日常の中で、どうすべきか迷う場面は少なくありません。決断を迫られたとき、気持ちが揺れることもあるでしょう。そのような状態を表す言葉のひとつが「葛藤」です。
耳にする機会は多いものの、実際にどのような意味を持つのか、心理学ではどのように捉えられているのかについて詳しく見ていきましょう。
「葛藤」とは? 意味や心理学的な視点を解説
まずは意味から確認していきましょう。
「葛藤」の意味とは?
「葛藤」は、「かっとう」と読みます。意味を辞書で確認しましょう。
かっ‐とう【葛藤】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[名](スル)《葛(かずら)や藤(ふじ)のこと。枝がもつれ絡むところから》
1 人と人が互いに譲らず対立し、いがみ合うこと。「親子の―」
2 心の中に相反する動機・欲求・感情などが存在し、そのいずれをとるか迷うこと。「義理と人情とのあいだで―する」
3 仏語。正道を妨げる煩悩のたとえ。禅宗では、文字言語にとらわれた説明、意味の解きがたい語句や公案、あるいは問答・工夫などの意にも用いる。
「葛藤」とは、相反する気持ちが生じ、どちらを選ぶべきか迷う状態を指します。日常のささいな選択から、人生の大きな決断まで、さまざまな場面で生じるものといえるでしょう。決して珍しいものではなく、誰もが経験するものかもしれません。
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心理学における「葛藤」
心理学における「葛藤」は、相反する欲求や考えが同時に生じ、どちらを選ぶべきか決められない状態を指します。レヴィンの理論では、主に3つのタイプがあります。
1つ目は「接近―接近型」で、どちらも魅力的な選択肢があり、迷う状況です。例えば、旅行の計画を立てる際に、海と山のどちらに行くか決めかねる場面がこれに当てはまります。どちらも楽しい選択肢であるため、選ぶのが難しくなります。
2つ目は「回避―回避型」で、どちらも避けたい選択肢に直面し、決断が難しい状態です。例えば、満員電車に乗るのが嫌だが、歩いて行くには時間がかかりすぎる場合です。どちらも気が進まない選択肢のため、どちらを選んでも不満が残ることが特徴です。
3つ目は「接近―回避型」で、一つの選択肢に良い面と悪い面があり、迷う状態です。例えば、高収入の仕事に就くチャンスがあるが、その分長時間労働が求められる場合です。収入の魅力と労働環境の厳しさの間で葛藤が生じます。
このような葛藤は、心理的ストレスの要因になりやすく、状況によっては決断を先延ばしにすることもあるかもしれません。
参考:『有斐閣 現代心理学辞典』(有斐閣)
「葛藤」の使い方と具体的な例文
この言葉は、個人の心情を表すだけでなく、仕事や人間関係の中でも使われることがあります。どちらの選択肢を選ぶべきか決められず、迷いが生じる場面でよく使われます。具体的な例を見ていきましょう。
「彼のことは大切だけど、仕事に集中したい気持ちもあり、葛藤している」
どちらか一方を選びたくても、簡単には決断できないときに使われます。例文では、恋愛と仕事のどちらを優先すべきか悩む状況が表現されています。
「健康のために運動をしたいが、時間がなくて難しい。そんな葛藤を抱えている」
健康維持のために運動を取り入れたいものの、忙しさのために実行できないもどかしさが表現されています。何かをしたい気持ちはあるものの、現実的な制約があるときに使われるでしょう。
「リーダーとしてチームの意見を尊重したいが、経営方針も考えなければならず、葛藤している」
組織の運営において、個々の意見を取り入れることと、全体の方針を貫くことの間で板挟みになる状況を示しています。リーダーとしての責任とメンバーとの関係性の間で迷う場面で使われるでしょう。
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「葛藤」の類語や言い換え表現
言葉の使い方を広げるには、類語や言い換え表現を知ることが役に立つでしょう。状況に応じて適切な表現を選ぶことで、より正確に気持ちを伝えられるかもしれません。
迷い
「迷い」は、決断を下せずに気持ちが揺れ動いている状態を指します。はっきりした答えが見つからず、どちらの選択肢がいいのか考え続けているときに使われることが多いでしょう。
板挟み
「板挟み」は、対立する意見や立場の間に立たされ、どちらにも付くことができずに苦しむ状況で使われる表現です。仕事や人間関係の中で、異なる意見を持つ人たちの間で調整を求められるときによく使われます。
苦悩
「苦悩」は、強いストレスや精神的な負担を伴う深い悩みを表します。「葛藤」と比べて、より重く切実な問題に直面したときに使われることが多いでしょう。
「葛藤」の英語表現
英語では、いくつかの単語やフレーズが「葛藤」を表すのに使われます。状況によって適切な表現を選ぶことで、より自然な英語で伝えることができますよ。
「葛藤」を英語で言うと?
「conflict」は、対立や衝突を意味し、心の中で相反する感情がある場合にも使われます。「dilemma」は、二つの選択肢の間で迷う状況を指し、どちらも簡単には決められない場合に適しています。
以下に例文を紹介していきましょう。
“I’m in conflict about whether to quit my job or not.”(仕事を辞めるべきかどうかで葛藤している。)
仕事を辞めるべきかどうか迷っている状況を表します。「conflict」を使うことで、心の中で対立する気持ちがあることが伝わります。
“She’s struggling with her feelings for him. ”(彼に対する気持ちで葛藤している。)
相手に対する感情に迷いがあり、どうすべきか決められない様子を表します。「struggle」を使うことで、気持ちの揺れ動きや葛藤の深さが伝わるでしょう。
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「葛藤」と向き合うためのヒント
葛藤は避けられないものですが、葛藤との向き合い方によって気持ちが整理しやすくなるかもしれません。
「葛藤」は悪いものではない
何かを選ぶときに迷うのは、それだけ自分にとって大切なことだからかもしれませんね。すぐに答えを出す必要はなく、時間をかけて考えることで、より納得のいく決断ができることもありますよ。
「葛藤」と向き合う方法
自分が何を一番大切にしたいのかを考えてみると、少し整理しやすくなるかもしれません。また、頭の中だけで考えるのではなく、紙に書き出してみると、思考が明確になることもあるでしょう。信頼できる人に話してみることで、新たな視点が得られることもありますよ。
最後に
「葛藤」は、決してネガティブなものではなく、成長の過程で誰もが経験するものかもしれません。大切なのは、その迷いとどのように向き合うかではないでしょうか? 迷うことで、自分にとって何が重要かを見つめ直す機会になるかもしれません。この言葉を理解することで、より前向きな選択ができるようになるかもしれません。
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