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2018.07.22

【私が決断したとき】仕事は、好きでも嫌いでもないくらいがちょうどいい|フォトグラファー・ヨシダナギさん

今回は、アフリカやアマゾンの秘境に単身で渡り、先住民の姿を色彩豊かな写真で伝えるヨシダナギさんにお話をうかがいました。

【ヨシダナギ】さん独占インタビュー

仕事は、好きでも嫌いでもないくらいがちょうどいい

『クレイジージャーニー』というテレビの紀行バラエティ番組に初めて出たのが2015年、29歳のときでした。実はオファーが来たときは、いい写真が撮れるかどうかわからないけどイチかバチかでお受けしたんです。

23歳からアフリカに通い、現地の少数民族を撮影してブログに載せてきたものの、写真はあくまで独学で記録用。アフリカ人のかっこよさをだれにも共感してもらえないのが悔しくて、言葉だけじゃ伝わらないから写真に残していただけでして。先住民の人たちをディレクションして戦隊ヒーローのように撮る…という今の作風の写真は、当時まだ1枚しかなかった。その1枚をSNSにあげてみたらすごく拡散して。これなら多くの人に届けられるんだと気づいた矢先のことでした。

それまで仕事にしていたのはイラストです。海外のアニメーション制作などに携わっていましたが、番組の放送を観たらテロップの肩書きが〝フォトグラファー〟になっていて、「あぁ、これでイラストレーターを辞められるな」と。子供のころから大好きだった絵も、仕事にすると自由には描けない。割りきれない思いとゼロから生み出す苦しさを抱えていました。

その点、写真は素晴しいモデルさえいれば、カメラの知識や技術がない私でもボタンを押すだけで様になる。すごく好きなことを仕事にして継続できる人もいると思うのですが、私の場合はやりきると熱が冷めて嫌いになってしまって、向かないんだなと。昔、祖母に「2番目に好きな人と結婚しなさい」と言われたものですが、まさに同じ。日本にいるときはカメラをほぼ触りません。写真が特に好きなわけではないから盲目的にならないし、過度な期待もせず嫌いにならないでいられます。

ヨシダナギ

夢なんて抱かなくてもいい。身近なゴールを、たくさん決めたい

20代のころは、アフリカへの渡航資金をつくるため、〝夜の蝶〟として銀座のスナックでアルバイトをした時期も。元々人見知りで引きこもり、社交性のない私が、忍耐を学んだ場でもあります。煌びやかな街に真っ黒な服とボサボサの髪で出勤し、お酒は一滴も飲めない、人の話を聞くのも苦手(笑)。でもそれを面白がってくれるオーナーやお客さんがいたから、続けられた。どこにいても自分があるがままでいるかぎり、拾ってくれる人がいるんだな、と自信にもなりました。

欠点を隠さず、自分を知ると楽に生きる方法が見えてきます。着たい服と似合う服が違うように、なりたい自分となれる自分は違う。高い理想が先行すると、たどり着けない現実に絶望してしまうので、自分の短所と長所を見極めてからなりたいものを定めたほうがいいんじゃないかと。私自身は中距離の目標をコツコツ達成して、たくさんゴールしたほうがモチベーションが維持できるタイプ。華やかな場に出ていきたいとも思わないし、オフはソファに転がってスマホゲームに課金しながら、地味に過ごすのが幸せ(笑)。夢がないことが、強みです。

迷ったらリスクは考えずに、とりあえずやりたいほうをやってみる。やりたいことを我慢していると悲愴感が出てしまっていい人が寄ってこない。もしうまくいかなくても、悩んで動けないでいるよりは次のスタートを早く切れます。中途半端に終わるくらいなら、かすり傷より〝爆死〟したいというか。恋愛でも、こうすればよかったかも…と思うとズルズル引きずってしまいますよね。これまで何度も爆死していますが、おかげで未練を残さず清々しくあきらめられます。

