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2025.11.13

昭和の慣用句「蕎麦屋の出前じゃないんだから」から学ぶ日本語のユーモア

「蕎麦屋の出前」とは、質問や確認に対してはっきり答えずにごまかすことをたとえる慣用句です。本記事では、「蕎麦屋の出前」の意味や語源、使い方と注意点、類語、英語表現、よくある疑問と回答を紹介します。

この記事のサマリー

・「蕎麦屋の出前」とは、あいまいな返答やごまかしをたとえた慣用句です。
・昭和の出前文化をもとに生まれた、ユーモラスな日本語表現。
・ビジネスシーンでは冗談や砕けた場で使い、目上の人に使うのは避けましょう。

打ち合わせの席で、上司から「蕎麦屋の出前じゃないんだから」と言われて、意味がわからず笑ってごまかした… そんな経験はありませんか? デリバリーに関する言葉のようですが、どんな背景から生まれ、どんなときに使うのか、気になりますよね。

この記事では、「蕎麦屋の出前」が生まれた背景や使い方を、辞書の記述に基づいてわかりやすく解説していきます。

「蕎麦屋の出前」とは? 意味・語源を整理

まずは、「蕎麦屋の出前」の意味・語源を整理します。

「蕎麦屋の出前」の意味

「蕎麦屋の出前」とは、質問や確認に対してはっきり答えずにごまかすことをたとえる慣用句です。

会話では「蕎麦屋の出前じゃないんだから、ちゃんと答えてくれ」といった形で使います。

語源|なぜ「蕎麦屋」を使うのか?

この言葉の背景には、昭和の時代に広く親しまれた蕎麦屋の出前文化があります。

注文した客が蕎麦屋に電話をして「まだですか?」と尋ねると、店の人は明らかにまだ作り始めていないにも関わらず、「今出ました」と答える。しかし、待てど暮らせど届かず、埒が明かない… そんな場面をなぞらえた表現です。

こうした、ごまかしや曖昧な返答を指して、「蕎麦屋の出前」と呼ぶようになったようです。

現在では、デリバリーアプリを開けば「あと5分で到着」「配達員は200メートル手前」といった情報が一目でわかりますね。

しかし当時は、店側の言葉を信じるしかありませんでした。遅延をやわらかくはぐらかす店の口ぶりを、「また始まったよ」と親愛と皮肉を込めて表現したのが、この慣用句なのかもしれません。

(c) Adobe Stock

ビジネスや日常会話での使い方と注意点

「蕎麦屋の出前」は、冗談や皮肉を交えた言葉として使いますが、使い方を誤ると失礼になることもあります。ここでは、社会人が安心して使える例と注意点を整理しましょう。

ビジネスシーンでの使い方

「蕎麦屋の出前」は、「ごまかすのはやめて、正直に話してほしい」というやんわりとした注意として機能します。

(例)
上司が部下に「この件の進捗、どうなってる?」と尋ねた際に、明らかに手をつけていない部下が「もうすぐです」と曖昧に答えたときに「蕎麦屋の出前じゃないんだから」と返す。

日常会話での使い方

日常会話では、「曖昧な返事」や「のらりくらりした態度」に対して、親しみを込めて指摘する際に使います。


友人が「もう行く」と言いながらなかなか来ないとき、「蕎麦屋の出前か!」と笑いながらつっこむ。

この使い方なら、笑いのある雰囲気を作り出し、相手を責めるように聞こえないのがいい点です。

使うときの注意点と言い換え表現

「蕎麦屋の出前」はユーモラスな慣用句です。

そのため、改まった場面や目上の人への発言では、「進捗を教えてください」「状況を具体的にうかがえますか?」といった丁寧な表現を選ぶのが適切でしょう。

(c) Adobe Stock

「蕎麦屋の出前」の類語表現

「蕎麦屋の出前」には、いくつかの類語があります。近い意味を持つ表現を辞書の定義に基づいて紹介します。

「曖昧(あいまい)」

「曖昧」は、「態度や物事がはっきりしないこと」を意味します。

さらに「責任を曖昧にする」「曖昧な説明でごまかす」のように、意図的に物事をはっきりさせない場合にも用いますよ。

「のらりくらり」

「のらりくらり」とは、はっきりした答えを避けて受け流すさまを表します。態度の曖昧さや要領のよさを皮肉として伝えることもあります。

「煙に巻く(けむにまく)」

相手がよく知らないことを言い立てて、茫然とさせたり、相手をまどわせたりすることを指す言葉が「煙に巻く」です。

巧みに話をそらし、相手を混乱させるさまを表す言い回しです。

参考:『デジタル大辞泉』、『日本国語大辞典』(ともに小学館)

「蕎麦屋の出前」の英語表現

「蕎麦屋の出前」は、質問や依頼に対してあいまいに返答する日本語特有の比喩表現です。英語で近い意味を持つ言葉を紹介します。

“ambiguous”

“ambiguous” は「どうにでも解釈できる」「多義的な」という意味で、あいまいな返答や説明を指します。

「はっきりしない答え」「どちらとも取れる発言」を表すときに使います。

例文
“She gave an ambiguous answer to his question.”
(彼女は彼の質問にあいまいな返答をした。)

参考:『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)

“becloud”

“becloud” は「判断力を曇らせる」「事実をあいまいにする」という意味の動詞です。比喩的に、物事を意図的にぼかす・ごまかす場面に使います。

例文
“The unclear explanation only beclouded the truth.”
(そのあいまいな説明は、かえって真実を見えにくくした。)

参考:『プログレッシブ英和中辞典』(小学館)

「蕎麦屋の出前」に関するFAQ

ここでは、「蕎麦屋の出前」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。

(c) Adobe Stock

Q1. 「蕎麦屋の出前」は今も使う言葉ですか?

A. はい。

昭和世代を中心に知られる表現ですが、あいまいな返事や進捗のごまかしを表す比喩として、現在も会話やコラムなどで使われています。

Q2. 「蕎麦屋の出前じゃないんだから」と言われたら、怒られているのでしょうか?

A. 多くの場合は、皮肉や冗談を交えた軽い注意です。

ただし、上司など目上の人が使う場合は「はっきり答えなさい」という指摘の意味を含むため、受け取り方に注意しましょう。

Q3. ビジネスシーンで使っても大丈夫ですか?

A. 目上の人や社外の相手には避けた方が無難です。

同僚との雑談など、カジュアルな場面での使用にとどめましょう。

最後に

昭和の時代は、多少あいまいな返事があっても、それを受け入れる余白がありました。それを追及する術もなく、「まあ仕方ないか」と笑いに変えてしまう大らかな空気だったと言えるでしょう。

一方で、現代は即時の反応や明確な報告が求められる時代です。だからこそ、「蕎麦屋の出前」のような、ちょっとしたごまかしを、ユーモアで包む人間味のあるやりとりが、私たちにとってはどこか懐かしく、ギスギスしがちな心を和ませてくれるのかもしれません。

TOP画像/(c) Adobe Stock

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