「正論」だからこそ、伝える時に注意が必要
できれば相手に嫌われたくない。これは誰もが思っていることでしょう。
しかし、時には、どうしても相手の誤りを指摘しなければならない場面があります。そうした時に、最も気をつけたいのが「正論」の伝え方です。
正論ほど伝え方が難しく、使い方によっては相手を傷つけてしまう恐れのあるものはありません。
時に正しすぎる「正論」が、相手の逃げ場を塞いで追い込んでしまうこともあります。「正論」だからこそ、真正面から言わない配慮が必要なのです。
相手への愛が、嘘を方便にする
以前、私のところに、1人の後輩が相談にやってきました。
大学を出て大手企業に就職した彼は、職場でどんなに一生懸命働いても、周囲がそれを認めてくれず、浮いてしまうことに悩んでいました。
話を聞くと、彼は誰よりも早く出勤し、みんなが来る前にコピー機のスイッチを入れるなど様々な雑用をこなしています。続いて、メールチェックなど自分の用事を済ませ、先輩たちが出社してきた頃には準備万端でスタンバイしています。
日中は頼まれた仕事を積極的に引き受け、自分のアイデアもどんどん出している。聞く限りでは完璧です。しかし、周囲になかなか認めてもらえない。
ただ、私は、話を聞いているだけで疲れてきました。
なぜなら、彼のピントのズレたがんばり、つまり空回りしてる様子が手に取るようにわかったからです。
こうしたことは、仕事を始めたばかりの人にはよくあることです。彼がよしとしてやっていることも、周囲から見ると押しつけがましく迷惑になっていることがあるのです。
そこで、私は彼に言いました。
「俺にも、まったく同じような経験があるよ。その時、ある先輩が言ってくれたんだけどさ…」
実際には、そんな先輩は存在しません。しかし存在しなくても、架空の話でいいのです。
大事なのは、相手を傷つけないように正論を伝えること。正論をストレートに言ってしまうと、彼ががんばっている分、深く傷つけてしまいます。
そこで、私の失敗談と先輩という架空の人物とのやり取りを話すことで、彼は自分への非難とは取らずに、素直に耳を傾けてくれました。
相手と自分を同じ目線に置いて話す
正論を正論のまま言うことは、「あなたは間違っていますよ」と真正面から相手を斬りつけるようなもの。
相手も当然身構えて、臨戦態勢を取ってきます。
そうではなくて、
「私も同じ間違いをしたことがあるのですが…」
「私も昔上司から怒られたのですが…」
と、相手と同じ目線に自分を置き、相手に寄り添いながら共感を得るような伝え方をしていく。
こうした繊細な配慮をできる人が、人間関係がスムーズにいく人です。
私自身、過ちの指摘を真正面から受けなかったことで、素直に話を聞けた経験が何度もあります。
そして後から「あの人は、僕を傷つけない言い方をしてくれていたんだ」と気づいたことがよくありました。
どんな人にもその人の立場があり、その人の気持ちがあり、言い分があります。
そこを理解して相手の立場をできる限り守っていきながら、その人がわかるような伝え方をする。
あなたの周りのコミュニケーション上手な人を参考にしながら、チャレンジしてみてください。
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永松 茂久(ながまつ・しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN代表取締役。大分県中津市生まれ。「一流の人材を集めるのではなく、今いる人間を一流にする」というコンセプトのユニークな人材育成法には定評があり、全国で数多くの講演、セミナーを実施。「人のあり方」を伝えるニューリーダーとして、多くの若者から圧倒的な支持を得ており、講演の累積動員数は延べ40万人にのぼる。2020年1番売れた会話の本『人は話し方が9割』(すばる舎)をはじめ、著書多数。