ヨシダナギ

死んでも後悔しない国にだけ行く

アフリカに行く以上、ガイドが同行していてもリスクがないとは言えません。実際、兵士に銃を突き付けられた経験もあります。でも、どんなに疲れても、多少危ない目に遭っても会いに行きたいと思えるのが、そこにいる先住民。何かに興味をもつことがあまりない私にとって、感情を揺さぶられること自体が貴重で。だから、死んでも後悔しない国にだけ行くと決めています。

20代のころは英語もまるで話せなくて、渡航のたびに親から心配されて止められていましたが、メディアに取り上げられ個展などでも評価していただけるようになり、今は「バカも極めれば認めてもらえるんだな」と温かく見守ってくれています。

これだけ通い詰めているアフリカですが、現地で3日間撮影したとして楽しいのは1時間くらい。というのも、太陽の光が強い日中は肌の色や背景がうまく撮影できないので、勝負は朝と夕方の1日2時間、計6時間です。人生で撮影なんて経験したことのなかった先住民たちが、〝モデル〟になった瞬間。お互い言葉がわからなくても意思疎通できたこと、彼ら自身が自分たちのかっこよさに気づいたこと。その一瞬はかけがえのない感動があります。ただしそれ以外は、天気が悪いとか大量の虫とか、指示を聞いてくれないとか、心配だらけで大半が憂鬱です(笑)。

ヨシダナギ 写真集

アフリカに救われて今がある。彼らかっこよさを世界中に伝えたい。

警戒心の強い民族と距離を縮めるため、ときには彼らと同じように服を脱いで裸になることもあります。彼らはふだん肌を隠している人間がそれをさらすのにどれだけ勇気がいるかわかっているので、一気に受け入れてくれる。服を着ている民族のほうが難しいですね。そういうときは生活を共にし、同じ立場で過ごします。日焼けして皮がめくれても日焼け止めは塗りません。彼らにとって、肌が黒くなるのを防ぐ行為は気分のいいものではないし、なにげない振る舞いもちゃんと見ている。身が引き締まる思いです。

一方で、私も東洋人差別を受けることがあり、これほど人を傷つけることはないなと感じます。生まれてきた肌の色だけでひどい扱いを受ける筋合いはないし、いがみ合うことじゃない。人種問題にかぎらず、「自分と違う」とか「気に入らない」と思ったとしても反発するのではなく、まずは距離をとってみる、俯瞰してみる…ということができたら、世界はもっと平和になるんじゃないかな。

私をフォトグラファーにしてくれたのもアフリカ人をはじめとした先住民たち。自分にとっては友達や家族のような存在です。「●●族ってかっこいいね!」と言われると「でしょ? うちの子すごいでしょ?」とうれしくなります。私を救ってくれた彼らに少しは恩返しができたかなと。この先いつまで続けられるかは未知ですが、せっかく彼らから与えてもらった職業。一日でも長くつきあって、貧困や内戦、HIVだけでないアフリカのかっこよさを世界中に伝えていけたらと思います。


Oggi7月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/石田祥平 撮影協力/西武渋谷店 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

よしだなぎ

フォトグラファー。1986年生まれ。5歳のときにテレビで見たマサイ族に憧れ、独学で写真を学び、2009年より単身でアフリカに渡って先住民の写真を撮り始める。現在はアフリカやアマゾンの秘境や僻地で写真を撮りながら、講演で人間の美しさや面白さを伝える活動も行う。2017年、講談社出版文化賞 写真賞を受賞。写真集に『SURI COLLECTION』(いろは出版)、著書に『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)がある。ベスト作品集『HEROES』(ライツ社)が全国で発売中。

心がラクに、逞しくなる意識低めなビジネス書『ヨシダナギの拾われる力』

テレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS)で特集され、一躍、時の人となったヨシダさん。撮影のために世界各地を飛び回っているのに、実は内気で人見知り。できない自分を認めた上で受け入れ、自分の強みに専念する。その「ぬるっとやり抜く」哲学&仕事術を公開! ¥1,500(CCCメディアハウス)

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Oggi12月号で商品のブランド名に間違いがありました。114ページに掲載している赤のタートルニットのブランド名は、正しくは、エンリカになります。お詫びして訂正致します。
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