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2019.02.16

【私が決断したとき】限界まで期待に応えるのが私の原点|ブランドプロデューサー・柴田陽子さん

各界の第一線で活躍する先人たちは、どんなターニングポイントを迎えてきたのか。今回は企業や商品の価値を引き出し、さまざまなヒットを生んできた柴田陽子さんにお話をうかがいました。

【柴田陽子】さんインタビュー

期待を超えるゴール設定から本当の仕事の楽しさや信頼関係は生まれる

柴田陽子さん

「1億円までお金を使っていいから、行列のできるレストランをつくってほしい」人生の転機をあげるなら、上司である社長からその言葉をかけられた28歳のときです。当時の私は普通の会社員で、外食産業とはいえ秘書でしたからお店をつくったこともなく、「そんなことはとてもできません」と答えました。

社長は「僕は君ならできると思ってチャンスをあげているのに、それを断るほど偉かったの?」と言う。確かに偉くはないし、正しい態度は? と問われたら、一生懸命頑張ることだな、と受けることを決めました。ただ、本当にやり方がわからなかったので初めの一歩だけアドバイスを求めたところ、「こんな素敵なお店ができたらいいなという企画書を一冊書いて、それはいくらあったらできるだろうという資金計画書を書く。かけたお金がどういう営業をしていると回収できるのか5か年計画を練る。僕からのお題は、3年以内に回収すること。以上、足し算と引き算しか出てこないから大丈夫だ。わからなければ、聞く相手もいっぱいいるでしょう」と。

まずは、本屋さんでレストランのつくり方の本を買って学び、会社の先輩方に話を聞いて回って、2週間で6企画を出しました。1案でもよかったのですが、力不足の私が期待に応えるには6案くらいあれば、「頑張ったね」と受け止めてもらえるかもしれないと思ったんですね。

役員会で企画が決まってからは物件を回って、麻布十番の人気物件のオーナーさんに熱意をぶつけてプレゼン。内装や外装の依頼、メニューの考案に、料理長や店長のスカウト、スタッフの採用、PR、現場教育に売上管理、そのすべてを自分でやりました。

柴田陽子さん

それがメディアに取り上げられ、予約が1か月とれないような繁盛店になってからは、「過大評価の人生」と言いますか、私の実力に見合わないチャンスが来るように。それでも相手が「あなたにはできる」と言ってくださるなら、受けた注文よりも必ず高いところにゴールを設定して、全力を尽くすのみ。

自分を追い詰めながらも結果として、本当の仕事の楽しさとか、本当の信頼関係が生まれる尊さをたくさん見てきて、仕事って素晴しいんだなと。中途半端にやると中途半端な重みでしか返ってこない。限界まで期待に応えることが私の原点となり、今に至ります。

問題の本質はどこにあるのか、源流を見つける。ブレないものさしが、自分の中にできていく

ランディングプロデューサーとして独立して、15年。年間20〜30案件を手がけてきましたが、一度も「やった!」という感覚を味わったことはないんです。

経営者の方に直接ご依頼をいただくことが多いので、きれいでかっこいいから喜んでもらえるというわけではなく、商売としてちゃんと利益が出て、そこで働く方々がいい思いをできることが重要。自分が考えたコンセプトが正解かどうかわかるのは、営業してから何年か後です。

納品や開業は最低限の任務完了。私よりできる人は必ずいると思っているので、その人だったらどうやっただろう、あそこはもうちょっとうまくできたのかな…とも考えますね。

私の仕事の大きな部分は、コンセプトが時代の中で強いものになっているか追求し、それを形にしてクライアントの方々を含めたチームの皆さまにお手柄をつくること。

クリエイティブ領域が注目されがちですが、プロジェクト推進力やリーダーシップ、コミュニケーション能力が優れていないと結果を出せないなと常々感じています。ステージが上がるたびにすごい人が現れて、「私って全然足りなかったんだ、恥ずかしい」となる。ずっと「まだまだ」と思い続けています。

