毎日「生きてる」と感じられる舞台は、ライブよりライブ
「やりたいと思ったことは行動に移す」という正門さん。思いの強さと行動力で実現した、シェイクスピア原作『十二夜』の舞台が、10月から上演します。性別にとらわれない自由なキャスティングで、正門さんは双子の兄と生き別れた妹・ヴァイオラを演じます。性別を「意識して演じない」という真意は…?

知的で美しい言葉がたくさん出てきて、シェイクスピアらしさがつまっている
──『十二夜』で演じるのは、主人公のヴァイオラ。正門さんにとって“女性役への初挑戦”となりますが、その特別感はどのように感じていますか?
いまの稽古の段階では、仕草も声も特別に“女性らしく”しようとはしてないんです。ストーリーはいい意味でカオスで面白い作品だから、女の子としてのセリフをそのまましゃべるだけ。「女の子だから」「女の子らしく振る舞う」ことばかりが、大事ではない気がしています。それより、ヴァイオラの乙女心、気持ちの流れがものすごく面白いのがこの喜劇。そこを理解することが、なにより大事だと思っているんです。
それに、実際に女の子が演じたら切ないセリフも、僕がしゃべると喜劇の恋愛ものとして笑えるんですよね。僕が演じる意味は、そこにあると考えています。
──正門さんご自身は、シェイクスピア作品にはどのような印象をもっていましたか?
舞台をやるからには、いつかシェイクスピア作品をやってみたい、というのはずっと思っていました。そのためには、実際に作品に触れておきたくて、『ロミオとジュリエット』や『オセロー』は観に行きました。(なにわ男子の)道枝くん主演の『Romeo and Juliet -ロミオとジュリエット-』には古典で王道ゆえの面白さがあったし、劇団☆新感線の『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』には変わり種としての観やすさ・楽しさがある。どちらも好きですが、いつか自分がやるなら、古典作品に挑戦してみたいと思っていました。
実は『十二夜』という演目は知らなかったのですが、すでに舞台でご一緒した森新太郎さんが演出とあれば、受けない理由がありません。喜劇であり、知的で美しい言葉がたくさん出てきて、シェイクスピアらしさもつまっている。よくできたお話で、めっちゃ面白いですよ。これを400年前に書いていたというのが、またすごい。いま改めてそう思います。

──ただ古典演劇となると、「難しそう」と思ってしまう観客も多そうです。
僕自身は、古典だからといって構えることはありません。ただ、原作の時代と現在の日本では、時代も文化も異なるし、特に貴族階級の呼び名は馴染みがありません。でも、そこもまたロマンチックなところ。それに、人間関係のごたごたは、古典でも現代でもありうるお話。『十二夜』では特に三幕あたりから人間関係が複雑になっていきますが、それも含めて楽しんでもらえると思います。わかりにくいところは、俳優さんの立ち振る舞いでわかるようになっているので、大丈夫です。
僕自身、観劇に行くときは、事前にざっとあらすじを読んだりはするけれど、それほど深く勉強していくほうではありません。だから観てくださるみなさんもそれで十分。それでも『十二夜』ならではの恋愛のときめきや共感は、感じられるはず。それでも「難しい」となったら、あとは僕たちの責任です(笑)。ちゃんとわかるようになっていますから、楽しみにしていてください。
始まってから終わるまで、何が起こるかわからないのが面白い
──正門さん自身は舞台の経験も増えてきて、今お感じになる舞台ならではの醍醐味はなんでしょうか。
稽古の段階から本番中まで、共同作業でものづくりをしている感じが好きです。さらに、お客さんを感じながら演じられることが、もっと好き。僕のモットーは、1公演1公演どれも違うしいろいろあるけど、「最後まで楽しもう」ということ。それはもうライブよりライブというか、毎日「生きてる」と実感できます。だから、舞台が好きなんです。
──では最後に。10〜11月にかけての公演期間中のルーティンや決まり事があったら教えてください。
何もやってない、いや、やらなくなりました。かつて『滝沢歌舞伎』に出ていたとき、先輩方を含めてみんなで毎日同じことを忠実にやるのが、ルーティンでした。それもあって、自分の舞台でも毎回ちゃんと同じ準備をして演じようとしたら、舞台『染、色』(2021年)で演出家の瀬戸山美咲さんにこう言われたんです。――その日のライブ感、ハラハラドキドキが見たい――と。車庫入れを見たいんじゃない。F1レースのように、どうなるかお客さんが背もたれから背中を離すくらい、巻き込んでいく演劇を見たいんだと言われ、衝撃を受けました。舞台は、毎日違っていいんだ。それからは、ルーティンだったこと全部やめました。もちろん、ゲン担ぎもありません。
そのかわり、1回1回の舞台を大切に。観る方にも、始まってから終わるまで、何が起こるか、どうなるかわからない面白さを、一緒に味わってもらいたいです。

舞台『十二夜』開演まであと1か月。力みすぎず、かといって何ひとつ疎かにせず、淡々と準備を進める正門さん。その姿は、たくましくもあり、儚くもあり…。それが、演じる女性・ヴァイオラにどう表れるのか、今から楽しみです。
舞台『十二夜』
船が嵐に遭遇し、双子の兄と生き別れた妹・ヴァイオラ(正門良規)。イリリアに流れ着いた彼女は、生き延びるために男装し、「シザーリオ」と名乗って、公爵オーシーノ(長井短)に仕えることに。密かにオーシーノに恋心を抱いているが、男のふりをしているため、想いを告げられずにいる。一方、オーシーノは、伯爵令嬢オリヴィア(大鶴佐助)に夢中。冷たくあしらわれても情熱は冷めず、お気に入りのヴァイオラを使者に立てて、自らの想いを伝えさせようとする。因果な務めに葛藤しながら、オーシーノの想いをオリヴィアに届けるヴァイオラ。だがオリヴィアは、男装したヴァイオラに一目惚れしてしまい……!ヴァイオラの男装から始まる、もつれにもつれた恋の三角関係。果たしてその結末は――?

<東京公演>
2025 年 10 月 17 日(金)〜11 月 7 日(金) @東京グローブ座
<大阪公演>
2025 年 11 月 15 日(土)〜11 月 21 日(金) @森ノ宮ピロティホール
出演:正門良規(Aぇ! group)、大鶴佐助、高橋由美子、松本紀保、長井短、北村優衣、阿知波悟美、峯村リエ
笠原竜司、冨永竜、田中穂先、鈴木崇乃、天野勝仁、古賀ありさ
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出:森新太郎
撮影/黒石あみ スタイリスト/丹ちひろ、横田勝広(ともにYKP) ヘア&メイク/髙取篤史(SPEC) 取材・文/南 ゆかり

正門良規(Aぇ! group)
1996年11月28日生まれ、大阪府出身。Aぇ! groupとして2024年「《A》BEGINNING」でCDデビュー。俳優としての出演作品は、NHK連続テレビ小説『スカーレット』、ドラマ『京都のお引越し』『ムサシノ論舞曲』、映画『グランメゾン・パリ』、舞台『滝沢歌舞伎2018』『滝沢歌舞伎ZERO』『染、色』『ヴィンセント・イン・ブリクストン』『Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド〜虚空に触れて〜』などがある。情報番組『サタデープラス』にMCとしてレギュラー出演中。