【中村うさぎのお悩み相談室】
彼が、知らない間にデキ婚…!
YU:3年くらい前なんですけど、すごく長く付き合っていた彼がいて、5年くらい。その彼がいつのまにか「出来ちゃった婚」してたんですよ。
中村:あなたと付き合ってる間に?
YU:はい。おかしいなと思って問い詰めたら、最初「してない」みたいなことを言ってたんだけど、結局、「出来ちゃった結婚しちゃったんだよね」って。そこから泥沼で。でも本当に結婚したかったのはおまえだとか、ごちゃごちゃ言って。でもとりあえずその彼とはその時点で終わったんです。
中村:そりゃ終わるよね(笑)
YU:終わったんですけど、そこからけっこうショックが大きくって、それ以来、誰ともちゃんと付き合ってないんですよね、3年くらい。恋愛をしてこなかったわけでもないんですけど、なんとなく本気じゃないというか。私も終わってもいいかなって思いながら相手を見るというか。傷つかないように。
中村:この人も裏切るんじゃないかって思っちゃうの?
YU:うん。たぶん心のどこかでバリアを張ってて付き合うギリギリで怖くなるというか、逃げちゃうんですよね。
中村:どう逃げるんですか?
YU:なんか、この人じゃないなやっぱりって、自分で思う。ずっとそれの繰り返し。ご飯行って、付き合う過程のギリギリまで行って、この人じゃないなって終わって、また新しく違う人が来て、その繰り返しをずっとしていて。彼氏が欲しくないわけじゃないんですけど、結局誰とも付き合えずにここまできて。今31歳なんですけどそろそろ子供欲しいなって思って。そう思ったら本当に好きな人と結婚したいなって思うけど、やっぱなかなか彼氏すらできないみたいな(笑)。
中村:その元カレ以上に好きになれる人が現れない、と。
YU:そう。その人は本当に好きだったんですけど、それ以来本当に好きな人ができてない気がします。ほんと、傷つきすぎて誰にも言えなくて。最近ようやく高校時代の友達に話したんですよ。
中村:え! 3年間、誰にも言わなかったの?
YU:誰にも言えなかった。ひとりでずっと抱えてました。
中村:そうなんだ! でも、言えてよかったね。
YU:そうですね。言えたことでちょっと成長。一歩成長かなって。
「埋まらない傷も、いつかカサブタになっていく」
中村:うんうん。誰にも言えないってことはね、すっごい傷ついてたんだと思うのよ。人ってあまりに傷つくと、そのことを言葉にできなくなるから。ちょっと触れるだけでものすごく痛いからさ。
たぶん、それでその傷が埋まらないうちは誰とも付き合えないんだと思うのね。でも、最近になって言えたってことは、その傷に少しずつ薄皮みたいなものが張り始めてるんだと思うの。それがやがてカサブタになって傷を覆っていくのよ。触れても前ほど痛くなくなってきて、ついには痛みが消える。
YU:そっかぁ。
中村:私バツイチなんだけど、泥沼みたいに憎み合って離婚したんですよ。離婚した時はせいせいして、あの男から別れられてこんなに嬉しいことはないとか思ったんだよね。以来、その男のことをできるだけ考えず、ずっと馬車馬みたいに働いたの。もうとにかく仕事に集中することで、傷を癒そうとしてたんだと思うのね。
YU:わかる。仕事仕事ってなりますよね。
中村:そうそう。まぁそれで仕事バリバリやってて……いつくらいかなぁ、離婚して2年くらい経った頃にね、前の夫が夢に出て来たの。すごく嫌な夢でさ、夢の中で前の夫が家にいるのを見て、私まだこいつと結婚してたんだと思って、すごい衝撃を受けるんだよね。で、目が覚めて、とっくに離婚してるじゃんっていう現実に戻って。ああよかった、みたいな。
でも夢に出てきたってことは私、自分が回復してるんだと思ったの。すごく嫌な夢だったけど、でもそれまでは夢にも出てこないくらい、ものすごく深い沼の底に彼の記憶を沈めてたわけ。で、それを沈めたまま仕事に集中するとか、他の男とイチャイチャするとかして、なんとなく傷は癒えてるつもりだったけど、ほんとはそうじゃなかった。封印してただけなのよ。
