「デマンド」の意味とは?
最近「デマンド」という言葉をよく聞くようになりました。意味を正しく知っていますか? 「使ったことはあるんだけど、実はよくわかってなくて…」という人も多いのではないでしょうか。今回は、初めて聞く人にもわかりやすく説明しましょう。
「デマンド」とは、「要求」「需要」の意味をもつ英語、「demand」が語源です。今、「デマンド」という場合、「こうあればいいのに」「こうなっていれば便利だ」という人の欲求を指しています。
「デマンド」を利用したサービスとは?
「デマンド」という言葉は身近な生活の中でも使われています。たとえば、「オンデマンドバス」というものを聞いたことはありませんか? 自治体の運営で狭いエリアを走るバスで、アプリケーションなどを利用して、乗車時間や乗車場所、目的地などを入力します。
すると、AI技術を用いて自動生成されたルートで運行され、複数の人を拾いながら、全員を目的地まで送り届けてくれるというサービスです。
従来の路線バスだと、時刻表どおりだと利用者によってはスケジュールに合わないこともありますし、実際には短い距離なのに適当な運行ルートがなく、乗り換えないと目的地に到達できないということもありますね。
そんな時「自分の都合に合わせてバスが走ってくれたらいいのに」「乗客にあわせて運行ルートが変更できれば便利だ」と思ったことはありませんか? それを実現しようとしているのが「オンデマンドバス」で、実際に福祉の分野や人口の少ないエリアなどで社会実験が行われています。
「デマンド」と「ニーズ」の違い
「デマンド」という言葉は、ビジネス、特にマーケティングの分野で近年注目されています。製品やサービスを供給する側の主張ではなく、顧客サイドの「こうなれば便利だ」「こうあればいいのに」という要求が注目されるようなったのですね。
こう説明すると「それってニーズじゃないの?」と疑問に思った人もいるのではないでしょうか。確かに「ニーズ」と「デマンド」は似通っており、混同しやすい概念です。
「ニーズ」と「デマンド」の違いは、顧客サイドの気持ちを表しているという点では似ていますが、その度合いが異なっています。つまり、「ニーズ」は「なくてはならないもの」であり、「デマンド」は「あったらよいもの」です。
医療現場を例にとると、利用者が困難なことを助けるサポートは利用者の「ニーズ」であり、利用者が自分でできることのなかで「こうなっているといいな」という思いは「デマンド」ということになります。
「ニーズ」と「デマンド」は両方あるものです。顧客サービスの満足度を考える場合、「ニーズ」は最優先すべき事項、「デマンド」は優先順位をつけて取り組む事項だといえます。
「オンデマンド」とは?
「デマンド」と似た言葉で、「オンデマンド」というものもあります。先ほど例に挙げたバスも「オンデマンドバス」でした。
「オンデマンド」とは、「需要に応じて」という意味で、利用者の要求に応じてサービスを提供する方式のこと。いわば「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」受け取れるサービスです。主に印刷やオンラインの動画配信、eラーニングサービスなどで採用されています。
たとえば、見たかったドラマを見逃してしまった場合、昔なら諦めるしかありませんでしたが、近年では動画配信サービスを使って、好きな時間に見ることができます。これが「オンデマンド」です。
ちなみに、動画をダウンロードして視聴するサービスは「オンデマンド」ではありません。利用者が見たいタイミングで、端末にデータが保存されないかたちで動画を提供するのが「オンデマンド」で、動画のデータをアップロードしておいて、利用者が好きな時にそれを自身の端末にダウンロードして視聴するのは「動画配信サービス」です。
各業界で使用される「デマンド」とは?
「デマンド」という視点は今、さまざまな業界で採用されています。医療の現場の「デマンド」と、電力業界の「デマンド」を見てみましょう。
医療業界
医療における「デマンド」は、患者さんの精神的、あるいは肉体的な要求です。「痛みが和らぐといい」とか、「病院に来るのがたいへんだから、家で診てもらえると助かる」といったものが「デマンド」だといえるでしょう。
医療本来の目的は、症状の改善。その目的をおろそかにして「デマンド」を満たそうとする危険性もありますので、医療現場においては「ニーズ」と「デマンド」の区別、そして優先順位の付け方には、他の業界よりも特に注意を払う必要がありそうです。
たとえば、リハビリテーションについて考えてみましょう。リハビリにおける「ニーズ」は機能回復です。「歩けるようになりたい」というのは「ニーズ」ですね。一方、「荷物を持って歩けるといい」という要望は「デマンド」です。
ここで「デマンド」と「ニーズ」を取り違えてしまうと、リハビリの専門性を放棄することとなり、プログラムが本来あるべき姿と異なるものになる可能性が出てきます。「ニーズ」と「デマンド」の精査が必要ですね。
電力業界
電力業界では、契約電力を決める時に「デマンド値」という数値を使います。「デマンド値」を初めて聞いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。「デマンド値」とは、30分で使用した電力の平均値のことで「需要電力」と呼ぶこともあります。
「デマンド値」は、継続して計測されており、1日に48回の「デマンド値」が記録されています。電気料金の請求書を見ると「最大需要電力」が記載されていますが、この数値は1ヶ月間で最も高い「デマンド値」です。契約電力が500kW以上の場合、「最大需要電力」が契約電力を超えると違約金が発生します。
「最大需要電力」は、1年間の電気料金の基本料金を決める数値です。直近の「最大需要電力」を1年間超えなければ、電気料金を下げられる可能性が出てきます。これを「デマンド制御」といい、節電をしたい人にはオススメの手法です。
IT業界
インターネットは「デマンド」に対応しやすいメディアです。ITシステムを構築する場合に、必要な機能を随時利用できる環境が、「オンデマンド・コンピューディング」と呼ばれます。従来のパッケージング型のシステムとは異なり、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」利用できるので、即時性や柔軟性は格段にアップしますね。
最後に
「デマンド」の意味が理解できましたか? 「デマンド」を探ることは、新しいマーケットを発見したり、新商品のアイデアの源泉になったりしそうです。一方で、「ニーズ」との区別は重要。そこを取り違えてしまうと、本来最も優先して取り組むべき事項を放置することになりかねません。注意してくださいね。
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