気がつけば、また同じことを考えてた…… ってことはありませんか?
せっかく楽しい時間を過ごしていても、心がふっと過去の暗い思い出にもっていかれたり、グルグル同じことを考えてしまったり…… 誰しも、そんな心ここにあらずの状態になることはあるはず。
そのような心の状態を脱して、自分がいま本当にやるべきこと、やりたいことができるようになる心理療法こそ、1980年代に米国で生まれ、WHO(世界保健機構)もストレス対策として推奨している“ACT”。
そこで、このACTの理論を豊富なイラストでわかりやすく解説している書籍『ACT 不安・ストレスとうまくやる メンタルエクササイズ』より、ACTの考え方や、自分でできるメンタルエクササイズをご紹介!
※書籍より一部引用・再編集してお届けします
人間は頭の中で問題をこねくり回す習性がある
人生に不安や恐怖や悩みはつきもの。
でもそれは「これからバンジージャンプをしなくちゃいけないけれど、怖くて足がすくむ」とか「目の前にヒグマがあらわれた。逃げるべきか、戦うべきか」という、「今、ここ」にある危機のようなことは少ないものです。
たとえば過去の失敗や失言がまったく無関係のタイミングでよみがえり、「自分はダメな人間だ」と落ち込むことはないでしょうか。
まだ起こるかどうかもわからない未来を、憂うこともあるでしょう。
自分はちゃんと就職できるのか、恋人が浮気しないだろうか、うちの子に早くから英語を学ばせないと将来困るのではないか、老後の貯蓄は2000万円必要なのに1890万円足りないぞ、などなど。
あるいは、今、目の前にいない人に腹を立てることもあるかもしれません。過去に傷つけられた言葉を思い出し、ふつふつと心の内側に怒りが湧き、誰も聞いてはいないのに言い訳や反論を頭の中で言い続けてしまうかもしれません。
今、目の前にいない人のことを思って、悲しくなることもありますよね。
美しい夕日を見て感動した瞬間に、「あの人といっしょに見られたらよかったのに」と涙があふれてしまうのです。せっかくきれいな夕日なのに。夕日にはなんの罪もないのに。
もちろん、「今、この瞬間のつらさ」を抱えている人もいるでしょう。
治らない病気、絶え間なくやってくる身体的な痛み、家族に関する深刻な問題、どうしようもない自己嫌悪…… そんな避けられないつらさもこの世には数多くあります。
不安や悲しみや怒りや精神的な苦痛が訪れたとき、私たちは考えます。どうすれば解決するのか、どうすれば苦痛を取り除くことができるのか。
考えて考えて、さらに考えて、もっと考えて、自分を責め、自分をなじり、再び考え、誰かをうらやみ、不幸を嘆き、それでも考え、とことん考え、そのぶん傷ついているのではないでしょうか。
でも、ちょっと待ってください。
あなたを責めているのは誰ですか?
あなたの頭の中に浮かぶ言葉を発しているのは、いったい誰ですか?
「3年前の上司の言葉だ」ということもあるでしょう。でもその上司が言ったのは3年前です。
今、あなたの頭の中で言葉を生み出しているのは、あなた自身です。
では、「老後の資金が足りない」という不安をあおっているのは誰でしょう。
政府かもしれません。でもあなたに向かって言っているのではありません。あなたの耳元で直接ささやいているのは、あなた自身です。
幼いころに虐待を受けて、今でも心身の苦痛を感じて生きづらくなっている人もいます。
そのつらさは察するに余りありますが、現在はもう虐待を受けていないとすれば、フラッシュバックさせているのはやはり、あなた自身の脳なのです。
これはなにもあなたに限ったことではありません。誰もが経験していることなんです。
10代の若者にも、人生経験豊富な高齢者にもあります。私たちはみな、さまざまな苦痛や苦難や不安やコンプレックスを抱えて生きています。
でもよくよく考えると、その悩みを生み出し、耳元でさやいているのは私たちの心。私たちの思考。私たちが生み出す言葉なのです。
ここではこれを「マインド」と呼びたいと思います。なかなかやっかいなものなので、ご機嫌を損ねないように「マインドさん」とお呼びすることもあるでしょう。
マインドさんは、かなりおしゃべり。
仕事中に「コンビニの新しいスイーツは今日発売だよ、早く行かないと売り切れちゃうかもね」と教えてくれたり、前を歩く人を見て「めっちゃオシャレ。あの服どこで売ってるのかなぁ」と感想を言ったりします。
その程度のおしゃべりなら問題はありませんので、これは白(ホワイト)マインドさん」と呼びましょう。
しかし、マインドさんはときに不安や迷いの言葉をささやくことも。
「それってホントに大丈夫? 信用していいの?」「私には絶対無理。やっぱりうまくいかない気がする」「私って本当にダメだよね」と。これを「黒(ブラック)マインドさん」と呼びたいと思います。
黒マインドさんは、唐突に顔を出します。そして何度も何度も同じささやきを繰り返し、私たちの頭の中にさまざまな思い込みを植えつけます。
それを私たちは真実だと思い込み、どんなに恵まれているように思える人生であっても、不満や不幸や不足を感じることがあるのです。
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『ACT 不安・ストレスとうまくやる メンタルエクササイズ』(武藤崇 著/主婦の友社)
ACTは、ストレス対策として、WHO(世界保健機関)も推奨する注目の心理療法。自分ですぐ実践できるよう、イラスト満載で、世界一わかりやすく解説した画期的な1冊です。