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WORK

2024.08.28

「飛行機を定時に安全に出発させることで、旅の始まりを守りたい」〈ANA グランドハンドリングスタッフ・一河美沙さん〉

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、空港のグランドハンドリングスタッフとして、飛行機の定時運航と安全を支えてきたANAの一河美沙さんにお話をうかがいました。〈第一線の先人たちもアラサーで「選んで」きた The Turning Point~私が「決断」したとき~〉

グランドハンドリングスタッフ・一河美沙さんインタビュー

「1分1秒を争う現場を離れて見つめ直した仕事への誇り。定時に安全に出発させることで、旅の始まりを守りたい」

航空系の専門学校を卒業し、19歳でANA成田エアポートサービスに就職して以来、成田空港でグランドハンドリング一筋で働いてきました。飛行機の離着陸時の誘導や貨物の積み込み、荷降ろし、航空機の地上移動支援といった地上業務を担うこの仕事を目指したきっかけは、高校生のころ。

漠然と空港で働きたいと思っていた私が、職業説明会で飛行機を誘導する〝マーシャラー〟を見た瞬間、直感で「これだ!」と思いました。人前が苦手な私には、縁の下の力持ちになれる役割は憧れ。学生時代はスポーツに打ち込んでいたので、デスクワークより体を動かす仕事が性に合っていたのも大きかったですね。

グランドハンドリングスタッフ・一河美沙さん

ルールを守ることが自分と仲間の身を守る唯一の方法

実際に屋外の現場で働いてみると、想像以上に体力が必要でした。とても暑い日や寒い日ももちろんあります。それでも定時に飛行機を出発させるタイムプレッシャーに打ち勝ちながら、安全を守るために基本を徹底しています。たとえば、重いコンテナを動かす際には必ず「押す」というルールがあります。

引っ張ると足がもつれて転倒し、挟まれてケガをする危険もあるためです。飛行機に関わる作業は特に慎重さが求められ、機体に作業車がぶつかるような事故は運航の妨げになるだけでなく、損害額も膨大で絶対に避けなくてはなりません。

業務用タブレットやスマホを持ち込む際は、必ずストラップを付けて体と繫げます。万一、飛行機内に落としてしまうと、リチウムバッテリーが発火して大事故に繫がる可能性もあるからです。持ち物の確認は他のスタッフとお互いにチェックし合うことが欠かせません。

こうしたルールは過去の事故や教訓から生まれたもので、時間に追われるとそこから逸脱しがちですが、ルールを守ることが自分と仲間の身を守る唯一の方法だと常々感じています。そのため後輩には、なんのためにそのルールがあるのか、背景を含めて教えることを大事にしています。

グランドハンドリングスタッフ・一河美沙さん

チーフを任され充実感を感じていた矢先のコロナ禍

入社から10年が過ぎ、初めてチーフを任されたのが2020年でした。メンバーと一緒にがんばっていこうと充実感を覚えていた矢先にやってきたのがコロナ禍です。それまでにぎやかだった成田空港が静まり返り、お客様がまったくいない状況が続きました。

1日6便を送り出して息つく暇もなかったのに、急に人手が余る状態に。ANAも自分自身もこの先どうなってしまうんだろうと、不安でいっぱいでした。時を同じくして妊娠が判明し、会社の配慮で重量物を扱う現場から事務職に転向しました。

慣れない事務仕事に戸惑い、Excelの使い方をYouTubeで学びながら試行錯誤する日々。順調に経験を積んできたつもりが、自分のスキルのなさに直面しましたね。

PC操作する様子
(c)AdobeStock

産休・育休に入り、改めて自分の仕事を見直す機会に

航空業界も同僚も大変な中で産休に入ることになり、後ろめたさがあった一方で、自分がどれだけ責任ある仕事をしていたか気づく機会にもなりました。1分1秒を争うタイムプレッシャーの中で、小さなミスが大きな事故に繫がる可能性や、自分自身のケガのリスクがありながらも、定時に事故なく出発準備を整える。

それが当たり前の日常になっていたけれど、忙しい現場から一旦離れたことで、いかに難しいことかを客観視できたんです。このやりがいある大事な仕事にまた戻りたいと心から思いました。

