時代の変化の壁「これから求められるスキルって? わからなくて不安」
→心配するだけ無駄。変化に柔軟であること、これに尽きる。
紀元前の中国。マンガ「キングダム」が描く時代よりさらに遡ること数世紀前。杞という国がありました。その杞の国に住む人が「天が落ちてきたらどうしよう」と真剣に悩んで、不眠症になってしまった、というくだりで始まる故事があります。
教科書でも取り扱われるのでご存知の人も多いでしょう。中国古典の「列子」の一節で、「杞憂」とも「杞人憂天」ともいわれますが、「心配しても仕方がないことで悩むこと」の意味です。もちろん、伝わりやすくデフォルメしているとは思いますが、ちょっと冗談みたいな話ですよね。
「これから求められるスキルについて悩んでいる」と聞いて、私が瞬時に思い浮かべたのは、天が落ちてくるのではないかと悩み苦しむ、杞の人のイメージです。
「お客様の期待に応えたい」「そのためにこのスキルを付けたいが、どうするのが良いか」という悩みならわかります。しかし、目的もないのに手段を探しはじめてるのは、無駄なことです。当然、わかるはずもないことがわからない、と悩むのは時間がもったいないですよね。これでは文字通り「杞憂」です。
私が社会人になった頃、電子メールやインターネットが、これからビジネスで日常利用されるかどうかが真剣に議論されていましたし、一人一台のパソコンが本当に必要なのかどうかという話題もありました。もっと昔を辿れば、渋沢栄一の「論語と算盤」では、アメリカ人が「スケジュールを時間単位で管理」していることに渋沢が心底おどろいている記述があります。
今では笑っちゃうようなことですよね。しかしこれ、他人事ではありません。
少し前に「データをクラウド上に置いても本当に大丈夫か?」「AIが人間を駆逐するのではないか?」という議論がありました。我々真剣でした。でも、10年たったら「そんなこと言っていたんだね」と微笑みとともに語られる話題となっているはずです。杞の人の憂を笑うのに似ています。
当時これらの「新しいもの」への態度はいくつかに分類されました。
1. 不安に駆られて大騒ぎして動揺したり煽ったりする
2. 関係ない、と軽視する
3. 興味を持ち、研究する
その後の社会の変化をリードしたのは、3番目の態度をとった人たちです。正確な情報をできるだけ集め、その道の専門家の話を聞き、それを自分の領域に当てはめて考えて、キーメッセージを整理したのではないでしょうか。
キーメッセージ、とは「要するにこういうこと」といった形で、自分が腹落ちした状態を言語化したものです。
不安に駆られた人や、「あんなものは大したことはない」「関係ない」などと軽視した人にはチャンスは訪れませんでした。これらの「新しいものへの態度」に、これからのスキルについて考え、悩む人へのヒントが隠されていると思うのです。
すなわち、周りで起きている変化にアンテナを張り続け、それを不必要に恐れすぎず、むしろ好奇心をもって近づいて探索してみる。間違っても軽視しすぎない、ということに尽きます。
『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』発売中!
今回のほかにも、河野英太郎さん著『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』では、さまざまな「壁」をピックアップして、乗り越え方のコツをお届けしています。気になった方はチェックしてみてください。
『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』河野英太郎著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
著者 河野英太郎
1973年岐阜県生まれ。株式会社アイデミー取締役執行役員COO
株式会社Eight Arrows代表取締役。グロービス経営大学院客員准教授。
東京大学文学部卒業。同大学水泳部主将。グロービス経営大学院修了(MBA)。
電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までの間、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長などを歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員COOを務める。
著書に『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』『99%の人がしていないたった1%のリーダーのコツ』『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』(以上、ディスカヴァー)、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』(ダイヤモンド社)、『VUCA時代の仕事のキホン』(PHP研究所)、『現代語訳 学問のすすめ』(SBクリエイティブ)などがある。