高性能なスマホのカメラでは〝失敗〟しづらくなった今、昔のカメラの〝不完全〟な魅力が改めて注目されています
今回の先生

▲2nd BASE店長・三村祐太さん
みむら・ゆうた/1991年生まれ。趣味で楽しんでいたカメラや部品の奥深さにひかれて、異業種から三宝カメラ(東京・自由が丘)に転職。2019年中古カメラ店「2nd BASE」のオープンと同時に店長に。休日はNikon Zfにオールドレンズをつけて家族の撮影を楽しむ。
20年前のデジカメが若い世代に大人気の理由は?
Oggi編集部(以下Oggi):本日は、中古カメラ専門店「2nd BASE(セカンドベース)」におじゃましています! 店内にはレトロなカメラや渋いレンズがずらり。20〜30代と思われる男女やインバウンドのお客さんがひっきりなしに来店されますね。
三村さん(以下敬称略):実はここ2年ほど〝オールドコンデジ〟ブームが来ているんです。
Oggi:オールドコンデジ…⁉
三村:おもに2000年代に生産されたコンパクトデジタルカメラのことです。読者のみなさんが子供のころは、どの家庭にも1~2台はあったのでは?

Oggi:ああ… なんとなく覚えています。スマホでキレイな写真が撮れるようになって、すっかり見かけなくなったと思っていましたが…?
三村:ハリウッドスターや韓国のインフルエンサーのSNSをきっかけに、Z世代の間で人気に火が付いたんです。私たちも「海外で流行っている」との噂を聞きつけ、’23年のはじめにお店に専用のコーナーを設けたところ、予想以上に売れて。あっという間に日本でも人気が爆発し、2年経った今では価格が2~3倍まで高騰してしまいました。一方で、フィルムカメラ人気も健在。現在ではほとんど製造されていないものの、中古市場が根強いファンに支えられています。レンズ付きフィルム〝写ルンです〟も若者の間で何度かブームを繰り返していますね。

Oggi:なぜ若い世代の間で古いカメラが流行るんでしょう⁉
三村:「スマホの写真は、だれが撮っても同じような仕上がりになる」「キレイに撮れるけどなんだかつまらない」と感じる人が増えているようです。昔のカメラは画質が粗いうえ、フラッシュで顔が白飛びしたり、逆光で被写体が真っ黒になってしまったりしますが、従来は〝失敗〟と捉えられがちだったその不完全さが、若い世代には逆に新鮮なようで。むしろ「写りが粗いほうがエモくて盛れている」「顔が白飛びすると美白効果が出てうれしい」という声まで聞きます。
Oggi:逆転の発想…!
三村:デジカメは、SDカードなどのデータを自分でスマホに移せる手軽さやコスト面のハードルの低さも魅力です。一方、フィルムカメラの場合は、撮った写真をすぐ確認できず、フィルムの枚数にも限りがあるため、一枚一枚の写真に対する緊張感や思い入れが深まります。カメラを構えてファインダーをのぞいたり、マニュアルでピントを調整したり、古い機種なら撮り終わった後に自分でフィルムを巻き戻したり、アナログな〝所作〟に憧れる、という声も多いですよ。

Oggi:現像に出して仕上がりを待つ時間もワクワクですよね!
三村:最近は、フィルムを現像した後、紙にプリントするのではなく、データ化して納品してもらうサービスが主流。データをSNSにアップするまでが若い世代の定番の流れになっています。ただ、フィルムも最近は1本2~3千円と高騰していて、金銭的にわりと余裕のある人向けの趣味になってきた印象がありますね。
Oggi:そんな価格に⁉ もはや大人の贅沢ですね!
光と影に注目。エモい写真を撮るには
Oggi:初心者でもエモさを感じさせる写真を撮るコツは?
三村:〝光と影〟を意識してみてください。明暗のコントラストが強いシーンでは、陰影や奥行きが生まれて印象的な写真に仕上がります。海や雨、水たまり、ビルのガラスなど、光がキラキラ反射する️シーンも古いカメラと相性がいいですよ。また、薄暗い場所であえてフラッシュをたかずにブレた写真を撮ったり、光を感じ取るISO感度を上げてノイズを出したりしても味わいのある一枚に。フィルムカメラの場合は色味や粒子感など個性の違うフィルムで撮り比べてみるのもおすすめ。オールドコンデジで、撮影モードの設定を変更して、自分の好きな色味や映り方を研究してみてください。
フィルムカメラ&オールドコンデジなら… こんなエモ写真が撮れる!(撮影:三村祐太)
【フィルム】ザラついた質感がノスタルジック!

