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2024.02.23

「チームと共に考え、意思決定したい」〈科学館館長・浅川智恵子さんインタビュー〉

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、IBMでアクセシビリティ研究に尽力し、現在は、日本科学未来館の館長も務める浅川智恵子さんにお話をうかがいました。

科学館館長/グローバルIT企業フェロー・浅川智恵子さん インタビュー

視覚に障害があっても「情報」と「移動」のアクセスをあきらめない

視力を失ったのは、14歳のとき。11歳で経験したケガがきっかけでした。スポーツ少女だった私は、「体育大学に進んで、オリンピック選手になる」という夢も同時に失うことに。

途方に暮れながらも、一から点字を学んで、大学は英文科に進学しました。目が見えなくてもプログラミングを職業にしている方がいると知ったのは、進路を考えていた卒業間近のことでした。

2年かけて必死にプログラミングを習得し、25歳でIBMの英語点字翻訳プロジェクトに客員研究員として参加できることになったんです。

科学館館長/グローバルIT企業フェロー・浅川智恵子さん

当初は1年の期限付きでしたから、10か月後に研究成果が認められて正規雇用が決まったときは、本当にうれしかったですね。自立して生きることは、視覚障害者である私がだれとでも対等につきあっていくために不可欠でした。

30代は出産・育児、そして“プロジェクト”立ち上げ

読者の皆さんと同じ年のころは、ちょうど人生の基盤を築いた時期です。結婚して30歳、34歳で出産し、保育園の送り迎えや日々の育児をやりくりしながら、視覚障害者向けの点字をデジタル化するプロジェクトを自ら立ち上げました。

まだインターネットもスマホもない時代。何か調べようと思ったら基本は書籍ですが、点字で読める本は少ない。しかもボランティアの方々が一文字一文字、点字タイプライターで紙に打つ必要があり、修正もコピーもできないので、一冊の完成に膨大な時間がかかっていました。情報を得る苦労を身に染みて感じ、なんとかしたいと思っていたんです。

パソコンで編集した文章を点字プリンタで出力できる新たなシステムを開発し、さらにネットワークを構築。東京で点字翻訳されたものが、その日のうちに日本中で共有できるようになったときの達成感は大きなものでした。

初めて同僚と共に人や予算を管理し、研究者としてもプロジェクトを推進する経験をしました。技術開発のみならず、挑戦の日々でしたね。

世界初の実用的な音声ブラウザ『ホームページ・リーダー』の開発、製品化

やがてインターネットが登場すると、「情報から遮断されて取り残される感覚を、もうだれにも味わってほしくない」という決意につながり、それがウェブページを音声で読み上げる世界初の実用的な音声ブラウザ『ホームページ・リーダー』の開発、製品化の原動力に。初めてのアメリカ開発チームとの協業にもなりました。

キャリアのピンチは、IBMが個人のお客様向けの製品を廃止し、ビジネス向けに舵をきったこと。当時私たちが取り組んでいた個人向けプロジェクトは次々と終了となりました。

自分に何ができるか、どうすれば個人のアクセシビリティに貢献する研究を続けられるかを考え抜き、ウェブデザイナーやエンジニアのコンテンツ制作支援にたどり着きました。

というのも、ネットの通信速度が上がるにつれてウェブページに情報が詰め込まれ、動画や広告が増え、視覚障害者の音声によるアクセスの困難さが世界的な問題になっていたんです。

障害のある人が読みやすいページをサーバー側で自動的に作成する技術を考案

そこで考案したのが、ウェブページを制作する際に使用するツールで、音声読み上げによるアクセスのしやすさや、弱視や色覚異常の人にどう見えているのかをビジュアル化するもの。そして、障害のある人が読みやすいページをサーバー側で自動的に作成する技術です。

とはいえ、やはり新しい企画を通すのは一筋縄ではいきません。前に進むには人とのつながりが重要で、会ったことのない相手でもアポをとって構想を伝え、さまざまな支社や部署の講演に積極的に参加するにつれ、力を貸してくれるメンバーが増えていきました。

奇しくもアメリカでは、連邦政府と関連機関の情報・サービスに障害者がアクセスできることを義務づけた法律、通称「508条」が施行。さらなる後押しとなり、BtoBの領域であっても道を拓くことができました。

