便秘は、肌荒れや痔といった症状を引き起こすことも
厚生労働省が実施する「国民生活基礎調査」(2016年)によれば、女性の多くが便秘に悩んでいるとのこと。特に20代から便秘になる方が多く、年齢を重ねるごとにその数が増していくことが分かりました。
便秘は決して珍しい病気ではなく、ひどい場合には腹痛や腹部膨満感といったお腹に関連する症状のほかにも女性にとって大敵となる肌荒れや痔といった症状を引き起こすことも少なくありません。便秘はできれば避けたいものですよね。
【目次】
・そもそも漢方薬と便秘薬はどう違う?
・便秘におすすめの漢方って?
・【漢方 便秘】ツムラってよく聞くけど、有名?
そもそも漢方薬と便秘薬はどう違う?
便秘に悩む女性は思いのほか多いもの。巷には便秘を解消するための方法がさまざま広まっていますね。それらの中には医学的に信憑性の低い方法も多くあり、誤った対策方法を続けていると更なる悪化を招くことも少なくありません。
便秘はありふれた症状の一つですが、「便秘症」というれっきとした病気でもあります。時には薬の服用など医学的な力をかりて、予防・改善することも大切です。そんなときにおすすめなのは副作用が少なく、自然な力で排便を促す「漢方薬」です。
では、便秘と漢方薬の関係について詳しく見てみましょう。
どんな時に「薬」に頼ればいい?
便秘とは、医学的に「本来体外へ排出されるべき便を十分量かつ快適に排出できない状態」のことを指します。つまり毎日排便があったとしても、少量しか出ず排便後もお腹が張っている、便が固いため強くいきみすぎてお尻が痛い… こんな症状も「便秘」の一種と考えるのです。
日本消化器病学会による便秘症の診断基準には、「自然な排便回数が週に3回未満」であること、「排便の4回に1回以上は強くいきむ必要がある、便が固い、便を出し切っていない感じがする、肛門の閉塞感がある」ことなどの項目が挙げられています。
しかし、便の出方や排便に伴う苦痛などの感じ方は人によって異なり、あくまで主観的な部分が多いもの。そのため、便秘の診断基準には様々なものがあり、基準に当てはまっていなくても便秘であることも少なくありません。
「排便に関して何らかのトラブルがあると感じたときは便秘であると考え、まずは食事や水分量に注意したり、運動習慣を身に付けるなど生活習慣を見直してみましょう。それでもトラブルが改善しない場合は、薬の出番です。
便秘薬と漢方薬の違い
便秘を改善・予防する薬として使用されることが多いのはいわゆる「便秘薬」と呼ばれるタイプの薬です。「漢方薬」の中にも便秘に効くものはありますが、一般的に「便秘薬」と呼ばれるものとは作用の仕組みなどが大きく異なります。
一般的な「便秘薬」と便秘に効く「漢方薬」の違いを見てみましょう。
便秘薬
「便秘薬」とは正しくは「下剤」と呼ばれる薬のことで、腸内に溜まった便の排出を促す作用を持つ薬のことです。現在、市販薬・処方薬を含めて日本で使用されている便秘薬は大きく分けて6つのタイプがあります。
使用される頻度が高いのは、大腸内での水分吸収を抑制して便を柔らかくする「浸透圧性下剤」と大腸を刺激して便の排出運動を促す「刺激性下剤」と呼ばれるタイプのものです。そのほかにも、大腸内で膨らんで刺激を引き起こす「膨張性下剤」、大腸自体の運動を促して排便につなげる「腸管蠕動促進剤」、直腸内に注入することで直接的な刺激を与える「浣腸剤」なども古くから便秘治療に使用されています。
また、小腸での消化酵素を含む腸液の分泌を促して便を柔らかくする「クロライドチャンネル」と呼ばれる新しいタイプの便秘薬も広く使用されるようになってきました。
このように、一般的に「便秘薬」と呼ばれる薬は、便を生成する腸に直接働きかけて排便を促す作用を持つのが共通する特徴です。
便秘に効く漢方薬
一方、漢方薬は腸に直接的に働きかける便秘薬とは異なり、便秘の原因となる体質を改善し、自然な排便習慣につなげることに重きを置いた薬です。
漢方医学の世界では、便秘は水の不足、ストレスや疲れ、緊張による自律神経などの乱れ、血行不良という3つの要因によって便秘が引き起こされると考えられています。このため、漢方薬で便秘の改善・予防を図るときは、個々人によって異なる便秘の原因を解決に導く作用が期待できるタイプのものが選択されるのです。
また、漢方薬の即効性は高くありません。一般的な便秘薬は服用すると半日ほどで便意を感じることがほとんどです。下剤作用のある大黄や麻子仁などの生薬が含まれる漢方薬漢方薬はある程度即効性があるとされていますが、漢方薬は基本的に「体質の改善」を目的とした薬。
効果が現れるまでの時間には個人差があり、すぐに効果を実感できないことも少なくありません。また、便秘の原因と漢方薬の効能にズレがある場合は、長く服用を続けても十分な効果を得られないこともあるでしょう。
便秘におすすめの漢方って?