フィルムカメラならではの粒子感が草原の緑をやわらかく見せる一枚。デジタルにはない独特のザラつきとあせたような色味がどこか懐かしい!
【コンデジ】ネオンや夜景もドラマチックに

濡れた路面に広がる赤や青のネオン、車のヘッドライトの明かり。古いコンデジならではの〝にじみ〟や〝ノイズ〟が夜の街に温かさをプラス。
【フィルム】逆光との相性よし

ホームに立つ人物が黒いシルエットとなり、奥に差し込む光とのコントラストが鮮やかに。陰影を際立たせ、奥行きや深みを生み出した一枚。
【コンデジ】あえての〝ブレ〟がエモい

薄暗い場所でシャッタースピードを遅くしてフラッシュをたくと、被写体の周りがふんわり。スマホでは嫌われがちなブレも味わいに。
Oggi:中古店でカメラを選ぶ際のポイントは?
三村:価格はピンキリなので、もちろん予算に合わせて検討が必要ですが、いちばん大切なのは〝自分が好きだと思えるカメラ〟を選ぶことです。スペックや人気機種にこだわりすぎず、デザインが好みだとか、持った感じがしっくり来るなとか、生活スタイルに合いそうなど、フィーリングを重視して。
Oggi:三村さんもレトロなカメラを愛用されているんですか?
三村:はい。特に人物を撮る際に、スマホや最近のデジカメのようにシャープになりすぎず、やわらかい質感が出る感じが好きですね。個人的な感覚ですが、オールドコンデジやフィルムカメラで家族を撮影していると、昔にタイムスリップしているような、不思議な気持ちになることがあります。スペックでは今のカメラに敵わないけれど、気持ちの面で満たされるものがあるんですよね。
中古で手に入ればラッキー? 三村さんおすすめ! 初心者にもピッタリな人気機種は?
【フィルム】OLYMPUS PEN EE(1961年発売) ¥13,200

小型なボディで失敗知らず! 自動露出で初心者でも簡単キレイな一枚に。1本のフィルムで2倍の枚数が撮れる〝ハーフサイズカメラ〟。
【フィルム】KONICA C35(1968年発売) ¥20,900

クラシック感がたまらない。ファインダーをのぞきながらピントを合わせる〝レンジファインダー〟とレトロなデザインが魅力。
【コンデジ】PENTAX Optio E20(2006年発売) ¥14,300

「撮りたい!」を逃さない。細かい設定なしでパッと撮れるシンプル設計で、初心者向けの気軽さ。昨今では珍しくなった単三電池式。
【コンデジ】Canon IXY 600F(2011年発売) ¥24,200

クールなブームの火付け役♡ 有名人が持っていたことで流行の発端となった機種。スタイリッシュなデザインながら高画質に撮れる本格派。
【コンデジ】FUJIFILM FinePix 4700Z(2000年発売) ¥19,800

縦型のデザインがキュート。丸みを帯びた縦型フォルムが目を引く初期のデジカメ。フィルムメーカーならではの鮮やかな色再現が売り。
Oggi:素敵! オールドコンデジの次に来そうなブームは?
三村:10年ほど前に流行った、センサーサイズが小さく軽量なミラーレスがリバイバルするのでは? と密かに思っています。スマホよりも本格的な写真を撮りたい、でも大きなカメラはちょっと、という人にはピッタリですよ。
Oggi:これからカメラを始める読者に何かメッセージを!
三村:普段の写真はスマホで撮る人でも、自分の生活になじむカメラを1台バッグに忍ばせて、キレイな夕焼けを見たときなど日常の中で「今だ!」と思った瞬間を捉えてみてください。また、お気に入りの一枚はぜひプリントして、フレームに入れて部屋に飾ってみて。感動を何度でも楽しめて、カメラのよさをいっそう味わえると思いますよ。
覚えておきたい「レトロカメラ」のキーワード
中古カメラ専門店

カメラ愛好家だけでなく、初心者でも気軽に足を踏み入れやすいおしゃれな店が話題に。「2nd BASE」は1975年創業のカメラ専門店・三宝カメラが〝カメラ愛好家の秘密基地〟をコンセプトに東京・秋葉原にオープン。
現像
フィルムカメラの場合、撮影した写真を専用の薬品を使って画像として仕上げる工程。デジタルカメラの場合はデジタルデータをJPEGなど鑑賞可能なデータに変換する工程のこと。
撮影モード
シーンに合わせて写真の印象を変えられる機能。人物を美しく見せる〝ポートレートモード〟、遠くのものも鮮明に写す〝風景モード〟、細部にクローズアップする〝マクロモード〟など。
ミラーレス

一眼レフカメラに搭載されている 反射鏡(レフ)を省いたデジタルカメラ。一眼レフより軽量かつコンパクトで持ち運びやすく、ファインダーをのぞく代わりに液晶モニターを見ながら高画質な写真や動画を撮影できる。
※掲載している情報は2025年5月13日現在のものです。
2025年Oggi7月号「Oggi大学」より
撮影/深山徳幸 構成/中村茉莉花、酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部