事実婚とは、婚姻届を提出していないものの、事実上結婚している状態のこと。「それって、同棲とどう違うの?」という疑問の声も聞こえてきそうですね。
この記事では、事実婚の概要や、同棲との違いや注意点、会社に事実婚が知られるケースなどを解説します。結婚のあり方が多様になっている今の時代、おさえておきたいテーマですね。
事実婚と同棲の違いは?
事実婚と同棲は、どう違うの? という疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか? どちらも一緒に住んでいて、法律上の婚姻関係はないという点で似ていますので、違いが分かりにくいという声もあるでしょう。
まず、同棲は、一般的にはお互いが恋人だと思っていて、一緒に住んでいる場合に使う表現です。一方、事実婚の場合、お互いが「結婚している」という認識をして、一緒に生活をしているというのがポイントになりますよ。また、事実婚の場合、住民票上、妻(未届)や、夫(未届)などと登録することも可能です。
では、パートナーが同性の場合は、どうなのでしょうか? この場合、自治体によっては、「パートナーシップ証明」などの制度を利用できることも。ただし、これはあくまで自治体独自の取り組みですので、公的な手続き上の扱いは様々です。今後時代とともに、変わっていくかもしれないという点も、おさえておきたいですね。
なぜ事実婚にするの?
「なぜ事実婚を選ぶの?」という疑問をお持ちの方も、いらっしゃるのではないでしょうか? ここからは、事実婚にする理由を、ケースごとに見ていきましょう。
1:名字が変わるのを避けたい
結婚して名字が変わってしまうことを、避けたいという人もいるようですね。「選択的夫婦別姓」などが議論されてはいますが、現時点の民法上、法律上婚姻の手続きをすると、どちらかが名字を変える必要があります。
そして、名字が変わると、銀行口座名の変更をはじめ、クレジットカード、利用しているサービスなど、膨大な数の氏名変更手続きが必要になりますよね。こういった手続きが大変という話は、よく耳にするのではないでしょうか?
また、「旧姓と新姓どちらも呼ばれることがあって、ややこしい」と思う人も。このような事情で、あえて事実婚にすることで、名字を変えないようにするというケースもいるようですね。
2:家庭の事情
人によっては、「事実婚にしたいわけではなく、家庭の事情でそうしている」ということも。何かしらの理由で、結婚を家族に反対されていて、理解が得られるまで、事実婚を選んでいるという人もいるようです。例えば、「実家の名字を残したい」と双方が譲らない場合も。また、「結婚するなら、地元で家業を継いでほしいと言われたけれど、パートナーはその気がない」など、様々な事情があるようですね。
結婚後の働き方や、住む場所などの選択肢が多様になってきている現代。親世代との価値観の差があり、時間をかけて対話が必要なこともあるでしょう。その間、事実婚を選んでいるという人もいるようです。
3:自由なあり方を求めている
法律上の結婚の手続きをすると、どうしても戸籍が関わってきますよね。ですが、人によっては、「戸籍や伝統的な結婚観に縛られず、自由な結婚のあり方を追求したい」という声も。「親族の付き合いなどが面倒なので、あえて事実婚にする」という人もいると聞きますよ。
4:パートナーが同性
パートナーが同性なので、結婚したくてもできないというケースもあります。一部の自治体では、パートナーシップ証明などの制度があるものの、日本では、同性婚が認められていないためですね。事実婚を考える際、こういった様々な背景があるということも、おさえておきたいポイントです。
ずるいと言われるケースも
事実婚は、「ずるい」と言われることも。例えば、過去に事実婚だった相手がいることを隠されていて、ショックを受けたという人もいるようですよ。ひどいケースでは、事実婚をしている相手がいるのに、それを言わずに二股だったなんてことも。
さらに難しいのは、実際は事実婚と言えるような状態にも関わらず、前の配偶者の遺族年金をもらっているというケースです。配偶者が亡くなったことによって、遺族年金を受け取っている人が、別の人と再婚をするとどうなるのでしょうか? この場合、遺族年金を受け取る権利が無くなるというのが原則です。なお、この「再婚」には、事実婚も含まれますよ。
参考:日本年金機構ホームページ「遺族年金を受けている方が結婚や養子縁組などをしたとき」
ただ、本人たちが、「事実婚ではなく、友人です」と言った場合、どうでしょうか? 戸籍や住民票で、関係が確認できない状態だと、それ以上は踏み込みにくいですよね。ただ、周りからすると、「どうみても事実婚では? 遺族年金はもらったままなんて、ずるい」と思うこともあるようです。
もちろん、遺族年金は、子どもの有無や、そのときの家庭状況によって、いろいろなケースがありますので、一概には言えません。事実婚に見えたとしても、単なる誤解ということもありますので、すぐに「ずるい」と決めつけるのは、避けたいところですね。
事実婚は、会社に知られる?
事実婚を、オープンにしている人がいる一方、会社には知られたくないという人もいるでしょう。こういうケースの場合、「事実婚は、どんなときに会社に知られるの?」というのが気になりますよね。
まず、よくあるケースが、健康保険の扶養申請などをする場合です。人によっては、「婚姻届を出していないのに、扶養申請ができるの?」と驚かれるかもしれません。ですが、事実婚であっても、必要な条件を満たしていれば、健康保険の扶養申請ができる場合がありますよ。
ただ、こういった手続きは、会社を経由して申請しますので、会社に事実婚を隠したままの手続きは、難しいと言えるでしょう。
参考:日本年金機構ホームページ「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
また、これはある会社で実際にあった事例です。ある日、急病で病院に救急搬送された社員がいました。その社員の上司が、緊急連絡先の家族に連絡したところ、こんな答えが返ってきたと言います。
「遠方なので、すぐには病院へ行けません。一緒に住んでいる人がいるはずなので、そちらに対応してもらってください。その方とは事実婚をしていて、家族同様の人ですから」
本人からすると、家族がそこまで言ってしまうとは思っていなかったようですが、結果的に会社に事実婚が知られることになりました。ややレアケースかもしれませんが、こういった思わぬ形で知られることがあるというのも、おさえておきたいですね。
最後に
この記事では、事実婚と同棲の違いや、なぜ事実婚にするのか、事実婚が会社に知られるケースなどを解説しました。結婚制度は、今後も変わっていく可能性が高いでしょう。今後のためにも、おさえておくと安心です。
※この記事は2023年12月15日時点での制度をもとに執筆しています。同性婚や、事実婚の制度は、今後変わる可能性があることをご留意ください。
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塚原美彩(つかはらみさ) 塚原社会保険労務士事務所代表
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサルの傍ら、ポジティブ心理学をベースとした研修講師としても活動中。HP:塚原社会保険労務士事務所 ライター所属:京都メディアライン