新生活の不安を少しでも解消したい
春到来。桜が咲き、新年度を迎え、新しい元号も「令和」に決まりました。
そんな中、4月からの新年度に合わせて、職場では新しいスタッフが増えたり、部署が異動になったり…。またともに暮らす家族にも変化があると、気ぜわしい日々が続きます。
今までとは違った環境で、異なる人々と接することになった方も多いかと思います。そういった新しい面々と出会う中で、なぜか今までのやり方ではうまくコミュニケーションが取れなくなってしまった、という悩みを聞きます。
例えば、自分の思いや主張、心の奥にしまいがちな本音がうまく伝わらない、また、伝えたつもりでもなぜか伝わっていない、ということはありませんか。
今回はそうした場面で心がけたい「自分の主張、心の奥にしまいがちな本音を相手(仕事仲間)に伝える方法」を紹介します。
相手に共感することが自分を理解してもらえる第一歩
主張や本音が伝わらないのは、以下のケースが考えられます。
自分が
−主張したり、本音を言ったりしたら、拒絶されるのではないかと心配で話せない。
−そもそも、その効果的な方法を知らない。
相手が
−自分の主張ばかりして、話を聞いてくれない。
−話を聞いてはくれるが、まったく考えや行動を変えない。
どのケースにおいても重要なのは、
・まずは共感すること
人は自分の話に共感してくれない人には心を開かないもの。まずは相手の主張・本音に共感することが、自分の主張・本音に共感してもらえるベースとなります。
ある科学研究では、人間は生まれつき自己中心的な傾向にあることがわかりました。自分の世界の見方が、必然的にほかの人の見方と同じであると思い込んでしまう。これは、ある意味自然なことですが、その自己中心的な傾向が極端なものになると、様々な問題を招き、他人と有意義な関係を築けず、満足のいく会話ができなくなります。
しかし、幸いにも脳には、自己中心性が強くなったときに、そのことに気付いて考えを調整する「右縁上回」という部位があります。
この「右縁上回」は共感を繰り返すことで発達し、より機能的になっていきます。
すなわち、共感は脳を成長させることができるのです。
■共感を深めるには?
共感を深める効果的な方法のひとつに、相手の本音を引き出す「繰り返し問答法」があります。
これはカウンセリングで使われている手法で、相手の話を聞き、聞いたことを一度繰り返した後にひとつだけ質問を加えて、さらに詳しい話を聞くという方法です。
例えば、
後輩に「調子はどう?」と聞いたときに、後輩が「今日は体調が悪くて…」と答えたら、「そうなの、体調が悪いのね。昨日何かあったの?」と質問を加えます。
すると、後輩が「実は昨日、上司に怒られて、そのことを考えていたら、なかなか寝つけなかったんです…」と答えたので、「あらそう…、寝付けなかったのね。どうして怒られてしまったの?」と、どんどん本音に迫っていくという方法です。
聞いたことを繰り返す際には、「昨晩はなかなか寝付けなかったのね。それは辛いわね…」というように、相手の感情を代弁する言葉を入れると、相手はより共感してもらえたと感じ、主張や本音を話しやすくなります。
自分の本音を伝えるには、言い方を変えてみて
「繰り返し問答法」などを使って共感し、相手の主張や本音を聞いたら、その後に自分の主張や本音を伝えます。
そのときには、主語を「あなた」ではなく「わたし」にして伝えることを心がけましょう。
例えば、
期日を守ってほしいときに、「前回は期日を守ってくれませんでしたね。何で(あなたは)連絡もなしに約束を破るのですか?」と言うと、相手は責められている気がします。
相手が部下や後輩であればまだしも、相手が上司やママ友であれば、反感を買い、あなたの印象が悪くなってしまうかもません。
こういう時には、主語を「あなた」から「わたし」に変えて、「前回は期日を守ってくれませんでしたね。期日を守ってくれないと、(わたしは)とても心配になってしまいます」と、まずは自分の気持ちを伝えます。
その上で、「そういうときは事前にひと言連絡を入れてもらえると嬉しいです」と、具体的に相手にとってほしい行動を提案します。
すると、相手も自分の主張に共感し、考えや行動を変えてくれやすくなります。
■自分も相手も大切にできる「アサーティブ・コミュニケーション」
日本人はコミュニケーションをする際に、「自分を大切にしないで、相手を大切にする受け身的なタイプ」と、逆に「自分だけを大切にして、相手を大切にしない攻撃的なタイプ」の方法を考えがちですが、人を傷つけたくないから前者をとる人が多いといわれます。
ですが、この主語を「わたし」にして伝える方法を用いると、自分も相手も大切にすることができます。
これは「アサーティブ・コミュニケーション」と呼ばれている技法の一つで、ポイントは以下の通りです。
1.双方が納得する客観的事実を伝える→「前回は期日を守ってくれませんでしたね」
2.自分がどう感じたかを述べる→「期日を守ってくれないと、(わたしは)とても心配になってしまいます」
3.具体的に相手にとってほしい行動を提案する→「そういうときは事前にひと言連絡を入れてもらえると嬉しいです」
3.では、できるだけ圧力を最小限にした言い方で、相手に選択の余地を与えるようにすると、相手は自分で決めた感覚を持つので、提案を受け入れてくれやすくなります。
今回は、「自分の主張、心の奥にしまいがちな本音を相手(仕事仲間)に伝える方法」として、
◆まずは共感すること
繰り返し問答法
相手の感情を代弁する
◆主語を「あなた」ではなく「わたし」にして伝えること
双方が納得する客観的事実を伝える
自分がどう感じたかを述べる
具体的に相手にとってほしい行動を提案する
といった方法を紹介しました。
是非、こういった方法を活用してEQ力※を高め、日々をいきいきと送っていただければ嬉しく思います。
※EQ力とは、IQや学力などの認知能力と対になる非認知能力のことで、特にEQWELチャイルドアカデミーの卒業生で活躍している子どもたちに共通する人間力を指します。EQWELチャイルドアカデミーでは、幼少期より育みたい5つのEQ力として「自己肯定感」「やる気」「共感力」「自制心」「やり抜く力」を挙げています。
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浦谷裕樹
EQWELチャイルドアカデミー 新未来教育科学研究所 主席研究員
工学博士・理学修士
京都大学理学部卒業後、教育分野における能力開発に従事。専門学校講師、文部科学省委託プロジェクトメンバー等を歴任。2010年より現株式会社EQWEL転籍。以降、教育内容の研究開発に従事するかたわら、大阪工業大学大学院で研究活動を行い、同大学院より工学博士(生体医工学)授与。企業、学校、各種団体など大人向けへの指導・講演にも力を入れ、これまでの受講者数は1万人以上。EQにまつわる書籍も出版。