ヒトはなぜ疲れるのか? 疲労の正体とは?
厚生労働省の調査では、日本人の70%が日頃から慢性的に疲労を自覚していることが報告されています。つまり日本は世界有数の「疲労大国」といっても間違った表現ではないでしょう。
私たちのまわりには、「疲労回復」をうたった商品やサービスにあふれています。にもかかわらず、疲れが取れないのはなぜでしょう。
疲れの正体とは? 疲れをリセットするには? を、疲労回復専門医 梶本修身先生に伺います。
疲労の正体は、細胞のサビ
ヒトはなぜ疲れるのか? 活動すると体内のエネルギーを消耗するから?…梶本先生は、それは大きな間違いだと言っています!
「疲れる理由。それは細胞がサビるからです。組織を構成する細胞は酸素を消費しながら活動します。そのとき、酸素の1〜2%が活性酸素となり、細胞自体をサビさせてしまうのです。自転車のチェーンがサビたら動きにくくなるように、細胞がサビたら組織全体もパフォーマンスが落ちます。これが疲労の正体です。
“運動や仕事で長時間活動すると、体が疲れる”…これも間違いです
「運動や仕事で長時間活動して疲れるのは体ではなく脳なのです。例えば同じ1kmの距離を歩く場合でも、4月の心地よい朝と8月の炎天下では疲労度は大きく異なります。
同じ体重のヒトが同じだけ移動するわけですから、物理的には運動量は同じであり、筋肉の活動量も変わりません。では、なぜ真夏の炎天下のほうが激しく疲れるのか?
それは炎天下の活動で体温がどんどん上昇してしまわないように、汗をかかせたり、呼吸数を増やして熱い息を吐かせる命令を、脳が100分の1秒単位で出し続けているから。
脳は体中の内臓組織や筋肉を24時間休みなく制御しています。その機能を司っている脳の組織を“自律神経”といいます。
自律神経は、体が常に安定した状態を維持できるように、体温、呼吸、循環、消化などを無意識で制御する「体全体の司令塔」であり、もし1分でも制御を怠れば、すぐに死んでしまう生命体にとってもっとも重要な器官なのです。
“疲れるのは体ではなく脳=自律神経”
活動することでもっとも変化が激しいのは、体ではなく脳の自律神経です。活動による自律神経への負荷は、運動に限ったことではありません。デスクワークの場合でも、やはり緊張や集中力を制御する自律神経がフル回転で活動しています。
つまり私たちが日常、活動することで生じる疲労は、すべて脳の自律神経の疲労と言えるのです。
その証拠に、運動による疲労も、デスクワークによる疲労も、徹夜による疲労も、出現する症状は、全身倦怠感、頭重感(ずおもかん)、ふらつき、めまい、肩こり、むくみといった自律神経失調症とまったく同じなのです」
なぜ脳ではなく体が疲れたと感じるのか?
梶本先生のおっしゃる「疲れているのは体ではなく脳=自律神経」というメカニズム。聞けば聞くほど納得できますよね。でも私たちは日常生活のなかで、“体が疲れた”と感じます。それは一体なぜなのでしょうか?
「その答えは、動物が有する防衛本能にあります。“自律神経が疲れた”という情報の認知だけでは、実際に運動や活動をやめるかどうか不確実です。しかし“体が疲れた”と脳を誤解させることができれば、運動や活動を確実にやめさせることができ、自律神経に過度な負荷をかけることを防げます。
つまり、私たちはあえて“体が疲れた”と自分自身の脳を誤解させることでオーバーワークを防いでいるのです。これにより自律神経に過度な負荷が加わって機能停止するのを防止しています」
目から鱗とはまさにこのこと! 疲れたなぁと感じているのは、体ではなく脳だということなんですね! 梶本先生の最新著書「疲労回復の名医が教える誰でも簡単に疲れをスッキリとる方法」ではさらに詳しい疲労のメカニズムや、脳をリセットして疲れを翌日に持ち越さないためにできる方法が満載! なかなか疲れがとれない…とお嘆きのかたは必読です!
お話を伺ったのは… 梶本 修身先生
医学博士。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。
東京疲労・睡眠クリニック院長。1962年生まれ。大阪大学大学院医学系研究科修了。
2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。
ニンテンドーDS『アタマスキャン』をプログラムして「脳年齢」ブームを起こす。
著書に『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)などがある。
「ホンマでっか!?TV」「世界一受けたい授業」「ためしてガッテン」など、テレビでも活躍中。
最新著書「疲労回復の名医が教える誰でも簡単に疲れをスッキリとる方法」(アスコム)が公表発売中。