朝ドラ『あんぱん』を語りたい!今週の見どころと感想をレポ
朝ドラ『あんぱん』観てますか? やなせたかし先生の妻・小松暢さんをモデルに、“逆転しない正義” 『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語を描くドラマ。ヒロインの「朝田のぶ」を今田美桜さん、やなせ先生をモデルにした「柳井嵩」を北村匠海さんが演じます。
朝ドラ大好きOggiチームきってのNHK「連続テレビ小説」ウォッチャー、ライター・朝 ドラ子が、今週の『あんぱん』のツボを自由きままに語りたいと思います!
◆先週のレビューはこちら:大森元貴さん演じる音楽家・たくチャンの珠玉の歌声。制作側のサービス精神ダダ漏れです!|『あんぱん』第20週
先週から匂わせていた、あの名曲誕生の予感。週をまたいだら爆速でリリースされて大人気になってました、“手のひらを太陽に”。そしていちばん衝撃だったのが、ヒロインが2週連続職場をクビになる展開! さすがに不憫すぎる…。嵩はというと作詞に脚本制作、テレビ出演とひっぱりだこ。ようやく売れっ子の仲間入りですが、なんだか夫婦の気持ちにはだんだんと距離ができてきて…。
第21週「手のひらを太陽に」を振り返ります
頼まれたら仕事を断らない「ファイティングやない」こと柳井嵩! しかも仕事が早くて締切をしっかり守るそうじゃないですか。こういう人が売れるんですよね〜。ですが、近ごろ漫画はなかなか描けていないようす。そんな嵩を見て「好きなように漫画を描けばいいのに」とやきもきするのぶちゃん。
雑貨屋の雇われ店長だった八木さんは会社を興しました。その社員として、ガード下の少年・アキラくんが立派な大人になって再登場! 盗みは辞められたんだね、一安心。宣撫班の粕谷さんもジョインしてました(一瞬「誰だっけ?」ってなってごめん)。
嵩のお騒がせ母・登美子とのぶちゃんはすっかり茶飲み友達に。登美子のような激しめの個性を持った人って、のぶちゃんくらいの距離感で接したら案外楽しい存在なんでしょうね。しかしながら実子である嵩が「会うのはやめとく」というのがすべての答えな気もする。
そして、ぎこちなくなってしまったのぶ&嵩夫婦の行く末は…?
朝ドラウォッチャーの「今週のツボ」

1. 蘭子と八木さん、ふたりの関係はどうなる?
蘭子が会社を辞めてフリーライター一本になりました。八木さんの会社とも仕事をしているようで、ビーチサンダルの宣伝文を執筆しています。なんと3回も書き直しさせられていました。同じライターとして胃が痛くなるシーンです。これまた八木さんのダメ出しが「君にしか書けないものを書け」と抽象的で…。修正指示がふわっとしてるとしんどいよね、と蘭子にやたら感情移入してしまうドラ子。
とはいえ、最終的に原稿にOKが出たときの蘭子はホッとうれしそうな表情。その気持ち、わかるぞ蘭子! どんなにリテイクされても最後にちょっとでも褒められたら疲れもふっとぶ。ライターとはそんなチョロい人種なのです(主語でかすぎました、人によります)。でもだからこそ、映画批評の仕事では読者ウケを意識して過激な論調になってしまうのも、よくわかります。それを八木さんにチクリと言われて、ちょっとした衝突に。クライアント相手に堂々と反論できる蘭子、強い。そしてすぐ反省して謝りにいけるの、えらい。
結果、蘭子と八木さんは、大切な人を戦争で亡くすという、同じ哀しみを抱えていることもわかりました。喪失感を静かに吐露しあうふたり。お互いに慰めあうでもなく、不用意に共感を示すでもなく、ただ黙ってコーヒーを飲むシーンがよかった。深い傷を負った人には、きっとこういう時間が必要なんだろうな。
で、ここからがドラ子的「ん?」ポイントなんですけども、のぶちゃんの「蘭子、(八木さんに)恋をしちゅうがないやろか」発言ですよ!! 『あんぱん』の人々、やっぱり恋愛脳すぎるよ! 後半でサブキャラ同士が急にくっつく展開は朝ドラあるあるなんですけども、なんでもラブな展開で解決するのはさすがに力技すぎないかなと。蘭子自身も「私は一生恋愛しない」と宣言していましたが、どうなんだろうな〜。リスペクトしあえる男女の関係は、必ずしも恋愛だけじゃないと思うんですよね。仕事上のバディとか、高め合える親友同士とか、そういう関係性もぜひ見てみたいです。
2. コン太くんの発言に違和感が…。昔の記憶、都合よく捏造されがち
フッ軽な羽多子さんが東京に遊びにきてくれました♡ しかしどう考えてもデカくて重そうな「千尋くんのラジオ」を高知から持ってきたのには驚きました。千尋の形見ということで…ってことなんだろうけど、絶対大変だったよね(笑)。
