目次Contents
この記事のサマリー
・「出精値引き」の正しい読み方は「しゅっせいねびき」。
・出精値引きは、品質を落とさず企業努力として行う減額で、信頼関係を築く目的があります。
・一般的な値引きは販売促進や在庫処分が目的。出精値引きは誠意を示す点で大きく異なります。
見積書や契約書で目にすることのある「出精値引き」という言葉。建設業や取引の現場でよく使われますが、実は意味をきちんと理解していない人も多いかもしれません。
「単なる値引きとどう違うの?」「書類にどう書けばいいの?」と迷うこともありますよね。この記事では「出精値引き」の基本の意味から、使う場面、注意点までをわかりやすく整理します。
「出精値引き」とは?|読み方・定義
見積書や契約書にある「出精値引き」について、まずは、この言葉の正しい読み方と定義を確認しましょう。
「出精値引き」の読み方
「出精値引き」の正しい読み方は「しゅっせいねびき」です。
普段の会話では「出精でまとめています」と略されることもありますが、初めての取引先や正式な書類では、「出精値引き」と正式名称を記載する方が丁寧です。
実務上の定義とポイント
辞書で「出精値引き」の説明を確認しましょう。
しゅっせい‐ねびき【出精値引き】
[名](スル)見積書の明細に使われることのある項目の一。経費の見積を出した側が、自らの努力によって値引きしたことを表す項目。例えば、100万円の予算に対して見積額が110万となったときに、値引きの明細を出さずに、出精値引き10万として数字を丸める場合などにも用いる。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「出精値引き」の具体例は、見積額が顧客の予算を超過した際、細かい内訳を示さず「出精値引き ▲10万円」と記載し、金額を調整するケースです。
重要な特徴としては、単純な割引とは異なり、商品やサービスの品質を落とすことなく、企業努力の表れとして減額する点です。
「出精値引き」のよくある誤解
「出精値引き」は、大幅ディスカウントと同義ではありません。また、計算上の「端数調整(端数値引き)」や、一般的な在庫処分の値下げとも別物です。端数調整は計算上の都合ですが、「出精値引き」はあくまで企業努力を示す項目です。

「出精値引き」の目的と特徴
「出精値引き」は、取引先との信頼関係を築くための重要な手段として用いられることがあります。ここでは、その特徴を一般的な値引きと比較しながら整理します。
品質を落とさず誠意を示す
「出精値引き」は、商品やサービスの質を下げることなく「自社の努力で減額した」という姿勢を示すものです。
例えば、コスト削減や業務の効率化を行ったうえで適用することで、取引先に対する誠意を具体的な形にできます。
一般的な値引きとの違い
一般的な値引きは、在庫処分や販売促進といった市場競争を背景に行うのが通常です。その主な意図は、価格競争力の強化にあります。
これに対して、「出精値引き」の目的は「価格競争」ではなく「信頼関係の維持」です。「出精値引き」は、あくまで企業の努力と誠意の表明であり、その意図が根本的に異なります。
一方で、根拠のない大幅な値引きは、顧客側から「なぜ最初からその価格にしないのか?」と疑念を招き、信用を損なうおそれがあります。双方でのすり合わせや認識の共有が大切です。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
見積書・注文書・請求書での書き方
「出精値引き」を書類に記載する際は、相手に誤解を与えないように明確な表現を心がけましょう。
見積書での正しい記載方法
見積書に「出精値引き」を記載する際は、金額の内訳と理由を明確に示すことが基本です。
金額の記載順と表記
・記載順
まず通常のサービスや商品の金額(小計)を明記し、その下に「出精値引き」として減額分を記載します。最後に「合計金額」を示します。
「小計」→ 「出精値引き(▲円 または -円)」→ 「合計」
・記号
減額を示す記号は、「▲(三角)」または「-(マイナス)」を用いるのが一般的です。
値引き前の金額を伏せてしまうと、単なる値引きと誤解を生む可能性があるため、必ず通常の金額(小計)を記載しましょう。
備考欄への配慮
備考欄に値引きの理由を一文添えると、誠意がより伝わりやすくなります。
例文
「平素より格別のご高配を賜り、心より感謝申し上げます。御社との継続的なお取引を考慮し、出精値引きを適用いたしました」
注文書・請求書での注意点
注文書や請求書では、「出精値引き」が「強制でなく合意事項」であることを明確にする必要があります。
注文書・発注書
発注側が一方的に「出精値引き」と書き込むと、値引きを強要していると誤解されるおそれがあります。必ず合意事項として明記しましょう。
例
「御見積に記載の出精値引きを含め、総額〇〇円にて発注いたします」
請求書
インボイス制度下では、値引き後の金額と適用税率を正しく記載する必要があります。国税庁の示す要領に従い、社内ルールとも整合性をとることが重要です。

