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2021.10.06

医師が解説するブレイク・スルー感染。ウイルス目線で考えると【国立がん研究センター 増富健吉】

ブレイク・スルー感染について解説します。ウイルス目線で考えてみるとわかりやすいかもしれません。国立がん研究センター研究所でがん幹細胞研究分野分野長をつとめる増富先生の健康コラム。

国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉

ブレイク・スルー感染とは?

新型コロナウイルスの予防接種に関連して、最近よく「ブレイクスルー感染」という言葉を耳にします。おそらく、欧米で最初に言い出された言葉なのだと思いますが、「ワクチン接種を受けたのに、新型コロナウイルスに感染してしまう」ことを意味しています。

まずは言葉の意味から説明しましょう。正しくは「ブレイクスルー」ではなく「ブレイク・スルー」です。要は“break through”。直訳すると「突破」です。日本語に直訳すると「突破感染」という意味になります。

この「突破」という意味ですが、医科学の世界で“break through”というとイメージ的には「これまでの困難を一気に打ち破り前進する」というイメージです。では、新型コロナウイルスにとってこのイメージでの「突破」とはどういう意味なのでしょうか? 少し新型コロナウイルスになった気持ちで考えてみることにしましょう。

新型コロナウイルスのブレイク・スルー感染

(c)Shutterstock.com

新型コロナウイルスは、眼や鼻、喉、気管の粘膜細胞から体内に入り込みます。ウイルスは細胞に入り込むためのを持っているのですが、この鍵はどの細胞でも開けることができるわけではなく、一致する鍵穴を持つ細胞の鍵しか解錠できません。

眼や鼻、喉、気管の粘膜細胞はこの鍵穴を多く持つことから、こうした場所の細胞で最初の感染が成立します。細胞内に上手く入り込んだウイルスは、自分のコピーを細胞内で作り、細胞から外に出て血液の海をフラフラと泳ぎながら全身くまなく移動して次に同じ鍵穴を持つ細胞を探しさらなるコピー拡大を狙うわけです。

しかしながら、ワクチンを打った人の血液の海には「抗体」がいて、この抗体にはウイルスの持つ鍵に合う形をした「鍵穴のダミー」が仕掛けられています。アホなウイルスとしてはこのダミーに引っかかってしまうわけです。これまで以上にウイルスにとっては、感染してコピーを増やす事に困難が立ちはだかり、さらなる労力がいるのです。

ご想像の通り、次の感染細胞を探し出した頃には、疲れてヘトヘトになりもう元気がなくなったウイルスが多くなるわけです。こうしたイメージが、新型コロナウイルスワクチンの効果なのですが、稀に、ワクチンを打っている人でも、「困難を克服して上手く感染するブレイク・スルー感染」が起こります。

しかし、いくら上手くブレイク・スルー感染ができても、ウイルスとて体力を使い果たし疲弊していますので、はっきりした症状を引き起こしたり、重症化するほどに体内で増殖する力はもう残っていません。ですので、先に述べた、「困難を一気に打ち破り前進する」というイメージよりも「ヘトヘトになりながら何とか感染だけして死に絶える」というイメージが正しいように思います。個人的には「ブレイク・スルー感染」というかっこいいものではなく、「レイム・ダック感染」と表現するのがしっくりときます。

(c)Shutterstock.com

それにしても、ファイザーとモデルナの新型コロナウイルスのワクチンは人類に多大な恩恵をもたらしたのですから、今週発表が続く今年のノーベル賞が楽しみです。

医師のワクチン接種 体験レポはこちら

TOP画像/(c)Shutterstock.com

国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉

1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ

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