いつも人を笑わせる大泉さんの存在は、ときに人に甘え、ときに図々しく、周囲を巻き込みながら成り立っている。好きなものには愛情と情熱を注ぐし、受けた愛情には全力で応える。それは、私たちが30代からの仕事と人づきあいを考える上での、大きなヒントになりそうだ。
【大泉洋 インタビュー】
図々しく甘える弟気質です
「僕は兄とずっと一緒に育ってきて、そのせいなのか、今でも何かと人に頼る性格なんです。たとえば、家族旅行をするにしても、自分で調べるより先に、詳しい仲間に聞いちゃう。どこかいいとこ教えて、ってね。原稿の締め切りも、図々しく甘えてみたら、延ばしてもらえるかもしれない、と思って聞いてみる。明日でもいい? と。弟っていうのは、頼めばなんとかなると思ってるんですよ(笑)」
そんな憎めない性格は、バラエティ番組やドラマでもときどき顔をのぞかせる。大泉さんの魅力を広めた大人気番組『水曜どうでしょう』を機に、一躍北海道で有名人に。その後、東京に拠点を移し、役者の道に進むことになったのは、大泉さんが30代にさしかかったときだった。
「自分はこのままでいいんだろうか。観る人はついてきてくれるだろうか。ふと立ち止まって考えました。かといって、今からサラリーマンをやれるわけでもない。30歳を過ぎてからは腹をくくり、東京の事務所とも契約して、役者の仕事を始めました。僕はこの世界でしか仕事ができないし、だからこそ地道に長く続けることを考えなくちゃいけない。芸能人っぽくなくていいから、ブレイクしなくていいから、ぱっと売れて終わってしまうのだけは、イヤだった。だから、大きな仕事がくると怖かったんです(笑)。そんな思いは正直に会社に伝えました。理解してくれて、一緒に考え、愛情を注いでくれたのが今の会社のスタッフでした。だから僕もその思いに応えようと頑張る。そこからは、休みなく走り続けてきましたね」
人に頼るし、自分の主張をさりげなく通し続ける。そうしながら、周囲に愛されている存在が、大泉さんだ。その根底には、甘えながらも「人に迷惑をかけない」という気持ちがあったという。
「それが日本人の美徳なのだろうと、ずっと思ってきました。でも、迷惑をかけないことだけが、果たして大事なのかって、最近考えるんです。もちろん、絶対にかけてはいけない迷惑はあるけれど、だれでも多かれ少なかれ迷惑をかけながら生きているもの。できないときは人の力を借りればいいし、人に頼ることは悪いことじゃないんじゃないかな」
こんなふうに、考え方をおおらかにさせてくれたのが、大泉さんが主演した映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』だった。この作品は、幼少期から難病の筋ジストロフィーを患った鹿野靖明さんの実話。
人の手助けがないと生きていけないにもかかわらず、病院を飛び出してボランティアたちと自立生活を始める。そのパワフルさが、周囲の人たちそれぞれに気づきをもたらすのが、見どころのひとつ。大泉さん自身も、鹿野さんを演じながら、影響と衝撃を受けたひとりだ。
「鹿野さんは、自分で動かせるのは首と手だけという状況でも、言いたいこと・やりたいことはガマンしません。夜中にバナナが食べたくなったら、寝ているボランティアを起こしてでも食べる。旅行も行く。でも考えてみれば、健常者にとってはどれも普通のことです。障がいをもつ人はおとなしく、わがままを言わないというイメージがあるけれど、そうではなくて、鹿野さんはただ普通に生きたかっただけなのでしょう。それが本当のノーマライゼーションで、わがままを言うことで、後に世の中が変わったらいいと、鹿野さんは考えていたのだと思います」
自分の選択に間違いはないから
「鹿野さんは、どんなにわがままを言っても周囲に愛され続けた人でした。それは、彼の『普通に生きたい』という強い思いに、周囲が突き動かされたからでしょう。もちろん、鹿野さんのなんとも言えない人としての魅力もありました。彼はね、女性を好きになったらすぐ告白して、振られてもまたすぐだれかを好きになって。恋愛でもパワフルだったらしいです。僕の場合、恋愛に関してはまったく図々しくなくて、好きな人ができても人には言わない。ましてや、鹿野さんみたいに告白を友人に頼むとか、人前でプロポーズするとか、絶対に無理!(笑) だから僕はみなさんに恋愛アドバイスなんてできないけど…。もし、生き方に迷ったり、何かもやもやしていることがあるなら、とにかくやりたいことをやるのが大事だと思います。僕も30代はそうでした。そのときの自分の選択に間違いはないので。どんな結果になっても、後の自分に必要な経験なんですよ。それを信じて、前向きに明るく、突き進んでいくしかないんです」
大泉さんが信じた道が間違っていなかったことは、現在の仕事が証明している。2018年だけでも4本の映画に出演し、2019年公開の映画も控えている。映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』をはじめ、大好きな北海道での撮影も多く、忙しさは途切れることがない。
「それは幸せなことだけど、東京を離れていると、娘に会えないのがつらくてね。10日以上会えないとキツいから、程よく東京の仕事を入れてって、会社にはわがまま言ってます(笑)。そして娘には、『ひとりでできないことは人に頼っていい。その代わり、人も助けてあげなさい』と、そう教えたいと思ってます」
Oggi4月号「この人に今、これが聞きたい! 大泉洋」より
撮影/丸山涼子 スタイリスト/九(Yolken) ヘア&メイク/西岡達也(Leinwand) デザイン/スズキのデザイン 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
大泉 洋(おおいずみ よう)
1973年生まれ、北海道出身。大学在学中より劇団ユニット「TEAM NACS」のメンバーとして活動。深夜番組『水曜どうでしょう』(北海道テレビ放送)レギュラー出演後、全国放送のドラマや映画に出演。代表映画は『探偵はBARにいる』シリーズ、『青天の霹靂』など。映画『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』など、北海道ゆかりの作品に多く出演。2019年は『そらのレストラン』が公開予定