連載「Road to 役員 ~働く私たちが先輩に聞きたいこと~」vol.3: NTT東日本 執行役員 神奈川事業部長 相原朋子さん【前編】
大企業の中で役員、取締役など責任ある立場で働く女性の方にインタビューする連載「Road to 役員 ~働く私たちが先輩に聞きたいこと~」。今後さらにキャリアアップしたい、上を目指したいと考えるOggi世代のロールモデルとなるような女性たちにお話を伺います。
第3回は、NTT東日本で執行役員を務め、神奈川事業部長としてもご活躍中の相原朋子さんが登場です。
NTTグループ内での転籍や部署異動も経験しながら、一貫してNTTグループでキャリアを築いてきた相原さん。現在の仕事に対するやりがい、勤務年数やライフステージの変化に伴う気持ちの変化、社外活動についてなど、じっくりお話を伺います。
「電話の会社」ではなく「電話もやっている会社」と言われる未来へ
Oggi編集部(以下同)――現在、NTT東日本の執行役員として神奈川事業部長も務められていますが、普段のお仕事内容を教えてください。
相原朋子さん(以下敬称略):NTT東日本といえば、皆さん「電話の会社」というイメージをお持ちかと思いますが、最近はICT(情報通信技術)の提供に力を入れていて、DX(デジタル変革)やAIといったサービスも展開しています。
特に神奈川県内では、ネットワークのインフラ整備が重要で、コロナ禍以降はオンライン化が進み、通信インフラの需要がますます増えました。そのため、ネットワークの工事や保守などを通じて、安定したサービスを提供することが私たちの大きな役割です。
加えて、自治体や企業のお客様に対してDX推進をサポートすることも重要です。大企業から中小企業まで、さまざまな規模の企業と一緒に社会課題の解決に取り組んでいます。最近では、気候変動や人手不足といった課題も大きく取り上げられていて、そうした課題に対応するためのソリューションを提供しています。
また、神奈川県内のまちづくりにも関わっていて、行政との協力はもちろん、地域の学校やさまざまな団体と連携しながら、地域に根ざした活動をしています。首長や県知事とも直接お会いする機会が多く、地域の方々と密に連携しながら仕事を進めています。
▲会議中の風景
――「電話の会社」というイメージが強かったので、NTT東日本が神奈川県のまちづくりにも関わっているとは驚きました。
相原:そうですよね。私は9年前に神奈川事業部に担当部長として勤務していたのですが、そのとき、神奈川県には海も山も観光地も都会もあり、日本の縮図のようで非常に魅力的だと感じていました。
なので、再び事業部長として戻ってこれたことは本当に嬉しかったです。もちろん、神奈川県全体をリードするという大きな責任もありますが、その分達成感も大きく、やりがいを持って取り組んでいます。
――では、途中で転職を考えたことはありませんでしたか?
相原:結果的に、転職は考えませんでしたね。NTTドコモやグループ会社への転籍など、グループ内で4社、13の部署を経験してきました。例えば、NTTドコモでは7年前にVTuberやメタバース関連のプロジェクトに携わり、中国、台湾、韓国の企業と協力して、NTT東日本では経験できないような仕事もしていました。
常に新しいことに挑戦させてもらっていたので、転職しなくても2~3年ごとに転職したような感覚があったのかなと思います。
――VTuberやメタバースですか? さまざまなプロジェクトがあるのですね。
相原:NTT東日本では、最近農業にも取り組んでいるんです。ビニールハウスでレタスやトマトを育て、それをJAやスーパーに卸しているんですよ。農業を支えるためには、自分たちで実際に作ってみて、どうやってICTやIoT(モノとインターネットをつなげる仕組み)を活用できるかを知る必要があるんですよね。それによって、農業向けの通信サービスや機器を提案しています。
▲NTTグループで手掛けているのは、電話だけでなくドローン事業やメタバース関連のプロジェクトなど実は多岐にわたる
また、ドローンの会社「NTT e-Drone Technology」も立ち上げました。高齢化が進む農業では、農薬散布などをドローンで行うニーズが高まっています。さらに、ダムの点検など労働力不足が問題となっている分野でも活用されています。例えば、3時間かかる点検作業もドローンにプログラムして行わせ、異常があれば人が対応するという仕組みです。
「NTTって電話の会社だよね」ではなく「電話“も”やっているよね」と言われるような企業になればいいなと思っています。
「次の世代のために」先輩から託されたバトン
――常にやりたいことが明確で、順調に経験を積んでこられたのでしょうか?
