子宮頸がんとワクチンについて
5月に入り、日本での新型コロナウイルスの感染拡大はおさまり、緊急事態宣言も解除となった。新型コロナウイルスの感染拡大とともに、同じく拡がった言葉に「新型コロナウイルスに対するワクチンへの期待」がある。「ワクチン」という言葉が忘れ去られる前に、Oggi世代の女性たちに是非ともお伝えしておきたい大切なワクチンのお話をしたいと思う。
少しややこしい話をさせていただこう。病気とは、その病気になるまでは、だれも病気になるとは思っていないものだ(ややこしいでしょう?)。「まさか自分がなるなんて!」という「病気」があるのだ。「まさか自分がなるなんて」という「病気」を効率的に予防できるのが「ワクチン」と言ってもよい。ただし、ワクチンはいまのところ感染症に対してのみ有効な手立てなのだ。
皆さんは新型コロナウイルスに対するワクチン開発を大いに期待していますよね。既にあるワクチンで「まさか自分がなるなんて!」というような病気が予防できたら素晴らしいと思いませんか?
◆子宮頸がん予防ワクチン接種のすすめ
子宮頸がんという病気をご存じだろうか? この病気は、パピローマウイルスというウイルスにより引き起こされる病気です。パピローマウイルスは、基本的には「いぼ」を引き起こすウイルス。「いぼ」って盛り上がっていますよね。そう「いぼ」は「良性の腫瘍(できもの)」なのです。
しかし、パピローマウイルスのタイプとか感染する場所によっては、「悪性の腫瘍」すなわち「がん」を引き起こすのです。パピローマウイルスの一部のタイプのものが子宮(正確には子宮頸部:子宮の入り口)に感染して引き起こされるのが子宮頸がん。このパピローマウイルスに対する予防注射、すなわち、「子宮頸がん予防ワクチン」が存在するのをご存じでしょうか?
日本では、2013年に定期接種として、積極的なワクチン接種を国が認めたのだが(すなわち、公的資金で無料で受けることができる)、残念ながら「ワクチン」による副反応が大きく取りざたされて、直ぐに定期接種が中止となった。
その後、国は、定期接種として公費でのワクチン接種を再開はしたものの、「積極的に受けてください」ということは依然として差し控えているのが現状だ。海外での接種率は70%を超える国がある一方、日本での接種率は0.5%程度らしい。このままでは、積極的に予防接種を受けた場合に比べると、日本の現在13歳から26歳にあたる女性の実に2万人以上も多くの女性が子宮頸がんに罹患し、5000人以上も多くの女性が子宮頸がんでなくなるという試算もあるくらいだ。
少し堅い話になってしまったが、もう少し、皆さんの実生活に役立つような書き方をしようと思う。Oggi.jpの読者層の多くは、2013年以前に生まれた女性ではないかと思います。さらに言えば2013年時点で15歳(高校生)以上になっていた女性は、子宮頸ガン予防ワクチンの「定期接種」の対象になっていなかったのです。そして、重要なことは、この予防注射はできるだけ、セクシャルデビュー前に接種するべき予防注射だということ。
それでは「現在、23歳以上ですでに性交渉の経験のある女性はどうすべきか?」
私の個人的見解と前置きして、「子宮頸ガン予防ワクチンを、可能な限り若いうちに、自費でも、受けるべきだと思います」(本当は国がやるべきですが)。
新型コロナウイルスのワクチン開発が世界的に注目されるこの機運の時期に、「まさか自分がなるなんて!」という「病気」の予防について真剣に考えてみてほしい。
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国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長 増富健吉
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年 医学博士。
2001年-2007年 ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。
専門は、分子腫瘍学、RNA生物学および内科学。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。
専門分野:分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。
趣味:筋トレ