1月にリニューアルオープンする東京會舘さんでは、ロゴや店舗のデザインから、ユニフォーム、楊枝の袋までつくらせていただきました。

私たちのことを尊重して過分なお役目を用意してくださって。クライアントさんから場の空気をつくってくださることによって、その期待に報いたいという思いが強く、やる気100倍になる。私たちもクリエイターさんや職人さんへどうお願いするのがよいのか、あらためて勉強になりました。

東京會舘

信頼を築いていくには、繕わないで本音で話すことを大切にしています。ビジネスでは「やっぱり気が変わった」とはなかなか言えなくて、どういう言い方をしましょうかと図る場面も。

でも、ずっと思案していて、もっといい表現や方法はこっちかもしれないと思い至ったわけですよね。それなら素直に「すみません、あれからずっと考えていて…」とクライアントさんやチームに伝える。

業界によっては「責任を取らされるから謝らないこと」という教育を受けているようで驚かれることもありますが、人として謝るって普通じゃない? と思いますし、その上で、本心とそこに至った経過を真摯に話すようにしています。

この15年、ピンチはたくさんありました。最初はスタッフがひとりやめてしまうことも眠れないくらい悲しかったですし、来期はお仕事があるかなと考えると不安で仕方なくて。

今もひとつひとつのプロジェクトが成功するか悩んで、社員が機嫌よく楽しく働けているかも気になります。そういう問題は毎日あって、会社のそばにある鎗ヶ崎の歩道橋の上でしょっちゅう泣いてますね(笑)。でも、つらいと思う感覚には年々慣れてくる。涙の理由もすぐに忘れてしまいます。

私自身は、クライアントさんが困っていたらお役に立ちたいと思い、社員が悩んでいたら食事に誘って話を聞きたいし、週末に子供の予定があれば一緒に楽しみたい。

なのに体はひとつで、やりたくてもしてあげられていないことばっかりです。なぜか人からは順風満帆で自由だと言われますが、社員のみんながいるから仕事をやめるわけにはいかないし、もちろんお母さんもやめられない。実際は選べる範囲なんてあまりないんですよね。

仕事でも家庭でも、もし選択に迷ったら、「それは本質的か?」を問うようにしています。鮭みたいに遡って、物事の源流はどこか常に見る。そうすると、ブレないものさしが自分の中にできていく。人が悩んでいても、「本筋とは関係ないから大丈夫だよ」と言えますし、一見、見逃されているけどその人の根幹にかかわる問題だと思えば指摘しています。

とことん働いてきたので、いつか何もなくなってゼロになったとしても、もう一度働けばいいやと思っていて。自己実現的なやりたいことはわからないけれど、いい会社にしたいな、5年後の20周年は盛大に祝いたいなという目標はあります。そのためにも、クライアントさんとたくさんの仲間が来てくださるように日々を過ごしていきたいですね。

100年近く愛されてきた東京會舘が1月8日、生まれ変わりました!

東京會舘

皇居の目の前に建ち、大正時代から貴賓をもてなしてきた東京會舘。柴田さんがブランディングを手がけ、2019年初めに新生オープンする。伝統の味やおもてなしの心はそのまま、より軽やかな感性を取り入れてレストランやショップ、ウエディングを展開。

特別な日の食事や、大切な人への手土産を選びに訪れたい。

Oggi2月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 撮影協力/東京會舘 デザイン/Permanent Yellow Orange 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

しばた ようこ

1972年、神奈川県生まれ。大学卒業後、外食企業での新規業態開発担当を経て、化粧品会社での商品開発やサロン業態開発などを経験。2004年「柴田陽子事務所」を設立。コーポレートブランディング・店舗プロデュース・商品開発など多岐にわたるコンサルティング業務を請け負う。プロデュースに携わった主な仕事に、グランツリー武蔵小杉、渋谷ヒカリエ レストランフロア、2015年ミラノ国際博覧会における日本館レストラン、パレスホテル東京の7料飲施設、ローソン「Uchi Café SWEETS」など。直営の飲食店経営のほか、自身で立ち上げたアパレルブランド「BORDERS at BALCONY」のディレクターも務める。

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Oggi12月号で商品のブランド名に間違いがありました。114ページに掲載している赤のタートルニットのブランド名は、正しくは、エンリカになります。お詫びして訂正致します。
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