あなたが太ってしまう原因は「自制力の弱さ」ではない
「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。
じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。
このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
美味しいものに目がないのは進化論的にしょうがない
自分の好物を食べるのを拒否する人は、ほとんどいないでしょう。動物はみな、遺伝子の指令によって、子孫繁栄につながる行為をするように促されています。
危険なところに近づけば、恐怖が発動されてそこから遠ざかるようになっていると同時に、生き延びるのに有効な行為をすれば楽しくなるものです。
だから、私たちもみんなでわいわい食べる会食が好きなのです。おいしいものを食べることは生き延びるのに有効な行為なので、生物学的に奨励されています。
私たちが、食べておいしいと思う糖分、塩分、油脂、ミネラルは、健康に欠かせない栄養素です。また、こんがり焼けた柔らかい肉は、消化のよいタンパク質なので、ごちそうの代表格です。
私たちは欲望を歯止めできるように進化していない
ところが、欲望にまかせて食べつづけていると太り過ぎてしまいます。メタボになって健康に悪いと言われても欲望に歯止めがかからないのです。
その原因は、人類の歴史上、食料が豊富にある状態があまりなかったので「歯止め」が進化しなかったことにあります。
私たちの祖先は、約300万年前から数万年前までの長い間、アフリカの草原で狩猟採集の暮らしをしていました。その生活では、十分な食料を確保するのが難しかったのです。時には、食べ物が見つからずに、何日も食べずにいることも少なくなかったでしょう。
まれにマンモスなどの大型動物がとれたときは、大変です。今度はいつとれるかわからないので、懸命に食べないといけません。肉を保存する方法などは知られていなかったので、ひたすら食べて皮下脂肪として栄養を蓄える必要がありました。
しっかり栄養を蓄えれば、しばらく飢えに苦しむことはありません。遺伝子の指令によって、そうした状態になると幸福感が高まるのです。
現代はどう考えても太るようにできている
こうして私たちには、おいしい食べ物には目がない行動が築かれました。鳥であれば、食べ過ぎると飛べなくなるので、食べ過ぎないようにする行動が進化しているのですが、人類はそのように進化していません。
ある時期のある地域に限っては、食べ物が豊富になったかもしれませんが、すぐに人口が増えてその人口をまかなう食べ物が不足したでしょう。人類に飢饉はつきものだったのです。
つまり、今日の先進国の状態はきわめて例外的なので、太り過ぎを防ぐのは難しいのです。周りにたくさんのおいしい食べ物が安価で存在し、さらに広告や看板で「おいしいぞ、もっと食べろ、食べたら幸せになるぞ」とPRされています。
だから、人間が太り過ぎるのは、個人が悪いのではなく、太り過ぎるようにできている社会に原因があるのです。それでも太りたくないならば、食べ物が手に入りにくい山奥に住むことですね。
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▲『生物学的に、しょうがない!』(著者:石川幹人・出版:サンマーク出版)
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進化心理学者 石川幹人
1959年、東京都生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。
東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知科学、遺伝子情報処理。【生物進化論の心理学や社会学への応用】【人工知能(AI)および心の科学の基礎論研究】【科学コミュニケーションおよび科学リテラシー教育】【超心理学を例にした疑似科学研究】などの生物学や脳科学、心理学の領域を長年、研究し続けている。
「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。主な著書に、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『その悩み「9割が勘違い」』(KADOKAWA)、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)ほか多数。