キャンプの楽しさは、料理をする工程の中にある楽しい会話
――『最高のキャンプ飯』を作る上で一番こだわったところを教えてください。
こだわったところですか?それを聞かれると困ってしまうくらい全てにこだわりが詰まっています。レシピはもちろんですが、目で見ても楽しんでいただけるようなレシピ作りをしました。今、僕もデイキャンプにハマっているので、撮影には自分のギアをほとんど持って行っていますし、手に取っていただきやすい紙質とかもスタッフの方に選んでいただき決定しました。
――書籍内のレシピ全てロケで撮影されていますが、大変ではありませんでしたか?
ギアの一つ一つ、そこそこの重さがあるので準備が大変でした。でも僕は好きなことをやらせていただいているので、嬉しかったですし、気合いが入っていたので全く苦ではなく、素晴らしいチームワークで撮影を終えることができました。1日目の撮影量はこのぐらい、2日目はこのぐらいと撮影ボリュームを計算し、最終日も暗くなる前にちゃんと片づけまで済ませることができました。
――外で料理をすることの楽しさはどこにあると思いますか?
自宅のキッチンで作る時とは調理の感覚が違うかもしれません。作ることと相手に美味しいものを食べてもらいたいというところは同じなんですが、環境が違うので、火の具合も風に左右されますし。でも、作る側としては自然の中で火をどう扱うのか、これが挑戦的で楽しい部分でもあります(笑)。でもなんといっても自然が広がる気持ちいい場所に大好きな人たちが集まって、一緒に料理を作るのは幸せな時間。ここに楽しさがあると思います。
――キャンプでは、事前に何を作るかなどを考えてしっかり準備されていくんでしょうか
準備していきます。ある程度自分の中で作りたいものが決まっているんですけど、あとは状況に合わせてどう修正していくか。メインとなるお肉は目的地に行ってから仕入れようとすると欲しいものがないと大変だから事前に買っていきますが、地の物も食べたいので、道中、道の駅で買うこともあります。自宅で仕込んで行くことはなく、到着したら作る派です。仕込んでいって、焼くだけにするより、みんなで話をしながら手伝ってもらうと会話も生まれますし、「こんなスパイス使うの?」「ハーブすごいね!」「美味しそう!」「え、そういうつけ方?」ってお互いに新しい発見がある。こういう会話が楽しいんです。

――レシピを作る時に一番インスピレーションを受ける瞬間はありますか?
日々です。笑ってしまうくらいよく食のことは考えています。朝起きた瞬間から「今晩何を食べようか」とか、「今はこういう気分だからこれを食べよう」って考えているんです。街中を歩いていて、“何か作っているな”とおいしい香りを感じたときに考えを巡らせています。
――料理スイッチが常にオンになっているんですね。
自然にずっとオンになっているみたいです。雑誌を見ていても、料理の写真を見て「美味しそうだな、こうアレンジしたら面白そうだな」とか、そういう頭の働きになっている見たいです。
――『Oggi』世代の30代の働く女性におすすめしたいメニューを教えてください。
パスタはきっとみなさん好きですよね。僕の料理はガツンとしたものが多いと思われるかもしれませんが、エレガントなものも作ります。この本の工程を見ていただければわかると思うのですが、レシピがとてもシンプルなので、キャンプでだけでなく、忙しく働くOggi世代の方が仕事終わりに作れるメニューも多いと思います。盛り付けが独特なので、大変そうに見えるかもしれませんがハードルが高くないのでぜひ作ってみていただきたいです。

▲速水さんおすすめメニュー:パスタポモドーロ(『最高のキャンプ飯』P38-39掲載)
――撮影中や本を作る過程で思い出や印象的なことはありましたか?
楽しい思い出しかありません。でもこう見えて意外と虫が苦手なので、虫が出るとわーきゃーと言いながらスタッフさんたちと逃げていました(笑)。頭の上に虫が乗ったら大変じゃないですか。だからキャンプの時はキャップをかぶるようにしています。ダジャレみたいになっちゃいましたが、ダジャレじゃありませんよ!(笑)
――ちなみに、ギアはコツコツ集めるタイプですか?一気に買うタイプですか?
もともと調理器具はたくさん持っていますが、キャンプとなると素材が変わるので、本格的に始めてからちょこちょこ集めるようにはなりました。ただ、ハマっちゃうとコレクター気質の血が騒いでしまうので極力自制をしています。「長く使えるもの」を厳選。面白いギアが沢山あるとついつい欲しくなっちゃいますよね。

