連載「Road to 役員 ~働く私たちが先輩に聞きたいこと~」vol.2:アヲハタ株式会社取締役 藤原かおりさん
大企業の中で役員、取締役など責任ある立場で働く女性の方にインタビューする連載「Road to 役員 ~働く私たちが先輩に聞きたいこと~」。今後さらにキャリアアップしたい、上を目指したいと考えるOggi世代のロールモデルとなるような女性たちにお話を伺います。
第2回は、国内シェアトップのジャムブランドとして誰もが知る「アヲハタ」で取締役を務める藤原かおりさんが登場。
カルビー勤務時代、シリアル商品の「フルグラ」を大ヒットさせ、日経WOMAN主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」でベストマーケッター賞を受賞。2020年3月にはキユーピー初の最年少女性上席執行役員に就任し、2024年2月にはアヲハタ初の取締役に就任。
輝かしい経歴を持つ藤原さんに、これまでのキャリアストーリーや目標を達成する方法、女性活躍のために必要なことまで、たっぷりお話を伺います。
会社や分野が違っても上に立つ人が大切にすべき「客観性」
Oggi編集部(以下同)――今年2月にアヲハタの取締役に就任されたということですが、普段はどのような仕事をされていますか?
藤原かおりさん(以下敬称略):マーケティングと研究開発を担当しているのですが、実は研究開発に携わるのは初めてなので、非常にチャレンジングです。そのなかでも、特に私が力を注がなければいけないと考えていることが3つあります。
まずは、フローズン事業の成長です。ジャムの「アヲハタ」からフルーツの「アヲハタ」へ、とスローガンを掲げ、約3年間取り組んできましたが、これからの2、3年が勝負だと考えています。
次に、ジャムカテゴリーの再活性化です。新たなスローガンを掲げても、やはりアヲハタの事業基盤はジャムなので、今までジャムを使っていなかった方や若い世代にもジャムの良さを知ってもらえるよう努めたいと思っています。
最後に、ブランド力の強化です。「アヲハタの商品なら少し高くても買いたい」と思ってもらえるよう、ブランディングを強化しています。最近では、3月に表参道でフルーツパーラーを開き、7月の代々木のイベントでは「くちどけフローズン」をサンプリングし、若い世代にもアヲハタを知ってもらう取り組みをしています。
――「くちどけフローズン」のフルーツは凍っているのに食べるとやわらかい! さらに冷凍臭のようなものはなく、フルーツのいい香りがするのには驚きました。
藤原:ありがとうございます。アヲハタ独自の製法で、フルーツを果汁に漬けてから凍結させることで、凍っていてもやわらかく、香りの良いフルーツを提供できるようになりました。この新しい冷凍フルーツは、冷凍庫から出してすぐに食べられるのが特徴です。
パッケージのサイズ感から、スーパーのアイスコーナーにあると思われることが多いのですが、実際に並んでいるのは冷凍食品コーナー。もっと認知度を上げて、販売店舗も増やしていきたいと考えています。
――ジャムの再活性化についてもお話がありましたが、藤原さんがこれまで一購入者として感じていた意見も反映されているのですか?
藤原:私は上に立つ立場なので、できるだけ主観で物を言わないように心がけています。デパ地下や旅行先で見つけた興味深い商品について情報共有することはありますが、「おいしい」や「おいしくない」などの感覚的な意見は言いません。
ただし、これは重要だと思うことがあれば、ファクトに基づいて「この分野はこういう理由で伸びるだろう」とメンバーに提案します。
リーダーになる目標はおろか、自分の道さえ決まらず悩む日々
――藤原さんは何度か転職をされていますが、ご自身のキャリアにおけるターニングポイントとなった場面を教えていただけますか?
藤原:新入社員として入社したのは旭硝子でした。大学を出たばかりでまだ学生気分が抜けていなかった私が仕事の現実を学んだ場所。ここで仕事の基本を教えてもらったことが一つ目のターニングポイントでしょうか。
その後、広告代理店からダノンウォーターズオブジャパンへと入社し、ミネラルウォーター「ボルヴィック」の仕事を担当したとき、キャリアがやっと定まったと感じました。ここが二つ目のターニングポイントです。
次にカルビーに転職し、マネジメントの道を歩み始めたことが三つ目の大きなターニングポイントです。
――就職する際には、やりたいことは明確になっていなかったのですか?