コンプライアンス|「違法?禁止?」下請法の勘どころ
「出精値引き」は受注側が自主的に行うからこそ適切ですが、発注側の強制が伴えば「不当な減額」となり、下請法や独占禁止法に抵触するおそれがあります。
自主的値引きと不当な減額の違い
出精値引きは「自らの努力による減額」であり、受注側が誠意として自主的に行う場合は問題ありません。
一方、「取引継続を条件にさらに安くしてほしい」といった発注側の一方的な要求は不当な減額に当たり、法令違反のリスクがあります。
リスク回避のために
強制的な値引きは信頼関係を損ない、違法とされる可能性もあります。疑わしいと感じた場合は、公正取引委員会や「下請かけこみ寺」といった公的な相談窓口を利用できます。

「出精値引き」の言い換え表現や英語表現|円滑なコミュニケーションのために
「出精値引き」は、柔らかい伝え方を選んだ方がスムーズに伝わることもあります。また、海外との取引では、日本特有の「出精値引き」をそのまま使うことはできません。必要な場面で意味を正しく伝えられるよう、対応する英語表現を紹介します。
「出精値引き」の丁寧な言い換え表現
発注側が「出精値引きをお願いします」と直接伝えるのは、強制的な印象を与えかねず、下請法の観点から不当な減額と受け取られるおそれがあります。依頼する際は、あくまで相談の姿勢を示すことが大切です。
予算に配慮した依頼
「私どもの予算に応じたご提案をいただけますと幸いです」
調整の可能性を打診
「こちらの条件で調整の余地があれば、ご相談させていただけないでしょうか」
発注側は、強制しない相談の姿勢が、トラブルを避けつつ信頼関係を築くポイントです。
実務で使える英語表現
国際取引などで「出精値引き」を説明する場合、単純な”discount(割引)” ではなく「誠意」を伝える表現を選ぶことが重要です。
“courtesy discount”(好意的な値引き)
“goodwill discount”(信頼関係を意識した値引き)
“discretionary discount”(裁量による値引き)
これらの語を使うことで、企業努力や誠意に基づく値引きであるという意図が伝わりやすくなるでしょう。
例文:“We applied a courtesy discount of $500 to this order.”
(この注文に対し、500ドルの出精値引きを適用いたしました。)
「出精値引き」に関するFAQ
ここでは、「出精値引き」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 「出精値引き」と一般的な「値引き」は同じですか?
A. いいえ。
「出精値引き」は「企業努力の表れ」としての減額です。販売促進を目的とする一般の値引きとは区別され、品質を下げない点が特徴です。
Q2. NGな使い方はありますか?
A. はい。
発注側が「出精値引きをしてください」と強制するのは誤用です。自主的に行うからこそ「出精値引き」であり、強要すると下請法違反の可能性があります。
Q3. インボイス制度でも出精値引きは使えますか?
A. はい。
ただし記載方法に注意が必要です。値引き後の金額と消費税率を明記し、社内規程や国税庁の要領に従うことが推奨されます。
最後に
出精値引きは、単なる値下げではなく、企業の努力や誠意を示すための重要な調整項目です。商品やサービスの品質を落とさずに信頼関係を築くために使うからこそ、その意味と正しい使い方を理解することが不可欠です。
正しい知識を身につけることで、出精値引きを安心して活用でき、円滑な取引と長期的なパートナーシップにつながります。
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