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「隗より始めよ」の意味と読み方
「隗より始めよ」は「かいよりはじめよ」と読み、中国の『戦国策』が由来の古事成語です。
「大きなことを成すには、まず身近なことから始めよ」「物事は言い出した者から始めよ」という意味があり、日常会話ではあまり馴染みのない言葉ですが、ビジネスシーンなどで使われることがあります。
なぜ「隗より始めよ」が「物事は言い出した者から始めよ」という意味を持つのか、由来から紐解いていきましょう。
「隗より始めよ」の語源・由来
「隗より始めよ」の由来は中国の『戦国策』
「隗より始めよ」は、中国の書『戦国策』の「先従隗始(先づ隗より始めよ)」が由来とされています。
『戦国策』は、中国・周の安王から秦の始皇帝にいたるまでの間、約250年間の国策や献策、逸話などを国別に分類し、編集した書物です。
秦の始皇帝と聞くと、アニメ化・映画化もされた大人気漫画『キングダム』を思い浮かべる人も多いと思います。
実際に『キングダム』の作中において、「先従隗始」が解説されるシーンが描かれており、言葉の由来となった「郭隗(かくかい)」と「昭王(しょうおう)」も登場しています。
由来となったエピソード
郭隗(かくかい)は戦国時代の燕(えん)という国の政治家で、「隗より始めよ」の「隗」にあたる人物です。
中国戦国時代、燕の昭王が郭隗に国に賢者のを集めるにはどうしたらいいかを問います。
郭隗は「優れた人材を招きたいなら、まず私を優遇してください。私のような凡庸な人間でも優遇されるなら、と、私より優秀な者たちが集まってくるでしょう」と昭王に進言します。
そして郭隗の進言した通り、多くの賢者たちが燕の国に集まります。
このことから、「隗より始めよ」は「国に賢者を招きたいならば、まず手近な者から優遇せよ」から転じて、「大きなことを成すには、まず身近なことから始めよ」「物事は言い出した者から始めよ」という意味になりました。
「隗より始めよ」の類語
「隗より始めよ」と同じ意味を持つ類語にはどのようなものがあるのでしょうか。由来とあわせて紹介します。
死馬(しば)の骨を買う
「優れた人材を集めるために、凡庸な人でも優遇する」という意味があります。
こちらも「隗より始めよ」と同じく『戦国策』が由来となっている故事成語で、昭王と郭隗の会話から来ています。
由来
国に優秀な人材を求める昭王に、郭隗が下記の話をします。
「昔、名馬を買う命を受け王から大金を託された使者が、死んだ名馬の骨を買って国に帰りました。
死んだ馬を買ったことに王は怒りますが、使者は『死んだ馬の骨に大金を投じれば、生きた名馬を売りに来る者が必ず現れる』と言います。
そしてその言葉通り、一年も経たないうちに王のもとに三頭の名馬が集まってきました」
死んだ名馬に価値はないが、大金を投じることに意味があるということから転じて、「優れた人を集めるために役に立たないものを優遇することで、優れた人が集まるように仕向ける」という意味で使われるようになりました。
「隗より始めよ」の英語表現
「隗より始めよ」は、英語で表現するとどのようになるのでしょうか。
Start from small things.
