仙台育英広告野球部監督・須江 航さんインタビュー
Oggi2月号の連載『The Turning Point~私が「決断」したとき~』にご登場いただいた須江航さん。
仙台育英高校野球部の監督として、2022年夏の甲子園で東北勢初の優勝に導き、人と組織を育てるマネジメント術が、野球界・教育界にかぎらずビジネスパーソンからも注目されています。あらゆる質問に気さくにお答えくださった須江監督、そのお人柄と信念をひもときました!
▲須江航さん。仙台育英学園高等学校のグラウンドにて
ビジネスパーソンからも注目されるマネジメント術とは
Q1. 座右の銘は?
A.「人生は敗者復活戦」
Q2. 高校時代、どんな高校生でしたか?
A. 身の丈に合わない野球強豪校に進学した、情熱しかない高校生。
野球部でレギュラー選手を目指すも、2年時からは学生コーチに転向しています。プレーヤーとしては引退を意味するので、当初は「やりたくないな」が本音。でも、入学以来ずっと補欠で球拾いを続けてきた自分にとって、何か役割を与えていただけるのは幸せなことなのではないかと考えたら、すごくやる気が出てしまいました(笑)。
▲仙台育英高校 硬式野球部。2022年夏には、108年の高校野球の歴史で東北地区初の優勝を果たして日本一に!
Q3. 教師を志したきっかけは?
A. 高校3年時の不完全燃焼。
学生コーチとして情熱を燃やす日々を過ごし、高3の春の全国大会では準優勝することができました。ただ、怒る、強制するといった役割を自分の存在価値だと思い込んでいたので、徐々にチームメイトから煙たがられる存在に。部員に対して「(指導したことを)やっていなかったら許さん!」というような振る舞いになってしまっていたんですね。結局、最後の夏の甲子園では目標を果たすことができず、自分の未熟さを痛感。かつての自分のようにうまくできない子供たちを導けるような存在になりたい、と思うようになりました。
Q4. 若い世代と接するときに、気をつけていることは?
A. 自分からは深入りしない、肯定から入る。
相手が求めていないのに、踏み込んでいくことのないように心がけています。同僚との関係でも、「飲みに行こうぜ!」と誘うのではなく「飲みに行きましょう」と言われたら参加する、というスタンスで。選手とも距離が近すぎると、判断が鈍ってしまう。大切にしているのは、目標を共有しながらも、適切な距離感を保つこと。お互いを見つめ合う関係より、同じ方向を見て進んでいける関係を目指しています。
▲グラウンド内のベンチ後方には、部員が自ら考えた目標が掲げられていました!
Q5. 30代最後の年となりますが、須江監督の30代はどんな10年でしたか?
立てた目標を一つ一つ回収する10年
負けから学んだことを試した10年
親になり価値観が変わった10年
出来過ぎの10年
Q6. “野球監督のその先”を考えたことはありますか?
A. 生徒の人生を預かっているので、辞めたいと考えることはありません。
というのも、今は教員がやりたいことですし、子供たちを預かっている身なので「自分から辞める」という選択肢はなくて。でも、例えば畑仕事のように、いつか野球とはまったく違うことをやってみたいなという思いは抱いています。
Q7. お仕事を長く持続していく上で意識していることは?
A. 成功には再現性がない、失敗から学ぶ。
成功って、偶然もたくさんあって、その人の特殊能力が引き起こす部分も大きい。芸術のようなもので、同じことをもう1回やれと言われてもできないと思っています。スポーツに限らず、自滅しないことがいちばんの強さではないかと。隣の芝生は青く見えるものですが、成功体験ではなく、分野にこだわらず野心を持った先人が「何で失敗したのか」という情報を集めて分析するほうが学びがあるし面白い。講演などで自分が何かをお伝えするときも、失敗談ばかりお話ししています(笑)。
▲お仕事必須アイテムは iPad。体力測定や練習試合の成績など、様々なデータを元にチームを率いる。
Q8. 試合前のルーティーンは?
A. 大一番が近づくほどに、気楽に迎える。
ルーティーンは特に決めていないのですが、大事な時を迎えるときほど、ピリピリしないようになりました。「もう今さら足掻いても仕方ない!」と思うようにしています。
Q9. 多忙な毎日のリフレッシュ法は?
A. 布団に入る時は、すべて忘れる。
ありがたいことに監督や教員の仕事にはストレスはないんです。ただ、やはり、子供たちの人生にとって大きな影響を与える3年間を預かるという責任は感じますね。今日は眠りがたいな… という夜もあるけれど、「布団に入ったら眠るだけ!」と決めています。
Q10. 好きな有名人は?
A. 田中みな実さん。
ドキュメンタリー番組で「プロフェッショナルとは?」と聞かれ、「相手が望む以上のものを安定して供給できる人」と答えていらっしゃったんです。生き様に表れているなと感じましたし、僕自身も人から求めていただいた場をたどって今があります。いつかお話を聞いてみたい方です。
新刊書籍
『仙台育英 日本一からの招待 幸福度の高いチームづくり』¥1,870/カンゼン
甲子園優勝時の「青春って、すごく密なので」の言葉が、2022年の流行語大賞・特別賞に選ばれた須江監督。心に響く言葉でチームづくりから育成論、指導論、教育論、失敗談までを明かす一冊。須江流マネジメント術がチームで働くOggi世代の背中を優しく押してくれる。
2023年Oggi2月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/相馬ミナ 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部
高校野球部監督 須江 航(すえ・わたる)
1983年、埼玉県生まれ。仙台育英学園高等学校 情報科教諭、硬式野球部監督。小中学校では主将、遊撃手。高校(仙台育英)では2年秋からグラウンドマネージャーを務めた。3年時には春夏連続で記録員として甲子園に出場しセンバツは準優勝。八戸大では1、2年時はマネージャー、3、4年時は学生コーチを経験。卒業後、2006年に仙台育英学園秀光中等教育学校の野球部監督に就任。公式戦未勝利のチームから、2010年に東北大会優勝を果たし全国大会に初出場した。2014年には全国中学校体育大会で優勝、日本一に。2018年より現職。2019年夏、21年春にベスト8。2022年夏には、108年の高校野球の歴史で東北地区初の優勝を飾った。