成田悠輔さんが考える「これからの30年、どう生きていきたいか」
Oggi30周年を記念して、30代を中心としたオピニオンリーダーに、「これからの30年、どう生きていきたいか」をインタビュー。今回は、イェール大学助教授であり、経済学者、データ科学者、コメンテーターと多岐にわたる活躍が注目される成田悠輔さんにお話を伺います。
生命にかかわる心配が身近にないからこそ、漠然とした未来への不安が募っているのでは?
今の日本は、昔に比べて衛生的で安全。いろんなカルチャーが共存してカオス感が漂っていて面白いのに、事件は少ない。
つまり、生命にかかわる汚染や犯罪に巻き込まれる心配が身近にないからこそ、「なんとなく将来がヤバそう」といった“漠然とした未来への不安”が募ってしまうのでは?
日本経済を不安視する人も多いです。確かに経済成長していた30~40年前のバブル景気に比べれば減退していますが、当時がうまくいきすぎで、今はその揺り戻しが来ている状態。
漠然としたことには楽観的に、具体的なことには悲観的に考えることが大事
そもそも歴史的に見ても日本が世界の中心にいたことはなく、日本は中国という超大国の横でビクビクしながら海に守られている、アジアの添え物的な存在。
人口が多く文化が独特なので、世界の人々に認知はされているというくらいです。
僕は、漠然としたことには楽観的に、具体的なことには悲観的に考えることが大事だと思っています。
人は大きな物事のネガティブな面を見るクセがあるので、それはできるだけやめたほうがいい。戦争や世界情勢など、国が抱えていることを個人に投影している人も多いかもしれませんが、大局に対して個人ができることはほぼありません。
できるのは、よい側面を見ること。曖昧でざっくりした将来の仕事やお金についても同じ。日々の仕事、自分の家計簿に直面したときに出てくる具体的な問題だけ考えればいいのではないでしょうか。
仕事なら日常業務でどう新しい価値を生み出していくか、お金なら自分が幸せに生きる経済的な最低ラインがどこなのか見極める。それが未来への不安を減らす、現実的で有効な手段だと思います。
将来は選挙ではなく、アルゴリズムで民主主義が自動化されるかも
世の中がよい方向に動いてもらいたいと言っても、どういう社会や国をつくりたいか、というビジョンがない人が多いと感じます。
「とにかく行動を」と一歩踏み出すのもいいですが、長い時間軸で「そもそも何を目的にしているのか?」「向かう方向は正しいのか?」という根本的なところを議論することが大切だと思います。
ここ20年程、民主主義の国はこぞって経済成長が低迷してきました。
それは、SNSでだれもが議論に参加できるようになり極端な発言をする人も増え、そこそこ正確な同じ情報をもとに議論する、民主主義の前提が崩れてしまったから。
そのため企業も国も、短期的な利益を追うことに手一杯になって、政治からも未来を見据える長期的な視野がなくなってしまった。
経済的にも、未来への投資、他国との貿易が伸び悩んでいます。
その流れをガラッと変えるために「民主主義を再設計する」くらい壮大な話をする人がいてもいいんじゃないでしょうか。
SNSやスマートウォッチによる個人の声で政治が変わる!?
個人的には、政治は、現在のように大量の政策を束ねて、ひとりの人、ひとつの政党にゆだねる“選挙”というスタイルではなく、もっと細かな声を拾う新しい方法が出てくると考えています。
日常生活の中のさまざまな行動や心身の状態を通じて自動的に意見を表明する仕組みができ、個々の政策の選択に反映できる、「アルゴリズムによる無選挙の民主主義」です。
今までもロビー活動で声を上げている人はいましたが、それ以外にも、SNSでのつぶやきが伝わったり、スマートウォッチで計測した血圧上昇で怒りを表現したり、ホルモンの乱れで不安を表現したり…。
机上の空論のように感じるかもしれませんが、投票率が下がりSNSの政治への影響が無視できない今、実際にすでにその傾向は始まっています。
孤独な中年男性でも、数十年を幸せにやり過ごしていく方法を探っていきたい
自分の30年後は… ごはん、そば、パンを究めていきたい(笑)。
お米の炊き方は奥が深い。そばとパンも、練り方しだいでその差は歴然。そんな自分の目の前の生活を突きつめるだけで、一生は終わっていくでしょう。
僕みたいに出世することもなく、友達がたくさんいるわけでもない、孤独な中年男性でも数十年を幸せにやり過ごしていく方法を探っていきたいです。
2022年Oggi10月号「私たちの未来予想図2022」より
取材・文/金子由佳 構成/スタッフ・オン
再構成/Oggi.jp
成田悠輔(なりた・ゆうすけ)
’85年生まれ。不登校気味の中学、高校時代を経て東京大学経済学部に。マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。コメンテーターとしても活躍。近著に『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SBクリエイティブ)。