「ダビング」という言葉にピンとくる人、どれくらいいるでしょうか? 今ではあまり耳にしなくなりましたが、昭和のおじさん世代にとっては、特別な思い出の詰まった言葉かもしれません。
お気に入りの曲をカセットに録音したり、ビデオに番組を保存したり。そんな時代の楽しみが「ダビング」にはこもっています。この記事では、昭和の思い出とデジタル時代との違いを探りながら、昭和という時代を感じてみてください。
「ダビング」って何? その意味と時代背景
「ダビング」という言葉は、今ではほとんど聞かれなくなりましたが、かつては日常の一部でした。特に昭和世代にとっては、音楽や映像を楽しむための大切な手段でもあったのです。当時の文化や生活に根付いた「ダビング」の意味を紐解いていきます。
「ダビング」の本来の意味
まずは、辞書で意味を確認しましょう。
ダビング【dubbing】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[名](スル)
1 録音・録画されたものを別のテープなどに複製すること。また、HDDレコーダーに録画されたデータを光ディスクなどに複製すること。
2 映画・放送などで、せりふ・音など別々に録音したものを、伴奏音楽や擬音を追加しながら、1本のフィルムまたはテープにまとめること。
「ダビング」は、かつてカセットテープやビデオテープに音楽や映像を複製することを意味していました。
当時は、仲のいい友人同士でダビングしたテープを貸し借りしたり、交換し合うことも多かったようです。アナログな手作業を通じて、音楽や映像を共有する喜びがありました。今でいう「コピー」や「データのダウンロード」といった作業に似ていますが、手間をかけた分、そこには特別な思い出が生まれていたのかもしれません。
「ダビング」の由来と背景
「ダビング」という言葉は、元々映画や放送の制作現場で使用されていたものでした。具体的には、 撮影中に収録した台詞に、後から音楽や効果音を加える作業を指していました。
やがて「ダビング」という言葉の意味は、映画の音声編集作業を超えて広がりました。特に テープレコーダーの普及 によって、音楽や音声の録音内容を別のテープにコピーする行為が「ダビング」と呼ばれるようになったのです。
この頃から、「ダビング」はコピー作業全般を指す言葉として一般に広まりました。その後、技術の進化とともに「ダビング」の対象は音声だけでなくビデオ記録にも拡大したのです。
現代では「ダビング」は広義に解釈され、コピーや移動の作業を含む多義的な言葉となっています。こうした曖昧さが生じるのは「ダビング」が学術用語ではなく、映画や音楽業界で生まれた慣用語であるためでしょう。
参考:『日本大百科全書』(小学館)
会話での「ダビング」の使われ方
「ダビング」という言葉、日常の会話の中ではどのように使われていたのでしょうか? 当時のリアルなシーンを思い浮かべながら、具体的な会話の例をいくつか紹介します。
「この曲いいよね、ダビングしておいてくれる?」
例文のように好みの曲のダビングを友人に頼むのは、ごく普通の光景でした。お気に入りの曲を集めたカセットを作るのは一種の趣味で、自分だけで楽しむのではなく、友達同士で交換するのが流行していました。プレゼントとして渡すことで、特別なメッセージを伝える手段にもなっていたのです。
「昨日のドラマ、見逃しちゃったんだ。ダビングしておいてくれない?」
上記のような会話もよく耳にしました。録画機能が限られていた時代、VHSテープは貴重な情報源で、録画した映画や番組を家族や友人とシェアするためにダビングが活用されていました。特に、シリーズ物のドラマや人気映画は、みんなで回して観る楽しみがあったのです。
「ダビング」の類語と現代の言い回し
「ダビング」は、アナログメディアが主流だった時代の言葉だといえるでしょう。しかし、テクノロジーの進化と共にデジタル化が進むにつれて、その表現も変化していきました。今では「コピー」や「バックアップ」といった言葉が一般的に使用されています。
コピー
「コピー」は、データやファイルをそのまま複製する作業を指すのが一般的です。書類の複製から、画像や動画のコピーまで、様々なシーンで日常的に使われています。手間をかけずに瞬時に複製できるため、「ダビング」よりもスピーディーな印象が強いかもしれません。
バックアップ
「バックアップ」は、万が一に備えてデータを複製しておくという意味で使われています。また、複製そのものを「バックアップ」ということもありますよ。
単なる複製というよりも、情報の保護や予備対策としての役割が強調されています。デジタルデータが増え続ける現代において、重要なファイルの損失を防ぐための標準的な方法となっています。
「ダビング」にまつわる、ちょっとした笑い話
「ダビング」にまつわるちょっとしたエピソードを紹介しましょう。ダビング全盛時、友人に「この曲、ダビングしておいて」と頼んだものの、録音を頼まれた相手が間違えて全く別の曲を入れてしまうということがよくありました。急いで録音したり、カセットが裏返ったりしていると、思わぬハプニングが生まれるのもアナログならではの面白さでした。
そんな失敗も、結局は友人同士の笑い話に。思い通りにいかない分、手作業の温かみが感じられた時代でした。「違う曲が入っていたけど、意外と気に入った」なんてエピソードが、その後の音楽の趣味を広げるきっかけにもなったようです。今では考えられないアナログのよさが、そこにはあったのかもしれません。
最後に
昭和のおじさんたちが愛用していた「ダビング」という言葉には、ただのコピー以上の意味が込められていました。友人とお気に入りの曲を交換したり、家族と一緒に録画したビデオを楽しんだりと、あの時代ならではの温かさが感じられます。
今ではデジタルで簡単に共有できる時代ですが、あの頃の手間をかけた時間こそが、実は大切な思い出になっているのかもしれませんね。
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