薬のつくられ方と効果
皆さんは、お薬はどうやって開発されるかご存じですか? あまり馴染みはないかもしれませんね。
ある病気に対するお薬は、「その病気がなぜ引き起こされるのかの根本的な原理」を解明してその理屈に合わせて作用するお薬を作り出すんですが、人間の体って、それほど単純なわけではなく、我々が想像していないようなところで色々と意外なつながりがあるんです。
それが理由で、予期せぬお薬の副作用が出る場合もあるし、逆に予期せぬ意外な効果が出ることもあります。今日は、お薬の予期せぬ意外な効果について少しお話ししましょう。
薬の想定外の効果
様々な世界で、狙っていたものとは異なる意図で思わぬヒット作品になることってありますよね。最近のお薬で、「棚からぼた餅」みたいな感じで、予想外の効果が大きな経済効果を生んだお薬と言えば、バイアグラとか夢のやせ薬で紹介した、GLP-1受容体作動薬。
例えば、バイアグラは元々心臓のお薬として開発されていたのですが、意外な薬効がありよくよく調べてみると、心臓のみならず他の臓器にも影響することが判明。GLP-1作動薬も、インスリンを分泌する効果に加えて、脳にも作用し満腹感を引き起こし痩せる効果が判明。このような例はいくらでもあります。
もっと最近では、新型コロナウイルスにも想定外のお薬に効果がありそうという報告が相次ぎ、人類待望の新型コロナウイルス治療薬もこうした予想外の展開で間もなく人類は手にするのかもしれません。
痛み止めはムカムカ感や吐き気に効く?
それでは、最後に少し観点の異なるお薬の意外な効果について、もう少し具体的なお話しを紹介しましょう。
月経(生理)痛で悩んでいる女性は多いと思いますが、痛み止めはよく飲みますか? 痛みと同じくらいの頻度で、月経時にむかむか感や吐き気で苦しんでいる女性も多いと思います。そんな症状にも意外と「痛み止め」が効果を発揮することもあります。
「痛みはなくても飲むんですか? ムカムカ感や吐き気のあるときに飲むの? 胃薬の方がいいんじゃないんですか?」と聞きたくなりますよね。
しかし、答えは、
「はい。痛みがなくても、月経に伴うムカムカや吐き気には消炎鎮痛剤が効くことがあります。胃薬よりも良く効くと思います」
その理由は、プロスタグランディンという炎症物質が、頭痛、腰痛、腹痛などの痛みを引き起こす原因物質であると同時に、消化管の運動を抑えてしまう効果もあるのです。これがムカムカ感や吐き気につながるのです。
痛み止めといえば痛みがないと飲まないのは一般的には正しいのですが、そもそも、痛みは、炎症物質によるもの。消炎鎮痛剤には、鎮痛作用に加えて、消炎効果もあります。これはまさしく「想定内」の効果です。一度、試してみてください。皆さんの想像以上に切れ味良く効くと思いますよ。
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国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