話し方は申し分ないと思っているのになぜ空回りをする?
今でこそ、話し方について書かせていただいている私ですが、かつては残念な話し方をして、落とし穴にはまっていました。
以前の私はどちらかというと、コミュニケーションや話し方が得意なほうではありませんでした(自分では得意と思っていましたが)。
それは当然、人間関係にも影響していたのです。
私は26歳の時に、自分自身もどうなるかわからないという無謀な状況の中で、ビジネスをスタート。3坪の行商から始まった小さなたこ焼き屋でしたが、無事、創業当初の苦境を乗り越え、起業から2年経った頃には、より規模の大きな飲食店へと事業を拡大していました。
ただ、現実は約20人のスタッフを抱え、現場で悪戦苦闘の日々。「いかに利益を出すか?」だけを考え、社内強化のために「報、連、相」の徹底や言葉遣いなど、表面的なところばかりを追いかけていました。
その結果、スタッフたちとうまくコミュニケーションが取れず、チームはどんどん衰退していくばかり。スタッフたちと思うように心を通わせられず、自分の情熱が空回りしているように感じていました。
今思えば、私の話し方が原因だったことは間違いないでしょう。
なぜなら、「なぜ俺の話を理解してくれないんだ?」と心の中でいつも周りばかりを責めていたからです。
人がどんどん離れていくにつれ、人づき合いの仕方を、根っこから変えなくてはいけないと痛感するようになりました。いや、そう痛感せざるを得なかったのです。
「我」は話し方に現れていた
今振り返ると、当時の私は言いたいことを言えないタイプというより、自分の言いたいことしか言わない、言いたくないタイプだったと思います。
いつも自分の話が中心で、誰かが話している時は、「いつ終わるかな」と自分の出番で話すことばかりを考えている。
口論大歓迎。相手を論破してなんぼのスタイル重視。議論で負けそうになっても、自分の意見を力ずくで押し通す。気に入らない人がいたら、自分の言い分を聞いてくれる人をつかまえてその相手を批判する…。
最悪です。今、身近にこんな人がいたら、私はすぐに逃げ出します(笑)。しかし、当時の私はそれが自分のスタイルで、正しいんだと信じ込んでいました。
いわば典型的な「我」の塊。そんな自分でした。
「聞き役」に回ると、急に業績が伸び始めた
たいしてお金もない。外に勉強に行くゆとりもない。
そんな時、真っ先に変えたのが、自分自身の話し方のスタイルです。
「まず、聞こう」
相手の反応や気持ちにも心を配りながら、
「言葉を選んで話そう」
そう決意しました。
もちろんすぐには根づきませんでしたが、トライ&エラーを繰り返しながら、少しずつ聞き方、言い方を変えていきました。
相手の話を聞く。笑顔で共感する…。効果はてき面でした。
数ヶ月も経たないうちに、社内の風通しが良くなり、業績がどんどん伸び始めていきました。お店のスタッフは、格段に話の飲み込みが早くなり、自分で考えて、自ら動いてくれるようになりました。
何より嬉しかったのは、彼らとの間に一体感が生まれたことでした。
以前は「俺が、俺が」と自分1人で突っ走っていたものが、明らかに「俺たちが」に社内の空気が変わったのです。それ以外にも、年上の有力者にかわいがられて、貴重な人脈につなげてもらえたり、不利と見えた交渉事がうまく運んだりと、色々なラッキーやメリットに恵まれるようになりました。
私の場合、運良く様々な先輩に出会え、「相手を理解することからすべては始まる。まずは相手の話をよく聞くこと」と何度も何度も教えていただけたおかげで、なんとかここまでたどり着くことができました。
次回は、聞き上手の達人がやっている「3つの表情」についてお届けしようと思います。
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永松茂久(ながまつ・しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN代表取締役。大分県中津市生まれ。「一流の人材を集めるのではなく、今いる人間を一流にする」というコンセプトのユニークな人材育成法には定評があり、全国で数多くの講演、セミナーを実施。「人のあり方」を伝えるニューリーダーとして、多くの若者から圧倒的な支持を得ており、講演の累積動員数は延べ40万人にのぼる。2020年1番売れた会話の本『人は話し方が9割』(すばる舎)をはじめ、著書多数。