だから、彼が夢の中に現れた時には、錘をつけて沼の底に沈めた水死体がプカー浮いてきたような気がしてね。でもその夢から覚めて、わかったの。ああ、私はようやく受け入れたんだ、って。もういいや、あの男のことはって思えたから、あいつも夢に出て来れたんだと思う。それまでは、たぶん無意識のうちに、封印して目を逸らし続けてたんだと思うの。
それと同じように、人に話さないっていうのはさ、すごい沼の底に沈めて蓋してるんだよね。でも、ようやく話せたってことは、その蓋の間がずれてきて、それは逆にすごくいいことで。もうこれからはどんどんいろんな人にその話をしていいと思うのね。話をすればすれるほど、自分の中で整理がつくんじゃないかと思うの。
で、だんだんいろんな人に話せるようになってきて、飲みの席とかでふと男の話になったときにさ、「酷い男と付き合ったことあるんだよね」みたいな。そういう話、みんな好きだからさ(笑)、「何それ、サイテー」とか言って盛り上がったりしてさ、女子同士で。そんなことしてるうちにあなたの中で物語が完結するんだと思うの。元彼との物語がね。
YU:確かに。
「言葉にすることで自分の経験を物語化して、完結させてあげるの」
中村:傷ついたまんまだとさ、話が完結しないんだよね。人間ってさ、人に語ることによって自分の経験を物語化していくから。
で、私はやっぱり夫が夢に出てきたくらいから、夫のことをぽつぽつとエッセイに書くようになったの。
YU:それまでは書かなかったんですか?
中村:いろいろ言いたいことはあったんだけど、どう書いていいのかわからなかったんだよね。夫のことをどう思っていたかとか、何があったのかとか。
だから、人に話すことと書くことは同じでさ。つまり言葉にする、そして物語にする、そして自分の中でエンディングを迎える……そういう行為でしょ?
あなたが3年間、誰にも話せなかったのは、あなたの中でその物語が完結してなかったんだと思うのね。恥ずかしいとか同情されたくないとか思ってたのかもしれないけど、やっぱり物語として完成してないから話せないというのかな。最後に自分の着地点がないからさ、どう話していいかわからない、的な。
YU:あー、そうかも。
中村:関係を断ったから終止符を打ったと思ってたんだろうけど、あなたの中の物語は終わってなかったんじゃない? あなた自身の着地点がなかったから。
だからもう、これからはどんどん人に話してみよう。話すうちに笑い話になっていったりして、カサブタが厚くなっていくんだよ。そうこうしてるうちに、それが憎しみであっても許しであってもお笑いであっても。なんとなくあなた自身の決着がそこにつけば、次の恋愛にいけるようになるんじゃないかなと思うんだけどね。
言語化って大事だよ。整理がつくからね。
どうしていいかわかんないことも、とりあえず言葉にして話したり書いたりしてるうちに、だんたん明確になっていくことってあるのよ。自分がどうしたいのかわからない時ってあるじゃない?
YU:ある~
中村:それを話したり書いてるうちに、結局、こうでこうでこうなんだから、じゃあ私はこうしたいんじゃん、みたいなことに自分で気づいたりするから。誰かに話してる時に、思わぬ言葉が出てきて、ああ私は彼のことをこんなふうに思ってたんだ、みたいに今さらながら思い当たるとかさ。
男は信用しない方がいい!? うさぎさんの真意とは
まぁ、今回のことで男の人が信用できなくなったみたいなのは、きっとあるんだろうと思うけど、そもそも男なんて信用しなくていいからね。
YU:そうなんですか?
中村:そうです。すべての男がよその女を孕ませるとは言わないけど、それは少数かもしれないけど。男の人が言ってることをいちいち鵜呑みにする必要はないよ。だって自分だって男に嘘つくことあるじゃん?