「小さいことから始める」となり、「隗より始めよ」の「(大きなことを成すには)身近なことから始めるのがよい」という意味に対応する表現です。
practice what you preach
「人に説くことは自らも実行せよ」という意味で、「物事は言い出した者から始めよ」に対応します。
「隗より始めよ」の現代語訳
由来となった『戦国策』のエピソードは、現代語訳するとどのような内容になるのでしょうか。ここでは、「隗より始めよ」の元となった『戦国策』の原文と現代語訳を紹介します。
原文
燕人立太子平為君。是為昭王。弔死問生、卑辞厚幣、以招賢者。問郭隗曰、「斉因孤之国乱、而襲破燕。孤極知燕小不足以報。誠得賢士与共国以雪先王之恥、孤之願也。先生視可者。得身事之。」
隗曰、「古之君有以千金使涓人求千里馬者。買死馬骨五百金而返。君怒。涓人曰、『死馬且買之。況生者乎馬今至矣。』不期年、千里馬至者三。今王必欲致士、先従隗始。況賢於隗者、豈遠千里哉。
現代語訳
燕の人々は、太子の平を擁立して王としました。これが昭王です。昭王は戦死者を弔い、生存者を見舞い、丁重な言葉を使って多くの俸禄(ほうろく)を用意し、国に賢者を招こうとしました。
昭王は郭隗に尋ねました。
「斉は、我が国が乱れていることに乗じて、国に攻め入り燕をやぶりました。私は燕が小国で、斉に報復する力がないことを承知しています。賢者を得て共に国を治め、それによって先代の王の恥をすすぐことが私の願いです。
先生、良い賢者をお教えください。私はその方を師として仰ぎたいのです」と。
郭隗は次のように答えました。
「昔の王に、千金もの大金で、側近に一日に千里の馬を走る名馬を買い求めに行かせた方がいました。しかしその側近は、死んだ馬の骨を五百金で買って帰ってきたのです。王は怒りました。
その側近は、『死んだ馬の骨でさえ五百金もの大金で買ったのです。まして生きている馬なら、なおさら高く買うに違いないと馬を売る人たちは思うはずです。名馬はすぐに集まってくるでしょう』と言いました。そして、一年もたたないうちに、千里の馬が三頭も集まったのです。
王様、優秀な人物を国に招きたいなら、まずはこの隗を優遇してください。そうすれば、隗よりも賢い人物が千里を越え仕官しに来るはずです」と。
そこで昭王は、郭隗のために新しく邸宅を築き、郭隗を師として仰ぎました。この話を聞いた賢者たちは、争って燕を訪れるようになりました。
「隗より始めよ」のひらがな書き下し文
「隗より始めよ」の元となった『戦国策』を、漢文を日本語として意味がわかるように書き改めた書き下し文に直して紹介します。
読み方が複雑な箇所はひらがなも記載していますので、現代語訳や原文とも比較してみてください。
書き下し文
燕人、太子平を立てて君と為す。是(これ)を昭王と為す。死を弔ひ生を問ひ、辞を卑(ひく)くし幣を厚くし、以つて賢者を招く。
郭隗に問ひて曰はく、「斉、孤(こ)の国の乱るるに因りて、襲ひて燕を破る。孤極めて燕の小にして以つ報ずるに足らざるを知る。誠に賢士(けんし)を得て国を与に共にし、以つて先王の恥を雪(すす)がんこと、孤の願ひなり。先生、可なる者を視(しめ)せ。身之に事(つか)ふるを得ん。」と。
隗曰はく、「古の君に、千金を以つて涓人(けんじん)をして千里の馬を求めしむる者有り。死馬の骨を五百金に買ひて返る。君怒る。涓人曰はく、死馬すら且つ之を買ふ。況(いは)んや生ける者をや。馬今に至らん』と。期年(きねん)ならずして、千里の馬至る者三。
今、王必ず士を致さんと欲せば、先(ま)づ隗より始めよ。況(いわ)んや隗より賢なる者、豈(あ)に千里を遠しとせんや。」と。
是(ここ)に於いて昭王隗の為に改めて宮を築き、之に師事す。是に於いて士、争ひて燕に趨(おもむ)く。
最後に
古事成語「隗より始めよ」の由来や意味などを解説しました。「物事は言い出した者から始めよ」という意味がありますが、「言い出した人が最初に動け」という他人任せで攻撃的なニュアンスとは少し違うので注意が必要です。
「言い出した者から実行せよ」というのは教訓としての意味合いなので、「隗より始めよに習って、私がリーダーとして企画を進めていきます」など、自分を鼓舞する場面や励ましの意味で使います。
意味や使い方をきちんと理解して、正しい使い方を心がけましょう。
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