相原:いえいえ。「社会を豊かに、楽しく、便利にしたい」という思いはありましたし、通信や情報がこれから伸びていくのだろうということは感じてはいましたが、入社したばかりの頃は具体的に何をしたいのか自分でもわからず、上司の前で泣いてしまったことも……。
5年目ぐらいまでは、与えられた仕事をしっかりこなすことに集中し、徐々に経験を積む中で、社会課題の解決やソーシャルイノベーションに取り組む意義が見えてきました。メタバースなども一見異なる分野に見えますが、ネット上での人々のつながりや文化形成にも意味があるんですよね。やっている仕事とやりたい軸が繋がって、だんだん結びついて今に至るといった感じです。
――会社を辞めたいと思ったことはありますか?
相原:設立されたばかりで、社員15人のスタートアップ企業のようなグループ会社にいたとき、責任の重さに圧倒されて、お客様との会話が苦しくなり、精神的に追い込まれた時期がありました。会議を途中で抜けてしまったりして、その時は「もう続けられないかもしれない」と思いましたね。
でも、別の部署の先輩から「チームでやっているんだから、一人ですべてを背負う必要はない」と言ってもらえたことで、考え方が変わり、何とか踏みとどまることができました。
30代は転機が多く、選択や新たな挑戦が伴う時期です。振り返ると、そんな時に助けてくれる仲間やアドバイスをくれる先輩の存在が非常に大切で、私も先輩をはじめ多くの方々のおかげで、困難な時期を乗り越えることができたと感じます。
――相原さんも、そんな困難な時期があったのですね。勤務年数やライフステージの変化とともに、気持ちや考え方に変化はありましたか?
相原:入社して3年目くらいの頃から、漠然と「いずれ管理職になって、仕事と家庭を両立したい」と思っていました。当時、職場には女性のリーダー的な存在の先輩がいて、男女雇用機会均等法が施行されたばかりの時代に、女性社員の先頭を走っておられました。
でもまだ制度が整っていないこともあって、その先輩は「管理職と子育ての両立は難しい」と感じて退職されました。「みんなの時代は変わるから、頑張ってね」と言って辞められたとき、バトンを渡された気がして、私も「次の世代のために道を作らなければ」と感じたんです。
その時は、両立の大変さを知らないまま管理職を目指していましたが、実際に管理職としての責任を担う中で、やりがいが増してきましたし、時間の管理もしやすくなったと感じています。課長、部長、そして役員と進む中で、仕事のコントロールができるようになり、今ではやりがいもさらに大きくなりました。
最初は「女性のロールモデルになりたい」という気持ちが強かったのですが、働きやすさが大切なのは女性に限ったことではないと考えるようになりました。今は、チームで信頼関係を築くことを大切にしていて、働き方などについても自由に意見を出し合える環境を作ることにこだわっています。信頼関係があれば、たとえ意見が違ってもお互いを受け入れやすくなりますから。
――入社したばかりだと、上司に話すのはすごく緊張しますよね。世代問わず、うまくコミュニケーションをとるために何か工夫されていることはありますか?
相原:まず、役職で呼ばれるのがあまり好きではないので「事業部長って言ったら罰金ね(笑)」と冗談交じりに言いつつ、「相原さんって呼んでね」とお願いしています。役職ではなく名前で呼んでもらうことで、関係をフラットに保ちつつ、肩書きにとらわれずに人と人として向き合いながら仕事をしたいと考えているので。
あと、私のところへ説明に来てくれた人が帰るときには、飴をあげるというちょっとした習慣も取り入れています。サイダー飴とカルピス飴の2種類をトレイに置いて、「どうぞ1個」と渡すんです。特に成果を出した人には、チュッパチャップスをプレゼント(笑)。リラックスできる瞬間をつくれるように心がけています。
――飴って、大人はもらう機会も少ないので意外とうれしいですね!
NTTグループ、女性役員有志による新たな挑戦
――NTTグループの国内主要6社では、女性役員の割合が2019年度比で16.6ポイント増の23.7%に達し、現在女性役員が集まって活動もされていると伺いました。立ち上げの経緯や活動内容について教えていただけますか?
相原:私が役員になる前年の2022年に、NTTグループの女性役員有志による「チームSelf as We」という団体が立ち上がりました。女性役員の増加を受けて、私たちが力を合わせることで社会に貢献できるのではないかという思いから始まったものです。
活動には「後進育成」と「社外活動」の二つのグループがあり、私は「社外活動」のグループに所属していますが、たとえば理系分野に進む女性を増やし、ICTや通信分野での活躍を促進するような取り組みを行っています。今年6月には、中学生向けに理系の魅力を伝える体験イベントを開催しました。
――子どもたちの将来の選択肢が広がり、相原さんと同じ道に進みたいという理系女子も増えそうですね。やはり役員に女性が増えることで変化はありますか?
