「報酬」とは?
「報酬」といわれて、何がいちばんに思い浮かびますか? 多くの人は毎月のお給料ではないでしょうか。「報酬」とは、一般的には「労働の対価」のことで、その人の働きに応じて設定されています。
「報酬」には、他の意味合いも。社会保険制度においては、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料を計算するために「報酬」が定義されていて、「標準報酬月額」も設定されています。また、所得税法上では、「所得」と「報酬」は別のものとして扱います。課税の対象となるかどうかも、これによって区別されているのです。
「報酬」の種類
上記、3つの「報酬」について、詳しく解説しましょう。
1:人事制度における「報酬」
人事制度において「報酬」というと、労働の対価のことを指します。その金額は会社によって異なり、それが従業員にとってのモチベーションに大きく関わっています。「報酬」は月給だけではありません。勤続年数に応じて支給される勤続給や、ポジションに応じて支給される役職手当なども「報酬」ですね。
どのような場合にどれだけの「報酬」を設定するのかは、会社が大切にしていることの表れであり、従業員へのメッセージともいうことができます。たとえば、勤続給の伸びがいい会社は、長く勤めることを従業員に期待しているといえますし、役職手当が大きい企業は従業員の飛躍に期待しているといえるでしょう。
2:社会保険上の「報酬」
病気やケガに対する保険や、老後の保険などの運営には毎月の保険料の支払いが伴います。この保険料は、被保険者が1ヶ月に受け取る「報酬」をベースに算出するのが基本です。しかし実際には、残業や追加の手当などで被保険者が手にする「報酬」の金額は毎月異なってきますね。
実際の「報酬」を算出基準にしていると、その変動を調整せねばならず、手続きがたいへん煩雑になります。そこで、保険料の算出を簡単にするために考案されたのが「標準報酬月額」という考え方です。
「標準報酬月額」は、被保険者の4〜6月の「報酬」の平均額を基準に設定され、被保険者はそれをもとに定められた社会保険料を同じ年の9月から翌年の8月にかけて支払うことになっています。
「標準報酬月額」の算出には月給だけが用いられるのではなく、
・月給(基本給・諸手当・時間外手当などを含む)
・標準賞与(年3回以下の賞与)
の合計額を求めて算出されます。
一方で、退職手当や解雇予告手当、慶弔見舞金、出張費などの立替金、疾病手当金などの社会保険給付は算出のベースには含まれません。なお、年4回以上の賞与は、「標準報酬月額」を計算する報酬に組み込まれるので注意が必要です。
3:所得税法上の「報酬」
私たちは毎年の「所得」に応じて、所得税を納めていますね。この所得税の金額は、個々の所得に応じて算出されます。これは「報酬」とは異なるものです。
所得税では、労働者が雇用契約を結んでいるかどうかで、労働の対価を「所得」と「報酬」に区別して考えます。所得税では、賃金や給与、賞与など、使用者と労働者の間に雇用契約があり、使用者から直接的な指揮や時間的な拘束のもとに行われた仕事に対して支払われるものを「給与所得」としています。
これに対して所得税法上の「報酬」とは、使用者から直接的な指揮や時間的な拘束を受けずに、労働者の裁量で行った仕事への成果への対償のこと。講演料や原稿料、弁護士など専門家が行う業務などがこれにあたります。また、フリーランスや個人事業主への企業からの支払いも所得税法上の「報酬」となります。
「給与所得」と「報酬」(事業所得または雑所得)とでは、所得税の計算方法が異なります。給与所得はあらかじめ給与額に応じた控除額が決まっていますが、「報酬」では必要経費を自身で差し引いて申告します。
企業が従業員に支給する「報酬」
会社員の皆さんが月々手にするお給料は、企業が従業員に支給する「報酬」です。会社員に対する「報酬」は次の3つに分けて考えます。
1:月例給与
毎月のお給料のことです。「報酬」以外のいい方では、賃金とも呼ばれます。従業員の日々の生活の基礎となる重要なものなので、労働者保護の観点から労働基準法にもとづいて、
1. 通貨払い
2. 直接払い
3. 全額払い
4. 毎月1回以上払い
5. 一定期日払い
で支払われます。これを「賃金支払いの5原則」といいます。
2:賞与
企業の業績に応じて支給される「報酬」のことで、ボーナスとも呼ばれます。個人の業績が付加された場合には、インセンティブと呼ばれることもあります。仕事の成果によって支給額が変動するタイプの「報酬」です。
3:退職金
退職時に支給される「報酬」です。退職手当と呼ぶ会社もあります。月例給与と異なり、退職金を支給するかどうかは企業に委ねられており、支給しなくても違法とはなりません。
「報酬」に対する「源泉徴収」とは?
「報酬」とは、所得税法上で考えると、労働契約のない者へ支払われるものだということをお伝えしました。
会社が個人事業者や個人に対して報酬等を支払った場合には、個人事業者等の所得税の一部について「所得税法で規定されている金額」を源泉徴収することになっています。つまり、フリーランスの人が「報酬」を受け取る場合、あらかじめ一定額の所得税を差し引いて支給されるということです。
源泉徴収が必要なのは、個人事業者や個人に対して支払ったもののみで、会社等の法人に対する支払いの場合には不要です。
源泉徴収が必要となるサービスは?
変遷徴収はその支払い対象だけでなく、サービスの内容によっても要・不要が変わってきます。具体的には、所得税法204条1項〜8号に記載されている業務のみ。興味のある人は調べてみてくださいね。
一部を以下に紹介しましょう。
1. 原稿料、講演料、教授・指導料等の報酬(第204条第1項第1号)
2. 専門職業等への報酬(第204条第1項第2号)
3. モデル、プロ選手、外交員等の報酬(第204条第1項第4号)
4. 芸能人、芸能プロダクション等の報酬(第204条第1項第5号)
5. ホステス、コンパニオン等の報酬(第204条第1項第6号)
6. 契約金(第204条第1項第7号)
7. 広告宣伝のための賞金、競馬の賞金(第204条第1項第8号)
源泉徴収の金額は?
源泉徴収金額は、基本的には、「報酬・料金の金額×10.21%」となります。ただし、所得税法ではその業務内容ごとに徴収金額がそれぞれ規定されているので、それによって金額の変動があります。
最後に
「報酬」について説明しました。単純に「お給料のことでしょう?」と思っていた人は、少し驚いたかもしれません。ひと言で「報酬」といっても様々な捉え方があるので注意しましょう。特にフリーランス、個人事業主など、確定申告の必要がある人はきちんと勉強しておくといいですね。
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