気分よく話してもらう魔法の裏ワザ いつでもどこでも「全肯定! 全褒め!」
初対面の人はもちろん、面識がある人でも、会って3秒で素敵なところを見つけて即伝えると、相手の気分がぐっと上がって口が滑らかになります。「3秒でなんてムリ」と思った人でも大丈夫。相手の持ち物や身につけているものを素早くチェックしましょう。
「そのシャツ、素敵ですね!」
「キレイなネイルですね!」
「ぱっと目を引く時計ですね!」
というように、目に付いたものの魅力をひと言伝えるだけでいいのです。相手も、「ありがとう」と喜んでくれて、その持ち物から話が広がることもありますし、なにより会話がスムーズに進みます。
記者になりたての頃、男性誌のグラビアページの撮影に立ち会う機会があり、「胸がきれいな女性」として選ばれた「セクシー女優」の方が上半身に何もまとわずスタジオ入りしたことがありました。その女優さんは最初、緊張気味で口数が少なかったのですが、撮影がはじまると、編集部の先輩スタッフやカメラマンが「綺麗!」「可愛い!」「そのポーズ最高!」「いいよ、その表情!」と褒めの言葉を次々とかけたのです。「もう少しこうしたほうがいいんじゃない?」のような否定の言葉を発する人は一人もいません。すると、みるみるうちに彼女の表情がいきいきとして、一層美しく、笑顔が華やかになっていきました。
「綺麗」と言われ慣れている人でも、その場にいる人が全肯定、全褒めすると、別人のように表情が明るくなる。そんな姿を目の当たりにした瞬間でした。撮影が終わると、そのモデルさんは撮影前とは打って変わって元気にスタッフに挨拶してくれて、いつまでも楽しげに話していました。このときの写真の仕上がりがすばらしく、読者からの反響も熱かったことは言うまでもありません。「全肯定! 全褒め!」は、気分良く話してもらって仕事の出来もアップする特効薬なのです。
「○○さんも褒めていた」と第三者を有効活用する
同じ褒め言葉でも、自分だけ言うより「○○さんも褒めていた」と第三者の話をプラスすると、説得力が増します。初対面の人に会うときや、仕事を依頼するときも、「○○さんに紹介されて」「○○さんにオススメされて」とひと言伝えるだけで、相手の対応が変わります。
取材するときも、私はよく第三者を活用しています。たとえば、ある有名人が通っているリラクゼーションサロンに潜入取材したときのこと。潜入取材では私も客として行くのですが、訪れた際に、その方が「ここのサロンはすごくいい!」と絶賛していると、共通の知人から聞いたと伝えました。すると、サロンの店長が嬉しそうに「ずっと前からうちに通ってくれて、お母さまも来てくださっているんですよ」といろいろ教えてくれたのです。
109時代も、私の不在時にお得意さまを接客したスタッフが、「あのお客さま、以前より垢抜けて洗練されたよね」と言っていたので、次にそのお客さまが来店したときすかさず伝えたら、とても喜んでくれました。周りの人が誰かを褒めていたら忘れずにメモしておくと、思わぬところで役に立つかもしれませんよ。
人が褒めないポイントを褒める
「この人はよく自分のことを理解してくれている」と相手に思ってもらえると、心を開いてくれてぐっと距離が縮まります。その手っ取り早い方法は、誰も気がつかなかったり、気がついてもあえて言わない相手の良いところを見つけて褒めることです。
ある女優さんの情報を集めていたとき、お母さまが占い師をしていたので、私もお客として占ってもらいながら、娘さんの話を投げかけてみました。「(その女優さんは)クールなイメージですけど、実はやさしくて、新聞配達で家計を助けてくれたそうですね」「昔の苦労話とか、下積み時代は端役ばかりだった話とか、知れば知るほど応援したくなってファンになったので、お母さまにも会ってみたいと思ったんです」そういう話をしたら、「あなたよくご存じね」と言って、お母さまのほうからその女優さんのことをいろいろ話してくれたのです。
キラキラ目立つところだけが褒めポイントではありません。人が気づかない、あるいは一見素敵だと思わないようなことでも、見方を変えればその人の魅力なのです。こうしたポイントを褒めると、「この人はわかっているな」と思ってもらえます。とはいえ、そう思ってもらうための嘘はおすすめできません。ふだんから、隠れ褒めポイントを探す視点で他者を見る心がけがあれば、必ず見つかります。その視点を持っていると、また思いがけない話を聞けるかもしれません。
「ご存じのように」で抵抗感をなくす
大学教授や専門家をはじめとした識者に話を聞くとき、私が前置きでよく使う言葉「ご存じのように」です。これも一種の褒め言葉で、「あなたのような博識な方はすでにこの話は知っていますよね」と暗にほのめかしているので、「いや知らないです」と言われたことはありません。すると、次の質問に対する抵抗感が薄まるのです。
例えば、医師に、新型コロナウイルスの治療薬について尋ねるとき、すでに開発されている薬品があった場合、「○○という薬品が開発されています。知っています?」と聞くと、上から目線に感じ取られたり、最悪「知らないわけないだろう!」と怒られることも。なので、「ご存じかとは思いますが。〇〇という新薬がすでに開発されていますね」と言い、そのあとで、「更なる新薬の開発は進んでいますか」と聞きます。すると、「もちろんあの新薬は知っているよ。あの薬品、表立ってはこんなふうに言われているけれど、実際にはこんな副作用があって」など上機嫌で話してくれます。
ほかにも、「ご存じかとは思いますが、昨今こんなダイエット法が話題ですね。次に話題をさらいそうなダイエット法はどんなものでしょうか?」という質問もしたことがあります。接客業でもこのワザはよく使いました。「お客さまだったらすでにご存じだと思いますけど、今この服が大人気で売り切れそうなんです。すでにお持ちですか?」と言って、すでに持っていたら「やっぱり!さすが早いですね」と褒めます。もし持っていなかったら「○○さんだったら絶対似合うから、一枚持っていると使えますよ!」と褒めて推すと、ほぼみなさん買っていきました。
いずれの場合も「ご存じだと思いますけど」は、「お客さまはそもそも流行に敏感な方なので」という褒めを含んでいるので、「追い褒め」をしているわけです。こんな風に言われたら、私でも気分良くなって買っちゃいます。自分が言われたら嬉しいことが、褒めポイントの条件です。
構成/樺山美夏
【書籍情報】
山田千穂 著『ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ』(朝日新聞出版)より
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記者 山田千穂
埼玉県川口市出身。1988年生まれ。『週刊ポスト』『女性セブン』で記者を約10年経験。芸能、事件、健康等の記事を担当。取材で、聞く力、洞察力、コミュ力を磨く。3000人以上に取材。直撃取材、潜入取材を得意とする。大学在学中は渋谷109で販売員としてアルバイトをし、お正月セール時には1日最高500万円を売り上げる。趣味は、森林浴、一人旅、バーで飲むこと。好きな食べ物は、ラーメン、甘味、納豆ごはん、そしてお酒。
プロフィール写真撮影/渡辺利博