相原:そうですね。経営会議に女性役員が出席するようになると、社内での意思決定の幅が広がると感じます。支店長も女性が3人いますが、そういった多様性があることで、いろいろな意見が取り入れやすくなります。
男性が言うと伝わりにくい部分でも、女性がいると話が通じやすいこともあるので、できることが増えてきたと思います。Oggiの読者の皆さんも、同じような立場に立って、一緒にネットワークを広げられたら素敵ですね。
違う世界の人たちと繋がる「越境活動」をすすめたい理由
――女性役員が増えることで、社内だけでなく、さまざまなコミュニティも活性化するのではないでしょうか?
相原:はい。女性リーダーの育成や支援のために、業界や企業の枠を超えたコミュニティは大事だと思います。たとえば、「J-Win」というNPO法人があり、私も10年ほど前に会社の研修で参加して以来、引き続き参画しているのですが、女性役員が増えることで、さらに多様な人材とともに、幅広い活動ができるようになるのではないかと思います。
――「J-Win」での活動は、仕事上で何かプラスになったことはありますか?
相原:それまで私はこの会社一筋で、どうしても自社の考え方に偏っていたんですよね。でも、異業種の方々と関わることで、全然違う価値観や取り組みに触れることができて、本当に刺激を受けました。「こんな世界があるんだ!」と、目から鱗が落ちる瞬間が何度もありました。
だからこそ、Oggi世代の皆さんにもぜひ「越境活動」をしてほしいなと思います。副業やボランティアなど、会社によってはいろんな形でダブルワークが認められつつある今、そうした外の世界に飛び出して、学びを得てほしいんです。私は少し遅かったかもしれませんが、40代前半にこの活動に参加して、自分の視野が一気に広がりました。
そのとき、150社ほどの女性が集まる中で、私が幹事のリーダーを任されたんですが、正直最初は全然ダメで(笑)。会社では部長をしていたけど、同じ価値観の人たちをまとめるのと、まったく背景が違う人たちをまとめるのでは大変さが全然違うんです。
フラットな関係の中で、役職関係なく、みんなを引っ張っていくのがこんなに難しいとは思っていませんでした。何度も理事長に怒られましたが(笑)、そこで学んだことが今の私のリーダーシップのスタイルに大きく影響しているのかなと思います。
――違う世界に飛び込むことで、個人としても仕事の上でも成長できたのですね。
相原:少し前に「自分の2枚目の名刺を作ろう」という言葉が話題になったこともありますが、仕事以外でも活躍できる機会があるのなら、ぜひ手を挙げてほしいと部下には伝えるようにしています。もちろん、子育てなどで忙しい時期は難しいかもしれませんが、少し落ち着いて時間が取れるようになったら、自分の幅を広げるために会社以外の居場所を持つことが大事だと思っています。
「サードプレイス」を持っている人って、すごく強くなると思うんです。自分が居心地の良い場所をあえて飛び出して、違う世界で違う人たちと繋がってみる。そうすることで、新しい価値観に触れ、経験を積むことができる。そして、その場所がサードプレイスとして、仕事と家庭、そして自分という三つの軸を持つきっかけになると思います。
仕事はもちろん大切だし、家庭も大切。でも、家庭のあり方も人それぞれですし、子どももいずれは巣立っていく。その時、自分というフィールドをしっかり持っている人の方が、もっと豊かな人生を送れるんじゃないかなと。サードプレイスを見つけるための一歩を踏み出せば、それが自分のやりたいことや生きがいに繋がっていくんじゃないかと思います。
私も20代後半や30代の頃は本当に迷子のような状態でしたが、40代前半になってようやくサードプレイスを見つけることができました。もし30代の頃にそれができていたら、もっと早く自分の軸ができていたんじゃないかなと思います。
仕事で辛いことがあっても、別の場所で頑張ることでバランスを取ることができるので、ぜひ皆さんにも、そういう場所を探してみてほしいなと思います。それがきっと未来への力になるはずです。
相原朋子さん
NTT東日本 執行役員 神奈川事業部長
1969年生まれ。1992年4月 NTT 入社し、2015年4月 NTT東日本 神奈川事業部営業企画部担当部長、2017年7月 NTTドコモ ビジネス基盤戦略室担当部長、2022年7月 NTT東日本 デジタル革新本部企画部長を経て、2023年6月 NTT東日本 執行役員 神奈川事業部長に就任。
撮影/黒石あみ 取材・文/篠原亜由美