会話のリスクを回避するワザ 忘れた相手の名前を自然と聞き出す
久しぶりに会った人の名前を忘れてしまうこと、ありますよね。その場合、「お名前なんでしたっけ?」と聞くと大変失礼ですから、裏ワザを使います。
「新しい名刺をお渡ししていなかったかもしれないので」と自分の名刺を差し出し、再度、名刺交換する機会を設けるのです。実際は新しい名刺でなくても、「もうお渡ししていましたか、失礼しました」のひと言ですみますよね。もし名刺を持ち合わせていなかったら、
「確か○○でお会いしましたよね…… えっと……」
「佐藤です!」
「そう、佐藤さん! 雰囲気が変わられて、一瞬どなたか分からなくてすみません」
といったやりとりでも問題ありません。他にも、
「お名前を教えていただけますか?」
「佐藤です」
「あっ、苗字は存じ上げていて。下の名前(ファーストネーム)をお尋ねしたかったんです」
と言い、あたかも「苗字は忘れていません」と装う方法もあります。下の名前を聞いた理由を尋ねられたら「友人と似たお名前だったと記憶しており」「素敵な響きのお名前だったような覚えがあったので気になって」「確か、苗字とのバランスが美しいお名前だったなあ、と」などと答えましょう。逆に、相手が自分の名前を忘れているようであれば、
「佐藤さん、お久しぶりですね、○○の山田です!」
「ああ、山田さん! お久しぶりです」
と自然と挨拶できるように、こちらから名乗る気遣いも忘れずに。「もし自分だったらどうしてほしいかな?」と相手の視点に立てば良いのです。
苦手な相手も「良いところ探し」で
どんなにイヤな人、苦手な人でも、視点を変えれば別の顔が見えてきます。苦手な人と話をしなければいけないときは、その気持ちを相手に悟られないように、良いところを1つでも探すと自分をごまかせます。
たとえば、苦手な上司が家族とキャンプに行った話をしていたら、その上司は家庭では「最高のパパ」「最高の夫」なのかもしれません。職場ではわからないその人の別の顔を知るためには、休日の過ごし方を聞くと意外な一面がわかることがあります。
プライベートまで詮索しなくてもよくよく観察してみると、「声が重低音で魅力的」「デスク周りがきれい」「さりげなく、床のごみを拾って捨てていた」「重いものを運んでいる人の荷物をそっと持ってあげていた」といった今まで気づかなかった魅力が見つかることも。
良いところを探したら、「前から思ってたんですけど、○○さんの声が私の父の重低音ボイスと似ていて親近感を覚えるんです」「○○さんっておしゃれですよね。好きなブランドとかあるんですか?」と言葉にして伝えます。そのように意識的にプラスの印象を持つと、心の壁も薄くなっていきます。
仮に「話したくもない!」というほど嫌悪感が強い人でも、挨拶だけは自分からしたほうがいいでしょう。プラスの印象が持てないなら、せめてマイナスの印象は与えないことです。自分が苦手だと思っていると、相手にも伝わるもの。悟られないようにすることで、もし相手があなたにいい印象を持ってくれたら、関係性が変わることもあるかもしれません。
威張らない・気取らない・お高くとまらない
109には、ただ歩いているだけで「あの人すごい素敵!」「あの店員さんどこのお店の人?」「あの店員さんと同じ服がほしい!」と噂が立つほど人気のカリスマ店員が何人かいました。お正月セールで何百人も並んでいる行列の横を歩いていると、私にもそんな声が聞こえてきて手を振られたこともあります。
誰でも褒められたら嬉しいものですが、褒め言葉に慣れてしまったり、ちやほやされることが日常になると、それが当たり前になって、「私は特別」「私はすごい」と思い込み、態度に出てしまうことがあります。もちろん、どんな仕事でもお客さまからの人気が高いほうが有利であることは間違いありません。でもそれは他人軸の評価だということを忘れないでいたいもの。他人からの評価は、いつ変わるかもわかりません。周りからたくさん褒められたり、うらやましがられたり、仕事がトントン拍子にうまくいって急激に評価が上がったりしたときこそ、冷静になってみる。すると、キャリアを重ねていくうちに、立ち止まってよかったときっと思えます。
