「捨て印」とは?
「捨て印」とは、文書の訂正のために、あらかじめ押しておくもの。契約書などの文書で間違いがあった場合、通常は、当事者が訂正印を押して修正をします。しかし、文書が自分の手元にない時はわざわざハンコを押しに出向かなければならなかったり、手元にある場合でも相手方にハンコをもらいに行かなければならなかったりすることも。
その場合、ちょっとした脱字の場合でもかなりの手間がかかってしまいます。そうした際に、「捨て印」を事前に押しておくことで、本人が出向かずとも、他の人が文書を訂正できるのです。
基本的に、「捨て印」による訂正は、誤字脱字などの明らかに間違っている箇所のみに使い、契約内容に関わる重要な箇所に関しては使いません。しかし、「捨て印」がどこまでの範囲を訂正するものなのかは、法律で決まっているわけではないのです。
「捨て印」を押すことは、「自分の了承なしに、訂正しても構わない」という意思表示になりますから、意図しない内容で文書を書き換えられてしまうリスクも潜んでいます。あらためて、「捨て印」のメリット、デメリットをまとめると下記のとおり。
■メリット
・手元に文書がない場合でも、相手方に対応してもらうことで、訂正ができる。
・手元に文書がある場合でも、相手方にわざわざ「訂正印」をもらうことなく、訂正ができる。
■デメリット
・文書の内容を勝手に書き換えられてしまうおそれがある。
「捨て印」の押し方
続いて、「捨て印」の押し方についても簡単に紹介しましょう。「捨て印」は、文書の上のほうにある余白に押します。文書によっては、あらかじめ「捨て印」用の欄が記載されていることもあるので、その場合はそこに「捨て印」を押しましょう。契約書が複数枚ある場合は、すべてのページに「捨て印」を押し、押す場所も統一します。契約書に2名以上の署名者がいる場合は、全員「捨て印」を押しましょう。
なお、契約書に押したハンコと違うものを使用した場合は、「捨て印」として使えません。ですので、「捨て印」は、契約書に押したハンコと同じものを使うようにしてください。そのため、契約書と同じハンコであれば、実印でも認印でも使用できます。シャチハタは、そもそも「捨て印」が必要な正式な文書等には使用できないため、「捨て印」としても使用できません。口座振替など銀行に提出する書類に「捨て印」を押す場合は、銀行印と同じものを使用しましょう。
最近では、電子契約書を使う企業も増えているため、「訂正印」および「捨て印」が必要ない場合も。そもそも電子契約書は、一度作成したら内容の修正や訂正ができないため、訂正する際には「覚書」をつくります。日本全体で、デジタル化が進められているため、今後は「捨て印」を使用する機会が減っていくかもしれませんね。
失敗したらどうする?
「捨て印」を押した時に、にじんでしまったり、一部がかけてしまったり、逆さに押してしまったりなど、印影が認識できないほど失敗をしてしまった場合はどうしたらいいのでしょうか。その際の対応は簡単で、失敗した「捨て印」の横に、もう一度しっかり「捨て印」を押すだけです。なお、失敗したからといって修正テープを使ったり、失敗した「捨て印」の上に重ねるようにして押し直したりするはやめましょう。
「捨て印」は危険?
「捨て印」は、わざわざ訂正印を押さなくてもいいので、とても便利なものです。しかし、見方を変えると、自分の意図しない内容で訂正されてしまったり、知らぬ間に、第三者によって内容を書き換えられてしまったりなどのリスクも。そのため、「捨て印」は、重要な契約書には押さないほうが無難です。そもそも、文書を訂正する場合には、「訂正印」を押せばいいので、「捨て印」は押す必要はありません。
特に、注意したいのは「白紙委任状」という文書。「白紙委任状」とは、委任内容や、代理人の記入欄が空白の状態のものです。委任の内容が決まっていない場合に使用する文書ですが、なにも書かれていない文書であるため、第三者によって自由に記入できるのが怖いところ。そのため、「白紙委任状」には、「捨て印」は押さないようにしてください。
「白紙委任状」ではなく、委任内容や代理人が明記されている通常の委任状であっても、勝手に書き換えられてしまうリスクは変わりませんので、できれば押さないほうが賢明です。手間になりますが、訂正があった場合には、自ら出向いて訂正をしたほうがいいでしょう。
「捨て印」を求められた時の注意点
「白紙委任状」には、「捨て印」は押さないほうがいいと説明しましたが、それ以外の文書でどうしても「捨て印」が必要になった場合、注意点を紹介します。
「捨て印」を押す場合には、まずどのような範囲で使われる「捨て印」なのか確認をしておきましょう。誤字脱字程度の小さなものであれば使用可、それ以上のものであれば「捨て印」は使用不可など、あらかじめすり合わせしておくと安心です。また、「捨て印」であることを明記しておくことも大切。印影の上などに、「捨て印」と書いておくことで、悪用されるリスクを防げます。
「捨て印」を実際に押したら、その文書のコピーをもらっておきましょう。コピーがあれば、もし文書が悪用された場合にも、有効な証拠として提示することができます。
すでに述べましたが、文書に誤りがあった場合には、「訂正印」を押しに出向けばいいので、「捨て印」は必ずしも必要ではありません。それでも「捨て印」を押す場合には、ここで紹介した注意点を参考に、対応するようにしてください。
「捨て印」を使った訂正方法
「捨て印」を使って文書を訂正する時には、「訂正印」と同じ方法を用います。まず、訂正したい箇所に、二十線を引き、その二十線の近くに、正しい内容を記入しましょう。次に、「捨て印」から近い場所に、二十線で消した文字数と、新たに記入した文字数を「削除○字 加入△字」もしくは、「○文字削除 ○文字追加」と書きます。
最後に
契約書などの文書に訂正が必要になった場合、わざわざ出向くことなく、訂正ができる「捨て印」。もし「捨て印」を押す場面があったら、こちらの記事で紹介した注意点を参考にして、不要なトラブルを防ぐようにしましょう。
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