――料理以外でハマっていることはありますか?
いつも好きなことをやって過ごしているつもりなので、今これにハマっているというのものはないかもしれません。ずっとハマっているものはやっぱりフィギュア。アメコミトイを集めることはやめられません。趣味部屋に飾っているのですが増える一方です。小さい時から『ミュータント・ニンジャ・タートルズ』とか、カートゥーンを見てきてそれが染み込んでしまっているので、“かわいいな”とか“これはあのシーンだ”とテンションが上がってしまうんです。フィギュアはポージングが出来ているので、置くだけでその時のシーンが頭の中に浮かんで楽しいです。
――速水さんが忙しい日々の中でリセット出来る時間はどんな時ですか?
もちろん日頃のストレスはありますが、常に好きなことをしているのでリセット出来ていると思います。でも、ひとつ挙げるならお風呂。朝晩、僕は必ずお風呂に入ります。運動する時はシャワーを浴びるので1日2〜3回入りますね。香りを楽しむのも好きなので、アロマを焚いたりすることも。あとは、やっぱり食事ですね。大切な人と一緒に楽しい話をしながらお酒を飲んで、食事をする。これは何にも変え難い、一番幸せを感じる瞬間です。胃には負担かもしれないけれど(笑) 、心はリフレッシュ。次の日、ちょっと胃もたれしてたとしても、「昨日美味しかったね」と振り返る時間は最高です。
――長年料理に携わってきて、食への考え方で変わってきたことはありますか?
昔は取材で料理について話をするのが苦手でした。料理対決をする企画で勝ったことがあったんですけど、自分の作った料理を見られたくない、自分が美味しいと思っているものを見られるのは恥ずかしいと思っていましたが、続けていくうちにいろいろなことに興味が出てきて、料理に関して自分からやりたいことなども言えるようになりました。
——なぜ料理の話をするのが苦手だったんでしょうか。
子供の時から料理が好きで作っていただけで、特別なことじゃありませんでした。冷蔵庫を開けて余りもので料理をしていましたし、“自分のため”の料理だったんです。『料理の鉄人』が好きで、見よう見まねで作るようになって、カルボナーラを作ったりしていたなぁ…。今みたいにレシピ本も持っていませんでしたし、スマホで検索することも出来ない時代。独学で学んでやっていくうちに体が覚えてきて夏休みの自由研究で写真を撮って提出をしたら、友達のお母さんたたちが「もこちゃん、こんなこと出来るんだ!」「すごいね!」と褒めてくれました。その時に「料理っていいな。これはモテる!俺はイタリア人だ!」と下心から始まったんです(笑)。
横道に逸れたので話を戻しますが(笑)、そうやって自分のために料理をしていた日々から、少しずつ目的が変わってきて、責任も変わって来たことで、料理を「自分のため」から「誰かのため」に作るようになりました。番組で作る料理もそうです。テレビで見てくださっている方々のために一生懸命考えて作ると、喜びが倍以上になって返ってくる。こんな幸せなことはありません。料理に説得力を持たせたいから資格もちゃんと取るようにしました。知識があったとしてもそれだけでなく、形として資格を持っておくことも大切なんじゃないかと思ったんです。ハーブ、スパイス、ワイン、薬膳、チーズ、野菜そして食育の資格を持っています。
料理はすごく楽しい、食べることは楽しいということを伝えていきたくて、自分の中で表現をしているつもりです。ただ作るだけでなく、食に対するアプローチの仕方を意識するようになりました。実はオリーブオイルだけじゃないんです!(笑)
食って面白くて、ちょっと気持ちが下がっていても、美味しいものを食べるとどこか救われたり、気づいたら涙が流れたり…。感情を動かす力が食にはあると思うので、これからも食を通じて色々なことを届けていけたらいいなと思っています。

▲速水さんおすすめメニュー:ポーク〜クリームベリー〜(『最高のキャンプ飯』P44-45掲載)
――今後、食に関してチャレンジしてみたいことはありますか?
この本のイベントでキャンプ料理のフェスみたいなものが出来たら面白いかもしれません。
――ご自身の理想の休日の過ごし方は?
ずっと家にいられなくて、できるだけ外に出かけたいタイプ。わんちゃんもいるので、理想の休日は朝早くから出かけて、家族と一緒にきれいな景色を見たりするのが好きです。運転が苦じゃないので、車で遠出もします。ドライブ途中でパーキングエリアに寄るのも思い出になりますし。僕は昔からわんが大好きで、30年以上犬と一緒に過ごしているんですけど、今は色んな施設が出来て一緒に出かけやすいので、よく連れて行くんですよ。
実は愛犬のためのキャンプご飯も作ったりします。薪の香りがついていると、喜んで食べてくれます。家族そろって外で過ごす時間がすごく好きです。

――『Oggi』読者に向けて人生の先輩としてメッセージをお願いします。
先輩?って一瞬思ったんですが、自分のことを30代だと思ってたら、しっかり40代でした(笑)。僕もありましたし、今でも思うこともありますが、ふと「私、このままで大丈夫かな?」と不安になったり迷ったりすることがあるかもしれません。そのときは自分で動く。自分で環境を変えてみることが大切だと思います。僕自身、30歳になる少し前から自分で環境を変えて、料理も披露するようになりました。だから、自分を信じること。ただやみくもにぶつかっていくのではなく、信頼できる人たちに相談をしてきちんと見極めて、自分の好きなことが出来る環境を作っていくのがいいと思います。
僕も30代の時に壁にぶつかりましたが、30代ってライフステージが少しずつ変わっていくとき。立場が変わっていく中で、人間関係という壁にぶつかる人も多いと思います。そのときに、自分が絶対にブレずに持っておきたい軸をしっかりと持って相手と向き合っていく事が大切だと思っています。
速水もこみち 最高のキャンプ飯

インタビュー/黒石あみ 料理・キャンプシーン写真/三浦孝明 ヘアメイク/高橋幸一(Nestation) アシスタント/濱野歩美 スタイリング/小松嘉章(nomadica/人物) アシスタント/松本竜弥 構成/岡野亜紀子