のぶ&嵩の同級生であるコン太くんも羽多子さんに帯同というサプライズも。元気そうでなによりです。コン太くん、朝田家を間借りして食堂をやりたいんだそう。食いしん坊の彼らしいですが、きっかけは戦時中に中国で食べたゆでたまごの味が忘れられないからだとか。そんなこともありましたね。
その時のことを「民家に食べ物を盗みに入った」と説明していましたが。あれ、だいぶマイルドに脚色してません? ドラ子の記憶では、住民のおばさんに武器を突きつけて「略奪」しようとしていたような…。極限状態が人を凶行に駆り立てる、恐ろしいシーンだと思っていたよ!? 「あのときの恩返しをしたい」と言うけど、どちらかというと「罪滅ぼし」なのでは。う〜〜ん、時間の経過とともに記憶が捏造されることってままあるよね。いい話風に着地していましたが、ドラ子は納得できませんでした(笑)。
3. この展開を待っていました! 「自分には何もない」を自覚したのぶちゃんの、これから
さてさて、今週は物語のターニングポイントとして非常に重要だったのではないでしょうか。月曜日に名曲“手のひらを太陽に”があっさり大ヒットしていて「もっと制作の裏側とか見たかったナ〜」などと思っていたドラ子ですが、大事なのはそこじゃなかったんだなと、金曜まで見終わって腑に落ちました。今週はヒロイン・のぶちゃんのカタルシスこそがハイライトだったのだと。
仕事をクビになり、目標を見失ってしまったのぶちゃん。一方、嵩は次々と依頼が舞い込む売れっ子クリエイターに。そのギャップに悩み、いらだち、嫉妬し…。とうとうふたりは言い合いになって、のぶちゃんは家出してしまいました。行き先は向かいの蘭子の家だけど。この付かず離れずの近距離家出、ちょっとかわいい。あと蘭子とのぶちゃんが並んで寝ていたときのナイトキャップ?もかわいかった!
そしてひとり山に登り、久しぶりに自分の身体が風になるのを感じ、すっきりしたのぶちゃん。自宅に帰って嵩と向き合い、涙ながらに本音をこぼします。「せいいっぱい頑張ったつもりやったけれど、何者にもなれんかった」と。教師も、記者も、議員秘書も、中途半端に終わってしまった。お母さんになることもできなかった。「うちはなんのために生まれてきたがやろう? 世の中に忘れられたような、置き去りにされたような気持ちになる」。
ドラ子はこの連載でずっと「のぶちゃん自分がない説」を提唱してきましたが、ようやくそのアンサーを受け取った気分です。自分がないからこそ、ずっとのぶちゃんは「何か」になりたかった。物心ついたころから「漫画を描く」という命題を持っていた嵩が、さぞかしうらやましかったでしょう。いつかお父ちゃんに言われた「おなごも大志を抱け」。のぶちゃんにとっては背中を推す言葉でもあり、「大志を全うして何者かになるべき」という、呪いにもなっていたように感じます。『あんぱん』のテーマである「価値観の逆転」にも通じますね。
でもねのぶちゃん、世の中の大半の人はたぶん、何者にもなれないんだと思います。でも、それでいいじゃん、とドラ子は思う。何も成し遂げなくたって、生きてるだけで、あなたは素敵な女性なんだよ。
そんなドラ子の想いをブーストするように「そんなこと…誰のせいでもないよ。僕たち夫婦はこれでいいんだよ」とのぶちゃんの手をとる嵩。「のぶちゃんはそのままで最高だよ」。嵩、のぶちゃんに救いの言葉をくれてありがとう。『あんぱん』の主人公は、嵩じゃなくてのぶちゃんだったんだな。そんな大前提を改めて実感する週となりました。
次週は「愛するカタチ」嵩はますますヒット作家になるっぽい
は〜(感嘆)、「のぶちゃん、もう背伸びせんでいいのに…」とずっとモヤモヤしていたドラ子の気持ちも、やっと晴れました。主題歌なしの特殊オープニング(エンディングか?)もしっくりきましたね。週のラストにはアンパンマンのプロトタイプとおぼしきイラストも登場。アンパンマンが子供たちのヒーローになるのは、まだまだ先の話のようですが…物語はいよいよラストスパートへギアを入れつつありそうです。
【おまけ】今週のあんパン

いわゆる「完全栄養食」的な商品が大好きなドラ子、「BASE」シリーズにはとくにお世話になっています。どんどん新作味が出るのも楽しいところですが、あんパンが登場したときはいっそう「おぉっ」となりましたね。罪悪感のないあんパンなんてうれしすぎる♡
「朝ドラウォッチャー」ライター・朝 ドラ子
NHK「連続テレビ小説」(通称・朝ドラ)をこよなく愛するアラフォー。毎日退勤後に録画をじっくり観るのが日課。会議でのアツい朝ドラコメントが「天才的なウォッチャー」と編集長に認められ、この連載を開始。歴代ナンバーワン朝ドラは『スカーレット』(2019年度後期放送)。