では、便秘に効くとされる漢方薬にはどのようなものがあるのでしょうか? ここでは便秘におすすめの漢方薬をいくつかご紹介します。
ツライ便秘。できるだけ早く効果を実感したい人には…
大黄や麻子仁など下剤効果のある生薬を含んだ漢方薬がおすすめ。
具体的には、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、潤腸湯(じゅんちょうとう)などが挙げられます。
特に便秘以外の症状がないときは大黄甘草湯、疲れなどが溜まって体力が低下しているようなときは桂枝加芍薬大黄湯が使いやすいでしょう。
便が固くて出てこないという人には…
便の硬さは水分不足によるもの。このようなタイプの便秘には、体内の水分量を潤す効果が期待できる麻子仁丸(ましにんがん)や潤腸湯(じゅんちょうとう)がおすすめです。
特に、便のみが固くお腹が張りがちな方は麻子仁丸、身体全体の水分が不足してお肌なども乾燥しがちな方には潤腸湯がよいでしょう。
ストレスや疲れによる自律神経の乱れが原因の人には…
腸の運動を司るのは自律神経です。ストレスや疲れは自律神経の一つである交感神経を過剰に刺激し、腸の運動が低下することに…。結果として便秘を引き起こします。
このような自律神経の乱れによる便秘には、気分を落ち着かせて腸の動きを整える効果が期待できる柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や桃核承気湯(とうかくじょうきとう)がおすすめです。特に生理前に便秘になりやすいという方にはホルモンバランスを整える作用もあるとされる桃核承気湯がよいでしょう。
漢方薬は天然由来の生薬が原料となっているため、一般的な便秘薬より副作用は少ないとされています。しかし漢方薬も「薬」の一種。まれに皮膚のかゆみや湿疹、吐き気などの副作用を引き起こすこともあります。服用を開始して何らかの不快な症状が現れたときは服用を中止しましょう。
また、「甘草」と呼ばれる成分が含まれる漢方薬は長く服用すると高血圧やむくみなどの副作用を引き起こすものもあります。漢方薬を利用するときは含まれている成分をチェックし、「甘草」が含まれているものを長く続けるときは定期的に血圧の状態などを確かめるようにしましょう。
【漢方 便秘】ツムラってよく聞くけど、有名?
漢方薬は病院で処方してもらうこともできますが、薬局やドラッグストアなどでも処方箋の必要なく自由に購入することが可能です。
病院で処方される漢方薬や市販されている漢方薬を見ると「ツムラ」と書かれているものが多いと感じるかもしれません。「ツムラ」とは、漢方薬をメインに扱う製薬会社の一つ。1893年の創業以来、様々な種類の漢方薬を製造・販売しています。
日本で使用されている漢方薬の約80%はツムラのもの
現在、日本で使用されている漢方薬の80%はツムラのものとされており、断トツのシェア率を誇ります。品質管理は厳しく、原材料の調達から製造まですべての段階に厳密な基準が設けられているため、品質と安全性の高さには世界中から定評があるとのこと。
そんなツムラが製造・販売する漢方薬は138種類の飲み薬と1種類の軟こう(2020年1月現在)です。他社よりも種類が豊富なのも一つの特徴と言ってよいでしょう。
今回ご紹介した漢方薬以外にも、便秘によいとされるものは数多くありますので、様々な種類の中からご自分に合ったものを探すことができるとよいですね。
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成田亜希子先生
一般内科医。プライベートでは二児の母。
保健所勤務経験もあり、医療行政や母子保健、感染症に詳しい。
国立医療科学院などでの研修も積む。
日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会所属。