藤原:全然明確になっていなかったです。マーケティングをやってみたいという揺るぎない思いはありましたが、具体的なことはわかりませんでしたし、「素敵な男性はいないかな…」なんてふわふわした気持ちもありながら働いていました。若かったですね(笑)。その後も、自分の中でこれだという道が定まるまでが一番辛かったかもしれません。
――カルビーでマネジメントの道を歩み始めたということですが、昔から率先して人の上に立つタイプだったのですか?
藤原:中学・高校時代、県大会ベスト8に出場するほど打ち込んでいたテニス部で、ずっと副キャプテンを務めていました。キャプテンではないんです(笑)。決してリーダーを務めることが得意なタイプではないですね。
なってみて初めてわかった、リーダーの重責を上回る楽しさ
――管理職になってみて、良かったと思う点はありますか?
藤原:カルビーで「フルグラ」を担当していた際は、自分が最終決定者だったので、やるべきだと思ったことを実行できるのが良かったですね。組織の長でないと、自分の意見を通すのは難しいことも多いですが、決定権がある立場では、そのようなストレスが少ないのが魅力です。もちろん、責任が増して大変な部分もありますが、それを上回る楽しさを感じています。
――上に立つ立場として、気を付けていることはありますか?
藤原:リーダーとして大事なことは、しっかりと伝えること、決断すること、そして逃げないことです。これらはカルビーで学んだことでもあります。また、メンバーがわくわくしながら仕事をしているか、成長を実感できているかを定期的に確認します。頑張っている人に報酬で応えることも重要なので、そうした点にも意識を向けていますね。
――マネジメント方法は、時代とともに変わるものですか?
藤原:昔は、カリスマ的なリーダーがトップダウンで指示を出すのが良しとされていました。今でもそのアプローチが有効な場面はありますが、現在は、ひとりひとりのメンバーを大切にし、アイデアを形にして一緒に成長していく方法がより効果的ではないかと思っています。ただし、リーダーシップの取り方も時代とともに変わるため、常に現在の方法が最適かどうかを見直していく必要があります。
女性リーダーが成功するために必要なサポートとは
――日本では企業内の女性役員の割合はまだ少ないですが、女性がもっと活躍するために企業で必要なことは何だとお考えですか?
藤原:男性の意識改革も必要だと思いますし、「女性には無理だ」とか「若いから経験がないので無理だろう」といった偏見をなくし、もっと積極的にチャンスを提供する文化を、企業のみならず日本全体で作っていく必要があります。そうした変化を促進することが、より良い環境を作るための鍵だと考えています。
――変化のスピードをあげるためには、前例となる事例をどんどん出していくしかないんでしょうか。
藤原:女性や若手を上に昇進させることは重要ですが、その後の支援も非常に大切です。昇進させた後にサポートを怠ると、結局その人が失敗する原因になってしまいます。
私自身もカルビーで昇進させてもらった際に、「失敗しないように全力でサポートする」と言われ、スムーズに物事を進められるような環境を作ってもらいました。なので、今度は自分がしっかりサポートする側に回りたいと思います。
それから、女性に関しては、結婚や出産でキャリアにブランクが生じることがありますが、一時的にペースダウンをしても活躍できる環境を整えることも重要です。例えば、長時間働かなくても十分に成果を上げられるような働き方を実現すること、皆が働いている時間帯に帰りにくい状況を作らないようにすることも、私が気を付けている点です。
――今後の仕事のビジョンを教えてください。
藤原:アヲハタは瀬戸内海に本社を構えており、海外展開はあまり進んでいないのですが、拠点は持っており、原料加工などは行っています。なので、今後は日本の瀬戸内海にあるアヲハタというフルーツを生産している会社を、世界中の人々に知ってもらうことが目標です。これには5年か10年かかるかもしれませんが、じっくり取り組んでいきたいと思っています。
――今の時代、SNSを使って情報が急激に広まることもありますよね。
藤原:そうなんですよね。広島本社には「ジャムデッキ」という、ジャムづくりを体験できる素敵な施設があるので、この施設を観光スポットとして、SNSも活用しながらもっと広めていけたらいいなと思います。
本社の最寄り駅近くには野生のうさぎが多く棲息していることで有名な大久野島があり、外国人観光客に人気があります。広島には宮島もあり、観光客が多く集まるエリアなので、アヲハタにも立ち寄ってもらい、地域の魅力を伝えたい。
地元の方でもアヲハタの本社が広島にあることを知らない方が意外と多いので、地域色を強めることで、地元の認知度も高めていけたらいいなと思っています。
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撮影/五十嵐美弥 取材・文/篠原亜由美