自由を怖がらなくていい。チームで共に考え、意思決定する

難関を突破し“博士号”を取得

最も重要なターニングポイントは、博士号を取得したことかもしれません。43歳で工学分野のドクターコースに入学。3年間の学びの過程はあまりに関門が多く、何度も「もう無理かも」という思いがよぎりましたが、乗り越えて学位を手に入れたことは、文系出身のコンピュータサイエンティストとして大きな自信になりました。

自分には昇進は無理だろうとなんとなくあきらめていた私が、技術開発リーダーとしてキャリアを進みたいと思えた転機でもあります。やがて51歳で日本人女性初のIBMフェローに就任。技術系社員の最高職位で、専門分野の研究に自由な裁量権が認められるようになりました。

科学館館長/グローバルIT企業フェロー・浅川智恵子さん

“研究・仕事・家庭”の3足のわらじ

研究・仕事・家庭の3足のわらじは、確かに多忙でしたが、家族からの電話には必ず出るようにしていました。近くにいなくても私が常に〝アクセス可能〟なら、安心感をもってもらえるかなと。

ふたりの子供も今では理系研究の道へ。何かしら影響は与えられたのかなと思いますが、一緒に過ごすときはあくまで「母は普通の人」扱い(笑)。それがまたありがたくもあります。

“日本科学未来館の館長”を務める

2021年春からは、日本科学未来館の館長も務めています。2年かけた常設展示リニューアルでは、人の視点から科学技術を捉え、体験型の展示をつくることを目指しました。単なる展示場ではなく、人々が自分事として社会課題を実感でき、意識変容から行動変容につながる場にできたらと。

研究者や開発者だけでなく、キュレーターや運営スタッフなど、専門分野の多様なメンバーと一緒につくり上げることは、私にとって新しい挑戦でした。

特にどのテーマに焦点を当てるかを決める過程では、白熱した議論がありましたね。トップリーダーになることで、自分の思いや勉強の成果を形にできる可能性は高くなりますが、責任が伴います。最新の情報や技術に触れ、自分の描く構想が合っているのか常に問い続けています。

チームと対話を続け、共に解決策を

意思決定時に大切にしているのは、チームと共に考え、共に解決策を探ること。そして、自由を怖がらないこと。怖いとしたら、私の言うことを全部「はい、わかりました」と受け止められることではないかと。

ときにはメンバーの案を差し戻さなくてはいけないつらさもあるのですが、もちろん、私が方向転換することもあります。チームの声を聞き、質問し、対話を続けることを忘れずにいたいと思っています。

科学館館長/グローバルIT企業フェロー・浅川智恵子さん

今後実現したいのは、「移動」のアクセシビリティの向上、AIスーツケースの実用化です。視覚障害者の自由な移動を助けるナビゲーションロボットで、試行錯誤すること6年、さまざまな場での実証実験を進めています。

イノベーションには、走りながら改善することも必要。そして、一度始めたら最後までやり遂げる、あきらめないこと。未来館についても、訪れた世界中の人同士があちこちで語り合い、イノベーションが広がるハブにしていけたら。

60代になり、私自身は歳と共に元気になっていると感じていますが(笑)、いずれ次世代にバトンを渡すときがくる。その体制もしっかりつくりつつ、体が動く限りは走り続けたいです。

「気候変動」から「老い」まで体験できる新展示が日本科学未来館に登場!

日本科学未来館

浅川さんが館長を務め、先端の科学技術に触れられる日本科学未来館が、7年ぶりに大規模リニューアル! 新展示では、環境問題、ロボットとの共生、超高齢社会…といった社会課題への向き合い方や解決のヒントを、さまざまな体験を通して、大人も楽しく学べる。未来とこれからの生き方を考えるきっかけになるはず。『日本化学未来館』公式HP

2023年Oggi3月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 ヘア&メイク/佐藤美香 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

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浅川智恵子(あさかわ・ちえこ)

1958年、大阪府生まれ。日本科学未来館館長、IBMフェロー。11歳のときの事故が原因で14歳で全盲に。追手門学院大学文学部卒業後、プログラミングを習得。1985年より日本IBMで、日本語デジタル点字システムやホームページ・リーダーなど、視覚障害者のアクセシビリティを支える技術を開発。2004年、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程を修了、博士(工学)取得。2013年紫綬褒章受章、2019年全米発明家殿堂入り。米カーネギーメロン大学特別功労教授を兼務し、2021年に日本科学未来館の館長に就任。現在も、AIスーツケースなど意欲的に開発を続ける。近著に『見えないから、気づく』(早川書房)。


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