「二律背反」の意味
「二律背反」という言葉を見て、意味を説明できる人は少ないかもしれません。「二律背反」は哲学の分野で用いられてきた言葉。あまりなじみのない言葉かもしれませんが、覚えておくと語彙力アップにつながるということも。意味だけでなく使い方もチェックしてください。
まずは「二律背反」の意味と読み方を紹介します。
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【二律背反】
読み方:にりつはいはん
哲学で、相互に矛盾する二つの命題(定立と反定立)が同等の妥当性をもって主張されること。アンチノミー。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「二律背反」は、相反する2つの命題が矛盾していて、両立できないことを指します。「背反」とは、相容れないことや、食い違うことを表す言葉。意味の解説にある「命題」とは、判断を言葉で表したもののことです。相容れない2つの判断や基準が並び立つ矛盾した様子を表します。
ビジネスシーンでは「二律背反」を「矛盾」の意味で使うことが多いですが、哲学などの専門分野では異なります。専門家は「二律背反」と「矛盾」を同義としませんので、気をつけてくださいね。
「二律背反」の例
「二律背反」の具体体を見ていきましょう。
《例1》景気回復のための減税と消費税アップ
買い物などの消費行動は、生きる上で欠かせません。所得税などを減税されても、消費税がアップすると、お金を使わなくなる人が増える割合が高くなるはず。そうなると、景気回復には至らないでしょう。
《例2》電気代節約と熱中症対策
2023年、電気代高騰に悩まされた人は多いでしょう。少しでも節約したいと考えてエアコンなどの使用を控えたところ、熱中症になってしまったというケースも多かったはずです。地域によっては、就寝中もエアコンを使うことを推奨されましたよね。
上記以外にも、たくさんの事柄が「二律背反」があてはまるでしょう。身近なことでも該当することがありそうですよね。
「二律背反」の使い方
ここからは「二律背反」という言葉の使い方を見ていきましょう。例文を挙げて紹介します。
ビジネスシーンでの使い方
《例文》
・子育て支援で育休の延長ができても、人件費カットで人員補充されないのは二律背反だ
・環境保護を謳っているのに、大量消費を促すのは二律背反でしかない
・商品開発で質の向上とコストカットを命じられたが、これは二律背反ではないかと感じる
上記の例文は、いずれも矛盾が生じていますよね。育休延長したいのに人員補充がないのであれば、育休延長しづらくなります。また、大量にゴミが出るような状況を作りながら、環境保護を謳うのも、大きな矛盾を感じますよね。質の向上を実現するには、それなりの経費がかかるはず。それなのにコストカットを命じられるのは「二律背反」と言えるかも。
「二律背反」は、なじみのある言葉とは言えません。使い方によっては意味が通じなかったり、誤解されたりするかもしれませんので、注意してください。
「二律背反」に似た言葉とは
ここからは「二律背反」に似た言葉を紹介します。言い換え表現として使えるかもしれませんので、それぞれの意味を把握しておくといいですね。
アンビバレント【ambivalent】
1人の人間の中で相反する意見を持つさまや、相反する感情が同時に存在するさまを意味する言葉。たとえば、親に対して感謝の気持ちを抱くと同時に、憎悪の気持ちも抱くというのは「二律背反」の状態と言えます。また、恋愛においても、相手を愛しているが相手を苦しめたいというような、相反する感情を抱くのはめずらしくありません。
《例文》
彼に対しては、愛憎渦巻くアンビバレントな感情を持っている
ジレンマ【dilemma】
2つの相反する事柄の板挟みになることを表す言葉。論理学では、2つの仮言的判断を大前提とし、その判断を小前提で選言的に肯定、または否定して結論を導き出す三段論法としても使われています。
この言葉は知っている人も多いかもしれませんね。ジレンマにより、どちらとも決めかねる状態に陥るというのは、よくあることと言えるでしょう。
《例文》
仕事をがんばりたいが、家庭のことも手を抜きたくないというジレンマに悩む人は多い
トレードオフ【trade off】
失業率を低めようとすれば物価の上昇圧力が強まり、物価を安定させようとすれば失業率が高まるというように、一方を追求すると他方が犠牲になるような両立しえない経済的関係のこと。
「二律背反」は、相反する2つの事柄が存在することを表すため、2つの言葉の意味は異なると言えるでしょう。言い換え表現として使う場合は、意味のずれが生じないよう意識するといいですね。
《例文》
高品質な物を低価格で提供するというのは、ある意味トレードオフと言える
板挟み(いたばさみ)
板と板との間に挟まれて身動きできない意から、対立する2者の間に立ってどちらに付くこともできず、苦しむことを表します。
《例文》
上司と部下の板挟みになり、悩んでしまう中間管理職が多いのは昔からだ
矛盾(むじゅん)
2つの物事が食い違っていて、つじつまが合わないことを表します。論理学用語で使う「矛盾」は意味が少し異なりますので、注意してくださいね。
「矛盾」は「二律背反」の説明で何度も登場していますが、あらためて意味を紹介しました。「二律背反」と同義とは言えませんが、ビジネスシーンでは近い意味で使われることが多いでしょう。
《例文》
発言の矛盾を突かれて話せなくなった私をフォローしてくれたのは、怖いと思っていた部長だった
「二律背反」の英語表現は
「二律背反」の英語表現についてチェックしましょう。英語で「二律背反」を表現する場合は次の言葉を選ぶといいでしょう。
・antinomy(アンチノミー)
・dilemma(ジレンマ)
いずれも「二律背反」を意味します。「dilemma」は、「二律背反」の状態に陥ることを表すと考えてください。いずれも日本では知られる英語表現です。
最後に
「二律背反」について紹介しました。「にりつはいはん」と読むこの言葉は、哲学などの専門分野で使う場合と、ビジネスシーンで使う場合とニュアンスが異なります。ビジネスシーンでは「矛盾」という意味合いで使われることが多いので、表現の言い換えとして「二律背反」を覚えておくといいですね。ただし、あまりなじみがない言葉ですので、意味が伝わらないという可能性があります。その点は意識しておいた方がいいでしょう。
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