そしてコロナ禍

ただ、36歳のときには、切迫早産で緊急入院することになり、担当番組のNHK『ニュースウオッチ9』をやむなく降板することに。無事に出産はできたものの、キャリアが分断され無職となり1年ほど落ち込んでいましたね。

徐々に司会の仕事などが軌道に乗り始めたころに、今度はコロナ禍。キャリアの強制終了を二度味わい、「自分しかできない仕事をつくっていこう」と決意する転機になりました。感染拡大中の避難や防災について、周囲のママさんたちから相談を受けていたこともあり、我が子の命を守るために必要な防災情報を伝えたい! と行動開始。

◆オンラインで防災情報発信・書籍出版・講演会登壇

オンラインで講座を開き、出版社に企画をもち込んで書籍も形になりました。そこから講演のお話をいただくなど、新たな道が拓けていきましたね。週末に講演が入ったときは、なるべく息子も連れて母の働く姿を見せていたら、興味を持ってくれたようで最近は〝防災ヒーロー〟として動画制作にも協力してくれています(笑)。

SNSやYouTubeでの防災情報発信を継続し、全国の方とつながることができたのもうれしい変化です。「動画を参考に備えていたから、停電してもあまり困らなかったです」「奥村さんの投稿がお守りになっています」とコメントをくださる人もいて。

これまでどおり、企画から取材、編集まで自分でやっているのですが、いざ災害となれば現地に赴き、「10分後に電話でリポートできますか?」という依頼も舞い込んできます。泥臭い下積みのすべてがムダではなかったというか、何が起きても対応できるという自信をくれています。

◆能登半島地震では行政と連携して支援に参加

2024年1月の能登半島地震では、発災直後から行政と連携して支援に参加。物資を届けながらニーズをヒアリングし、3週間後からは「テルマエ・ノト」プロジェクトと題して、断水してお風呂に入れない体の不自由な方々の入浴支援サポートを行っています。

被災地滞在時は、車中泊や被災した施設の片隅での雑魚寝スタイルですが、二次災害で救急車など現地の貴重なリソースを使うことがないよう細心の注意を払っています。訪れるたびに感じるのは、高齢化や気候変動によるリスクの増加、社会の脆弱化です。復旧に携わる公務員の数は減り続け、高齢者が多い地域では助け合いも難しい。台風や線状降水帯の影響も増しています。

◆命を守るために必要なことを伝え続けていきたい

防災グッズ

でも、何か起きる前ならできることがある。たとえばOggi世代でひとり暮らしの女性は、避難所に単独で行くより、自宅を安全な場所にして得られる安心があります。家を選ぶ際は、耐震基準やハザードマップの確認を。

家具の固定、1~2週間分の水・食料・非常用トイレの備蓄も有効です。私自身、ひとりで何ができるんだという葛藤と、ひとりでも多くの方を助けたいという願いがあります。亡くなった人の後悔や声なき声に耳を傾け、命を守るために必要なことを伝え続けていきたいです。

住んでいる場所に合わせて、防災に必要なモノと行動を1分で診断する『pasobo』

#pasobo

奥村さん監修のパーソナル防災サービス『pasobo』は、自分に必要な防災対策が1分で見つかるWEBサービス。家族構成、立地、建物の耐震基準や階数、備えに関する価値観などの質問に回答するだけでOK。入力情報を基に、全国のハザードマップから分析した立地リスクを提示し、最適な防災グッズや行動を提案してくれる。今日から始められる防災の一歩に!

2024年Oggi4月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

奥村奈津美(おくむら・なつみ)

1982年、東京都生まれ。立教大学社会学部卒業後、広島・仙台で地方局アナウンサーとして活動。2013年からはフリーアナウンサーとして、TBS『はなまるマーケット』リポーターのほか、NHK『ニュースウオッチ9』や『NHKジャーナル』などの報道番組に携わる。東日本大震災を仙台アナ時代に経験して以来、ライフワークは「防災」。防災士、福祉防災認定コーチの資格を持ち、2020年からは「オンライン防災訓練」を始動。現在は、NHKやTBSラジオ、様々なメディアで防災アナウンサーとして出演。環境省森里川海プロジェクトアンバサダーも務める。著書に『子どもの命と未来を守る! 「防災」新常識~パパ、ママができる!! 水害・地震への備え』(辰巳出版)。Instagram:@natsumi19820521やYouTube:@natsumiokumura-bousaiでも、身近な防災情報を発信中。

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Oggi12月号で商品のブランド名に間違いがありました。114ページに掲載している赤のタートルニットのブランド名は、正しくは、エンリカになります。お詫びして訂正致します。
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