明確な「病気」ではないゆえ、改善方法が見つからず思い悩みがち
大きな病気ではないけれど、不快な症状に悩まされている… そんなことはありませんか? 特に女性は性周期によってホルモンバランスが大きく変化するため、様々な不調を引き起こしやすいもの。中でも、手足の冷えやむくみは多くの方が悩まされたことのある症状ではないでしょうか?
【目次】
・冷え性に効く漢方って?
・むくみに効く漢方って?
冷え性に効く漢方って?
大手医療機器メーカーの調査によれば、女性の半数近くの方が日常的に身体の冷えを感じているとのこと。冷え性は女性にとってとても身近な症状の一つです。冷え性によいとさえる生活改善や食べ物、飲み物などは数多くありますが、どんな対策をしても改善しないという方も少なくありません。
では、冷え性と漢方薬について詳しく見てみましょう。
そもそもなぜ冷え性になるの?
冷え性の根本的な原因は、血行の悪化。血液は私たちの体内に酸素や栄養素を運ぶだけでなく、筋肉などで作り出された「熱」を送り届ける大切な役目を果たします。このため、血行が悪くなると体内に熱が行き渡らなくなって冷えを感じやすくなるのです。
特に、手足の先端をめぐる血管は元々細く、収縮しやすいため血行が悪くなりがち。冷えの多くが手足に生じるのはこのためです。
血行が悪くなる原因は様々ありますが、女性ではホルモンバランスの変化やストレスなどによる自律神経の乱れが大きく関与しており、交感神経が過剰に働いてしまうことで血管が収縮することが大きな要因と考えられています。
また、女性は男性よりも熱を作り出す筋肉が少ないため、冷えを感じやすいことも原因の一つです。
漢方薬は冷えに効くの?
漢方薬は、古来中国から伝わる漢方医学で生み出された薬です。現代の西洋医学で用いられる薬と異なり、症状そのものをピンポイントで改善するのではなく、症状の原因となる「体質」を改善することに重きを置いた薬です。
漢方医学の世界で冷え性は、「体のエネルギー不足による熱の産生量の低下」、「血行の悪さ」、「体内の水分量の多さ」、「日常的なストレス」が主な原因と考えられています。そのため、これらの体質を改善する漢方薬を服用すれば、冷え性の改善につながると考えられています。
高齢者では動脈硬化などの器質的な原因によって冷えが引き起こされるケースもありますが、多くの女性が悩む冷えは体質によるものがほとんど。このため、体質を改善することで症状の改善を導くという漢方薬は、冷え症を根本的に治してくれる可能性もあるのです。
冷え性によい漢方薬とは?
では、具体的にどのような漢方薬が冷え性によいのでしょうか? ここではおすすめの漢方薬をいくつかご紹介します。
体のエネルギー不足による人は…
人参養栄湯(にんじんようえいとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
血行の悪さによる人は…
加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
体内に水分が溜まりがちな方は…
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
ストレスが溜まりがちな方は…
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、抑肝散(よくかんさん)、四逆散(しぎゃくさん)、香蘇散(こうそさん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
むくみに効く漢方って?
むくみは女性によく見られる症状の一つですが、老けた印象や太った印象を与えやすくなるためできれば避けたい症状でもあります。それだけでなく、むくみはひどくなると心臓などの大切な臓器に負担をかけ、息切れや動悸などの症状が引き起こすことも…。
むくみも冷え性と同様に様々な対策法や対策グッズがありますが、どれもいまいち効果がないという方も多いでしょう。
では、むくみと漢方薬の関係について詳しく見てみましょう。
むくみはなぜ起こる?
私たちの身体の60%は水分でできており、その多くは血管やリンパ管、各細胞の中に含まれています。しかし、体内の水分バランスが乱れるとこれらに含まれる水分が細胞と細胞の間に漏れ出すことも…。これがむくみの根本的な原因です。
むくみは、水分や塩分の摂り過ぎ、運動不足や睡眠不足など全般的な日常生活の乱れによって引き起こされることが多いとされています。しかし、女性は生理前に分泌量が増える「プロゲステロン」によってむくみが引き起こされることも。というのも、プロゲステロンは体内に水分を蓄える作用があり、むくみを引き起こりやすくなるためです。
生理前に顔がむくみやすい… といった悩みのある方は、ホルモンバランスの変化によるものと考えましょう。
また、女性にありがちなサイズが合っていないきつめの下着や衣類も血行を悪化させ、下半身を中心に水分が溜まりやすくなります。矯正下着など締め付けの強いものを着用している方は注意が必要です。
そのほか、むくみは30代以降の女性に多く見られる橋本病(甲状腺機能低下症)や貧血などの病気によって引き起こされることも少なくありません。
漢方薬はむくみに効くの?
漢方医学の世界では、むくみは「水分バランスの乱れ」や「血の巡りの悪さ」などが原因で引き起こされていると考えられています。
また、上でご紹介した冷え性と同時に起こることが多いとされ、体内に溜まった水分が冷えを引き起こし、冷えがさらに血の巡りを悪くしてむくみを引き起こす… という悪循環に陥るとのこと。
漢方薬ではこれらの体質を改善することで、むくみを解消してくれる効果が期待できます。
むくみによい漢方薬とは?
では、具体的にどのような漢方薬がむくみに効くのでしょうか? ここではむくみにおすすめの漢方薬をいくつかご紹介します。
口が乾いたり、尿量が少ない人(体内に水分が溜まりがちの人)には…
五苓散(ごれいさん)、柴苓湯(さいれいとう)
血の巡りが悪い人には…
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
疲れやすく、汗をかきやすい人は…
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)、六味丸(ろくみがん)
なお、天然の生薬由来の漢方薬は比較的副作用は少ないと言われています。しかし、漢方薬も「薬」であることに変わりはありません。少なからず、皮疹やかゆみ、吐き気といった一時的な副作用が現れることがあります。服用後に体調の異常を感じたときは服用を中止しましょう。
また、「甘草」と呼ばれる成分の含まれる漢方薬は長期間服用を続けると高血圧やむくみなどの副作用を起こすことがあります。「甘草」が含まれる漢方薬を服用する場合は、定期的な血圧チェックも忘れてはなりません。
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成田亜希子先生
一般内科医。プライベートでは二児の母。
保健所勤務経験もあり、医療行政や母子保健、感染症に詳しい。
国立医療科学院などでの研修も積む。
日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会所属。