脳と腸はつながっている−腸活のススメ
「ストレスで胃が痛い」とか「なんか食べる気がしない」という表現がありますが、「気分と食欲とか、気分と胃腸の調子の関連」って経験的には古くから知られています。今日は、脳と腸はつながっている話をしようと思います。
◆脳腸連関
難しい言葉ですが、「脳腸連関」という言葉をご存じですか?
「のうちょうれんかん」と読みますが、「脳と腸はつながっている」という考え方です。前々回にお話した夢のやせ薬の話で、小腸から分泌されるホルモンの1つ“インクレチン”は食欲抑制効果があるとお話しましたが、これはホルモンが脳にある食欲中枢に作用し、満腹感を引き起こすことが原因。小腸で分泌されたホルモンが、脳にも作用することで満腹感を引き起こすという脳腸連関の一例です。
「ホルモンが血流にのって脳の食欲を司る部分に作用することで満腹感を得る」という意味では、ホルモンというメッセンジャーによって脳と腸がつながっているということがわかりますね。
さらには、自律神経によって脳と腸は物理的にもつながっていることが古くから知られています。脳から出た神経の細い線は、たどることができれば本当に腸に行き着くのです。電話機の受話器から線をたどり、電柱に上り、電線を追いかければ、究極的には電話をしている相手にたどり着くのと同じ事。こんな事をする人はいないと思いますが原理的には同じ事なんですよ。
自律神経からみる脳と腸の関係
なぜ脳と腸がつながっている必要があるのか自律神経の特徴から説明しましょう。少し難しい話になりますが、自律神経は、交感神経と副交感神経に分けることができます。交感神経は、いわゆる戦いのための神経。副交感神経は、栄養と子孫繁栄のための神経です。この両者は、時と場合をわきまえてバランス良く働いてくれないと、生き物としての生存に重大な支障を来します。
この自律神経の2つの神経のバランスは全身のありとあらゆる臓器に張り巡らされていて、「戦闘モード」と「栄養・子孫繁栄モード」をきめ細かく察知しようとしているのです。
戦闘モードの時に、お腹がすいたり眠たくなったりすると戦いには勝てませんよね。そんな時には、脳からの交感神経が優位に働き、腸に指令を出し、「お腹のすいた感覚」を抑えるようにするのです。逆に、お腹に食べ物が入ってきた栄養・子孫繁栄モードのときには副交感神経の働きを活発にして、栄養のために少し眠ろうという指令を逆に脳に送ります。
こうして、脳と腸は、神経という細い線で物理的につながりながら、「戦闘モード」と「栄養・子孫繁栄モード」をバランス良く管理しているのです。
腸活のはじめ方
最新の研究では、なんと腸内細菌の状況が、この自律神経という細い線を介して肝臓から脳に伝わり、最終的には全身の免疫に指令を出しているという、新たな肝臓-脳-腸管のつながりが報告がされています。いまや、腸内細菌の状態が全身の免疫状態をコントロールするという最近注目のトピックの仕組みにも、脳と腸のつながりが重要といえることになります。
もっと言うならば、腸内細菌のバランスを整えることは、最終的には全身の免疫状態の良好なコントロールにもつながることになるということです。以前にも「プロバイオティクス」のことを一度書きましたが(便秘のときはトイレでの姿勢を変えてみよう!【医師監修】予防と解消法)、腸内細菌を整える腸活で、全身の免疫のバランスも良好にたもたれ、ウィズコロナの時代も元気に過ごせる秘訣になるかもしれません。
ビフィズス菌を含むヨーグルト、ビフィズス菌を含むサプリやお薬、あるいはヤクルトなどを飲む、というのは良いかもしれませんね。
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国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