冒頭のお正月セールがメディアに取り上げられたり、私自身がファッション誌に載せてもらったりして、冬休みが明けて大学に行くと、「テレビで見たよ!」「雑誌に出ていたね!」と声を掛けられました。すると、「私、すごいかも!」という気持ちになってきます。でも、そう感じられるのも一瞬のこと。私は、良くも悪くも調子に乗り切れないところがあります。
109には私がいたお店より売上の大きいお店があり、そこは人気がある上、商品の単価が高いので、私たちのお店はどうあがいてもかなわない。悔しさともどかしさが、すぐに襲ってくるのです。それに、ちょうどこの頃、さまざまな経営者の方にお話を聞きにいき、その方々の努力と苦労を知るほどに、「私は大したことないんだな」と痛感していました。
そんなふうに、私の20代は、生きる土台のない若い時期の苦しさでもがいていたように思います。当時は「早くこの時期が過ぎ去ってほしい」という気持ちが大きかったのですが、今思い返してみると、調子がいいときでも冷静でいたことで、いろんな方々からアドバイスをいただくことができたし、職場の人たちにもお客さまにも、態度を変えることなく接することができました。すると、周囲の評価から自分を切り離して、「私は私」と思えるようになってきます。そういう考え方を経てきたことが、今の私、人とのかかわり方の土台をつくってくれたな、と。売上もお客さまからの人気もトップクラスの「カリスマ店員」と呼ばれる人でお客さまから愛されていたのは、実績はすごくても態度はフラットな人でした。
「一見、近寄りがたいけど話してみたらめちゃくちゃフレンドリーだった!」
「オーラがすごい店員さんなのに、とっても丁寧に接客してくれて最高過ぎた!」
とお客さまから言われていて、他者から見れば、いい意味でギャップがあるのです。周りから褒められ、ファンもいて一目置かれていても、その状況に乗っからず、きっと「私は私」で、自分が目指すところ、大切に思うことがゆるがない人たちだったのでしょう。そういう人は、嫉妬ややっかみからも上手に距離をおけるし、人が離れていかず、信頼されます。
悪口に対する究極の対処法
もし、職場の人に悪口や陰口を言われていることに気づいたら、どうすればいいでしょうか? ビジネスの世界、なかでも競争意識の高い業界になると、足の引っ張り合いやいがみ合いはよくある話です。だからといっていちいち反論、反発していたら、ますます対立関係が深まりますよね。
私も以前、「あいつが可愛がられているのは上司とデキてるからだ」と変な噂を流されたことがありますが、徹底してスルーしていました。お釈迦さまの話に、こんな法話があります。
「他人に贈り物をしようとしても、受け取らなければ贈ろうとした者に戻る。悪口も同様に、受け取らなければ、言った側に戻っていくのです」
悪口は言われても受け取らない。そうすれば相手も「言うだけ損」だと思ってあきらめるでしょう。
構成/樺山美夏
【書籍情報】
山田千穂 著『ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ』(朝日新聞出版)より
TOP画像/(c)Adobe Stock
記者 山田千穂
埼玉県川口市出身。1988年生まれ。『週刊ポスト』『女性セブン』で記者を約10年経験。芸能、事件、健康等の記事を担当。取材で、聞く力、洞察力、コミュ力を磨く。3000人以上に取材。直撃取材、潜入取材を得意とする。大学在学中は渋谷109で販売員としてアルバイトをし、お正月セール時には1日最高500万円を売り上げる。趣味は、森林浴、一人旅、バーで飲むこと。好きな食べ物は、ラーメン、甘味、納豆ごはん、そしてお酒。
プロフィール写真撮影/渡辺利博