YU:全然あります。
中村:あるよね。なら、向こうだってあるっしょ。だから、男に限らず、人っていうのは、そうやって小さい嘘をつく生き物なんだなっていうのを学んでいくのも人生の過程だと思うのね。
この人は私に絶対嘘つかない人みたいに思ったら、裏切られるから。だからそれはお互いに小さな嘘をつきあって、でもそれでも一緒にいるみたいな関係を続けられるといいなくらいの感じで。私が男を信じなくていいよって言ったのは、疑えってことじゃなく、相手がまったく嘘をつかない完璧な人間だなんて信じちゃうと、人を許せなくなるからなの。信じるって、期待することに繋がるじゃん? そうなると些細なことでも裏切られたような気持ちになったり。誕生日忘れられたとかさ。
YU:え、むかつくー!
中村:でも、相手も人間だから忘れることもあるじゃん(笑)。まぁ、YUさんの元彼の裏切りは別格だけど、あまりに彼氏に期待し過ぎると破綻をきたす場合もあるってこと。
YU:期待しなくて済む人もいるんですよ。だけど、そういう人って嫌いじゃないけどそんなに好きじゃない人で。なんか、それって、どうなんだろ。でも結局そっちの方が上手くまとまるというか、自分は楽に生きられるんですけど、果たして今のゴールそこなのか、な? みたいな。結婚とか考えると。
中村:結婚相手として考えると、期待値がそんなに大きくない人の方がいいと思うんですよ。恋愛相手にはやっぱり幻想を持つから。その幻想をもつのが楽しいんじゃん? なんか理想の人とか、この人は今までの人と違うとかそういう感じで夢を見ちゃうのが楽しいわけじゃない? でもいざ結婚となるとその夢はことごとく現実に塗りつぶされていくのはもう、わかってるじゃん。そうすると結婚してから夢がひとつひとつ砕かれるくらいだったら、もうある程度現実もわかっていて、燃え上がるように好きなわけじゃないけれどもこの人のこういうところは、じんわり好きだなぁみたいなさ。
YU:じんわり好きだなぁ、か(笑)。
「じんわりしたところに落ち着ける人が結局…」
中村:いつか夫婦ってそういうところに落ち着いていくから。いつかはそこに着地していかないと、いつまでもラブラブしてらんないからさ。
で、結局どこに着地するかっていうと、居心地がいいとか一緒にいて安心できるとか、この人だったら気を使わないでいられるなぁ、みたいな。そういうじんわりしたところに結局は落ち着くわけですよ。そのじんわりしたところに落ち着けない相手と結婚しちゃうとさ、恋愛感情がなくなった途端、一緒にいることにイライラし続けるみたいなさ。
YU:あー…むずかしい~~~!
中村:だから結婚を視野に入れるとしたら、ガーッと好きになる相手と結婚にふさわしい相手は必ずしも一致しないことが多いんだけれども、じんわり好きになれる相手を選ぶのが私はお勧めするんですよね。
YU:なるほど。でも、じんわり好きになれる相手は結構多いんですけど(笑)、なんか、そういう人の方がいいのかなぁ…
中村:じんわり好きになれるけど、どうしてもセックスしたくないっていう、その障壁があったらダメだけどね。
YU:あ、全然できます。
中村:あ、そうなんだ(笑)。なら、いいじゃん。私はさ、本当にこの男は人として好きだし友達として大好きだけどセックスだけはしたくないみたいな男友達がやっぱりいるから。そいつとは永遠に友達だよね(笑)。
YU:うんうん、その一線はね。でも、そういう人と一緒にいると、他にもいい人がいるかもしれないっていう、上っ面な私の気持ちがずっと常にこの辺にあります。
中村:なるほど。他にもいい人はいるかもしれないんですよ、そりゃ確かにね。それは、誰にもわかんないんだけど、まぁいつかでもきっとね、この辺で手を打とうかなって思うときが、自然に思うんじゃないのかな。
YU:あー。思いたい~!(笑)
中村:うん。今はまず、なんていうのかな、心が開けないことがさ、恋愛に至る前に逃げてしまうのが問題だから、それはそうやって言葉にして人に話したり書いたりしてアウトプットすることでひとつ完結させていって。
その癒しの作業がひと段落すれば、徐々に恋愛に気が向くかもしれないし。そのときに考えればいいですね。じんわりでいいのか、火がボーボーの人がいいのか。火がボーボーの人と付き合ってまた喧嘩して別れてっていうのを繰り返してもいいと思うんだよね。入り口で帰ってきちゃうよりはマシだよね。進歩じゃん。
そして話は思わぬ展開へ…!!
