組織・キャリア開発の専門家の著書よりお届け〈ミニ連載 vol.4〉
「やりたいことが見つからない」悩みを抱えていた“Willなし人間™”であり、ライフステージの変化にも苦しんだ経験を持つ森数さんは、転職エージェントや人事組織コンサルタントとして、同じ悩みを持つ多くの求職者や企業と向き合い、試行錯誤してきた新しい視点のキャリアデザインを提唱。
「やりたいこと」や「強み」が明確ではないビジネスパーソンや、結婚・出産・子育て・介護などのライフイベントによってキャリアに悩む人に向けたアドバイスが盛り込まれた著書『「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略 〜やりたいことがなくても選べる未来をつくる方法〜』より一部抜粋・編集してお届けします。今回はミニ連載の最終回です。
▼前回記事
転職しない選択も含めた柔軟なキャリア戦略
【1】転職する・しないを職務経歴書から判断する
キャリア形成において、転職はあくまで手段の1つに過ぎません。転職目的ではなく定期的な振り返りとしての職務経歴書を、「自分企画書」として活用することで、「今の場でさらに成長を図る」という選択肢も見えてきます。
転職する・しないの判断について相談を受ける際、私は次のように答えています。
・現職が価値観にフィットしていて、キャリア戦略上で得たい経験を積める可能性があるなら、転職しない方がよい。
・キャリア戦略上はよい選択に見えても、価値観が合わず能力を発揮できない環境であれば、転職を検討した方がよい。
新しい成長機会や挑戦機会を求める場合、すでに人間関係を構築していて、信用を得ている現職の方が、実現可能性が高く、結果も出しやすい傾向にあります。一方で、転職すると、信頼の構築や人間関係もゼロから始まるため、うまくいかない可能性も含まれています。このような観点で、転職のメリットとデメリットを理解して判断することが重要です。
【2】転職以外の選択肢としての「副業」
転職だけでなく、副業に挑戦するのもキャリア戦略の1つです。副業のメリットとして次が挙げられます。
・新たな経験とスキルの蓄積：副業で得た経験はキャリアの「価値あるピース」として活用でき、将来の選択肢を広げる土台にもなります。
・収入源の分散によるリスクヘッジ：収入源を複数持つことで、万が一本業に変化があった際のリスクを軽減できます。また、経済的な余裕が生まれることで、新たなチャレンジもしやすくなります。
・人脈の拡大と新たなビジネスチャンス：副業を通じて、普段の職場では出会えない人と交流する機会が広がります。これにより、新しい人脈が築け、将来のキャリアやビジネスチャンスが生まれる可能性が高まります。
・精神的なバランスの確保とモチベーション向上：本業とは異なる分野で活動することで、新たな刺激を得られます。副業で得られる達成感や楽しさがストレスを軽減し、仕事生活全体の満足度を高めます。
このようなメリットを活用するため、本業だけを「仕事」と捉えるのではなく、副業も含めて「仕事」と再定義してみてはどうでしょうか。本業でやりがいや報酬など全てを満たせるのが理想ですが、現実的に難しいことも多いです。本業では「得意」を活かし、副業で「好き」を満たすという形もあります。
例えば、営業職の方が趣味で写真撮影をし、それを活かしてスポットワークとしてイベント撮影の副業をしているケースもあります。スポットワークとは、短期間や単発で依頼を受ける副業であり、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能です。
一方、副業にはデメリットもあります。例えば、時間管理が難しくなったり、スイッチコストで疲労が蓄積する可能性もあります。キャリアの観点でいえば、副業で関われる仕事の範囲には限りがあるケースもあります。こうした点に注意しながら、選択できるといいでしょう。
このように、キャリア形成は「転職するかしないか」の単純な二者択一ではありません。現職で成長することや副業を通じて新たな経験を積むなど、柔軟な選択肢を持つことで自分らしいキャリアを築くことができます。
自分にとって有利になる戦い方を知る
転職活動を進める際、どのように情報を得るのが最も効果的でしょうか？
多くの方はまず求人サイトで検索し、興味のある企業や職種を見つける方法を取ると思います。
弊社のキャリア事業「キャリパト」のユーザー様でも、「求人サイトに登録して探している」という方がほとんどです。しかし、求人サイトにもそれぞれ特徴があり、適切なサイトを選ばなければ、必要な情報を得ることが難しくなる可能性があります。職種や業種、希望する働き方によっても、適切なサイトは異なります。
転職エージェントの選び方も重要で、求人サイトよりもさらに複雑な要素が含まれます。例えば、転職エージェントには次のような特徴の違いがあります。
転職エージェントの特徴
百貨店型（総合型）とブティック型（専門特化型）
百貨店型エージェントは、多種多様な求人情報を網羅しており、幅広い選択肢を提供してくれます。一方、ブティック型エージェントは特定の業界や職種に強みがあり、質の高いマッチングが期待できます。
分業型と両面型
分業型エージェントでは、企業側と求職者側の担当が分かれており、それぞれの役割に特化したサポートが受けられます。一方、両面型エージェントでは一人の担当者が企業と求職者の双方をサポートするため、深い理解に基づいた提案が可能です。
どの方法がよい悪いではなく、自分のキャリアテーマや希望条件に合った手段を選択することが重要です。情報収集の効率が上がり、希望に合った情報が得られる手法を見極めましょう。そのためには、自分にとって必要な情報を知り、適切に判断できる「ものさし（判断軸）」を持つことが不可欠です。
今の自分にとって大切なキャリアテーマや判断軸についての理解が明確でないまま転職活動を始めてしまうと、「受からない」「決められない」といった悩みに直面することがあります。
過去の経験を振り返り、自分の強みを見つけ、キャリア戦略のベースを構築することが大切です。
「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略 やりたいことがなくても選べる未来をつくる方法
株式会社Your Patronum 代表取締役／組織・キャリア開発の専門家 森数美保
大阪大学卒業後、新卒一期生として人材紹介会社ジェイ エイ シー リクルートメントに入社し、最年少マネージャーを経験。その後、株式会社Misoca（現・弥生株式会社）、株式会社キャスター、株式会社ミライフ等を経て2024年株式会社Your Patronum（ユアパトローナム）創業。代表取締役に就任。「チームの行動を変容させ、強い組織をつくり事業を伸ばす」をミッションに、法人向けの組織開発コンサルティングサービス「ユアパト」、個人向けのキャリア支援サービス「キャリパト」を提供している。名古屋在住。16歳女子、13歳男子の母親。社会保険労務士有資格者。