育休を経て復職したのが2023年。活気を取り戻した空港では組織体制も大きく変わり、浦島太郎のような気分でしたが、「おかえり、待ってたよ」と声をかけてくれた方々の存在に、ホッとしました。再びグランドハンドリングのチーフとして現場に立ち、若手には自ら話しかけて、何か問題があったときでも報告しやすい雰囲気づくりを心がけています。

歓迎の様子
(c)AdobeStock

復帰してから意識したこと

特に意識しているのは、むやみにタイムプレッシャーを与えないことです。責任者として時間は厳守。でも、作業者が畏縮するとかえって効率を下げ、ミスを誘発してしまいます。

私自身は厳しく育てられた世代ですが、怒って急かしたところで何も解決しないのは、実体験から身に染みていて。内心はドキドキ焦っていても「遅いよ」ではなく、状況に基づいて「あと2分で終わるかな」と冷静かつ具体的に声をかけるなど、全体が滞りなく進むよう努めています。

安全への思いの原点は、過去の経験から得た教訓です。私たちの業務が起因して運航に支障が出ることはあってはならない、と強く思っています。予期せぬ事態でも対処できるように、目の前の作業だけでなく周りの変化に目を配るようにしています。

グランドハンドリングスタッフ・一河美沙さん

モチベーションの高いママスタッフでチームを組んで動く

現在は主に、時短で働くママスタッフと3人1組で動いています。一般的に、「育児をしながら過酷な現場仕事をこなすのは難しい」というイメージがあるかもしれませんが、みんな「早く帰って子供を迎えにいこう!」という共通の目標があるので、仕事にも一層集中します。

自分がミスをしたら報告書を作成する時間もかかりますし、とにかく事故は起こさないぞ、というチーム全体のモチベーションが高い。後輩たちから「ママさんチームに入りたい」と言ってもらえたこともうれしく、時間が限られているからこそ、会社にもっと貢献したいという気持ちが強くなっています。

逆に新入社員のころから変わらないのは、お客様が離陸に向かう飛行機から笑顔で手を振り返してくださるときの喜び。どんなに忙しい日でも、飛行機を定時に安全に出発させることで、お客様が楽しみにしている旅の始まりをサポートできたんだと、感じられる瞬間です。

飛行機
(c)AdobeStock

心と体の健康を大切にしながら、会社の課題を解決していきたい

これから迎える40代に向けては、無理をしないことが大前提だなと思っています。まずは心と体が健康でないと、育児も仕事もできないもの。

家庭では近くに住む両親や便利な家電などの力も借りつつ、夫は買い出し含めた料理を担当、私は他の家事を引き受けて得意不得意をカバーし合っています。完璧を求めず、少しくらい家が散らかっていても、子供が元気ならそれでよし。

仕事でもまだまだいろいろな経験をして会社の課題を解決していきたいですね。個人の業務では、〝プッシュバック〟の仕事に挑戦してみたくて。

飛行機を自走できる位置まで移動させる責任の重い仕事ですが、飛び立つ間際にすべてを任される最後の要となるひとりでもあり、特別なかっこよさを感じています。資格を取得するためにはまた地道で長い訓練が必要になりますが、いつかぜひ実現できたらと思っています。

『ブルーフライト~グラハン女子物語~』好評発売中

書籍『ブルーフライト~グラハン女子物語~』

一河さんも勤めるANAグループの全面協力で、航空業界を舞台に描くスペシャルコラボ漫画、待望の第1巻が登場! 主人公は、グランドハンドリング(=グラハン)の仕事にも恋にも全力な「ここね」。逆境も明るく乗り越えていくここねの成長と共に、安全な空の旅を支える職業の魅力に触れて胸が熱く、明日への活力が湧いてくる作品。『ブルーフライト~グラハン女子物語~』:のの子 ¥770/小学館

2024年Oggi10月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

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一河美沙(いちかわ・みさ)

いちかわ・みさ/1988年、千葉県出身。航空系専門学校で学んだ後、2008年にANA成田エアポートサービス(ANAグループ)入社。以来、グランドハンドリングと呼ばれる、航空機への手荷物・貨物搭降載業務、航空機地上移動支援業務などを担当する。2018年に結婚、2021年5月~2023年4月の産休・育休を経て2023年5月より、チーフとして復帰。時短勤務で育児と両立しながら8名のメンバーを率いる。

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