YU:確かに……。ところで昨日の出来事なんですけど、こんな風にちょっとずつ友達に言えるようになって段々傷が癒えてきたかなって最近もちょっと思ってて、そしたらバッタリ会ったんですよ。友人に誘われたイベントで。
中村:例の元彼に?
YU:そう! 会って、ゲッて思ったけど数時間みんなで過ごして。そしたら、その後に彼から連絡が来て。私ももう完結したと思ったから、いいかなもうと思って会ったんですよ、昨日。
中村:そしたらどうでした?
YU:んー。やっぱり気持ちがちょっと戻りました、会っちゃったら。
中村:やっぱりまだ好きなんだねぇ。
YU:好きって言うか、うん、でも、たぶんまだ好きなんだと思う。で、彼が子供を連れて離婚するからって……。
中村:やっぱりそう来たか(笑)
YU:だから、結婚してほしいって話になって。
中村:ふざけんなって言っておきましょう。
YU:でまた、そこで心を揺さぶられてる自分にもげんなりして、またちょっと一歩戻っちゃったなっていう感じになって。今すごい気持ち悪い感じ。
中村:じゃあもう一回また彼から連絡が来て会おうって言われたら会っちゃいそうな感じがする?
YU:えー。でも、会わないようにしなきゃって思ってるんですけど、
中村:でもね、それね、会っちゃうよ。まだあなたの気が済んでないから。まだ物語が完結してないから、続編に期待しちゃうのよ。会ってみたら気持ちが戻ったというのは非常によくわかるんだけど、ろくな結果にはならないですよね。それは間違いないじゃない?
YU:うん。
中村:ところが、ろくな結果にならないことをわかってて、そんな相手とズルズル恋愛を続ける女はいっぱいいてさぁ。そういう場合は私はもう、気がすむまでやれって言う。
YU:気が済むまでもう結構やったんだけどなぁー。
彼女のくだすべき決断とは…!?
中村:いやいや。心が揺れるってことは、まだ終わってないから。じゃあ、もうズタズタにもっとなるまでやってみれば? なんならもう一回くらい裏切られちゃえばいい(笑)。
YU:えー! 自ら!?
中村:だってまた裏切られるもん。あなたに黙って出来婚しといて、子供いるのに今度は離婚するみたいな、本当に彼らしいじゃないですか。無責任で。あなたと結婚しても同じことをするよね。
YU:確かに。そうですね……。
中村:あなたを幸せにする人じゃないですよね、まず。でも傷ついてもいいから、行くとこまで行きたいと思うんだったら、もう行くしかない。
YU:行きたくなーい!
中村:そっか。じゃあ、頑張って会わずに、1日も早く……。
YU:はい、探します。違う人を。そうだね。カサブタ作りながら、重ねながら。
中村:せっかく出来かかったカサブタ剥がされちゃったね、昨日。
YU:でも今聞いてもらって、また大丈夫になりました。
中村:ならいいけど……ひきずりそうだな、これは(笑)。
YU:えーー! 大丈夫ですー!(笑)
撮影/深山徳幸 撮影協力/シューパレード
中村うさぎ
小説家・エッセイスト。OL、コピーライターを経て作家へと転身。ベストセラーとなったデビュー作『ゴクドーくん漫遊記』を皮切りに活躍を続ける。その後、自身の実体験を赤裸々に綴ったエッセイがヒット。『女という病』『私という病』『狂人失格』『セックス放浪記』『プロポーズはいらない』など多数の人気著書を手がける。
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