組織・キャリア開発の専門家の著書よりお届け〈ミニ連載 vol.3〉
「やりたいことが見つからない」悩みを抱えていた“Willなし人間™”であり、ライフステージの変化にも苦しんだ経験を持つ森数さんは、転職エージェントや人事組織コンサルタントとして、同じ悩みを持つ多くの求職者や企業と向き合い、試行錯誤してきた新しい視点のキャリアデザインを提唱。
「やりたいこと」や「強み」が明確ではないビジネスパーソンや、結婚・出産・子育て・介護などのライフイベントによってキャリアに悩む人に向けたアドバイスが盛り込まれた著書『「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略 〜やりたいことがなくても選べる未来をつくる方法〜』より一部抜粋・編集してお届けします。今回はミニ連載の第3回目。
▼前回記事
ライフステージ変化への対応

「育休中に会社の体制が変わった」「配偶者の転勤で仕事を辞めた」
結婚、育児、介護など、ライフステージの変化はキャリアに大きく影響します。かつては女性の課題とされてきましたが、今や性別を問わないテーマです。
実際に「妻の育休復帰に合わせて働き方を見直したい」など、男性からの相談も増えています。共働き世帯が7割を超える今、パートナーと共に考えることが重要です。
イレギュラーが起きやすいライフステージ変化

キャリア戦略の難易度をあげている要素の1つが、ライフステージの変化です。
ライフステージの変化は、多くの人にとってキャリアに大きな影響を及ぼすターニングポイントになります。結婚、妊娠、出産、育児、介護といったライフイベントは、自分の意思ではコントロールできない予期せぬ事態やイレギュラーな状況をもたらしがちです。これにより、キャリア計画の変更を迫られることも少なくありません。
例えば、次のようなケースです。
・結婚による転居やパートナーの転勤:結婚やパートナーの転勤によって、現在の職場を離れざるを得なくなり、キャリアを一旦中断せざるを得ないケースがあります。
・妊娠・出産による退職や休職:転職後すぐに妊娠が発覚し、育休制度が取得できず退職を余儀なくされることや、妊娠中の体調不良による長期休職を経て、そのまま復職が困難となることもあります。
・育児との両立の難しさ:出産後、子どもの急な病気や予期せぬ事情で、家庭と仕事の両立が難しいと感じることが多くあります。
ライフステージの変化による影響を受けやすいのは女性ですが、最近は、男性から「ライフステージの変化に対応するため、この先のキャリアについて考えたい」「家族との時間を今より増やしたい」と相談を受けることも増えてきました。よって、男女共通の悩みになってきたと言えるのかもしれません。
ライフステージ前のキャリア戦略

先を見越したキャリアブレーキに注意
ライフステージの変化が予測されると、多くの人が「妊娠を希望しているから昇進の打診を断ろう」や「妻の出産もあるから今は転職を見送ろう」といった現状維持の選択をする傾向にあります。また、「将来のライフイベントに備えて、仕事のペースを落とそう」とブレーキを踏みがちです。しかし、事前にブレーキを踏むよりも、必要になるタイミングまでキャリアのアクセルを全開にすることをお勧めします。
ライフイベントのタイミングは予測が難しいため、ブレーキを早めに踏むことで成長機会を失う可能性があるからです。例えば、「転職を考えていたけど、妊娠を希望しているから転職を先送りにする」という選択をした結果、思うようなタイミングで授からず、想定より数年遅れて妊娠・出産、産休・育休を経て復帰することになると、転職をしないまま4〜5年が過ぎてしまうケースもあり得ます。その間に、キャリアの成長機会を逃し、後悔することになりかねません。
私の友人の中には、妊娠や育休を理由にキャリアのペースを落とした結果、同期入社の人たちが先に昇進していく様子を見て焦りを感じた人もいます。「もっと出産前に全力でキャリアを追求していればよかった」とよく言っていました。介護も同様に、予測できないライフイベントの1つです。親の介護のために仕事を辞めて地元に戻り、そのまま再就職の機会を逸してしまうケースや、兄弟と協力して親の介護をするため、週の半分を地元で過ごす2拠点生活を余儀なくされるケースもあります。
介護の対象は親に限りません。配偶者の突然の病により、海外赴任の期間を短縮して帰国したり、子どものケアのためにフルタイムの仕事を断念したりするケースもあります。このように、自分ではコントロールできないタイミングで、キャリアや働き方の大きな転換を迫られることがあるのです。
「キャリアを諦めたくない」「仕事が好き」という方は、ライフステージの変化が訪れる前に、できる限りキャリア成長に力を注ぎましょう。
予測が難しい未来に対して、あらかじめブレーキを踏むのではなく、訪れた時に適切に対応する準備(=キャリアの可能性を増やす経験を積む)を整えながら、今できる成長を最大限に引き出していくことが、未来のキャリア戦略において重要です。

「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略 やりたいことがなくても選べる未来をつくる方法

株式会社Your Patronum 代表取締役/組織・キャリア開発の専門家 森数美保
大阪大学卒業後、新卒一期生として人材紹介会社ジェイ エイ シー リクルートメントに入社し、最年少マネージャーを経験。その後、株式会社Misoca(現・弥生株式会社)、株式会社キャスター、株式会社ミライフ等を経て2024年株式会社Your Patronum(ユアパトローナム)創業。代表取締役に就任。「チームの行動を変容させ、強い組織をつくり事業を伸ばす」をミッションに、法人向けの組織開発コンサルティングサービス「ユアパト」、個人向けのキャリア支援サービス「キャリパト」を提供している。名古屋在住。16歳女子、13歳男子の母親。社会保険労務士有資格者。